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かっこいい俺 後編



 俺は街の人からの視線で串刺しにされながらも、冒険者ギルドに着いた。

 相変わらずギルド内は騒がしく、そして、賑やかだ。


 俺は真っ直ぐ掲示板へと向かう。


「お兄ちゃん、ミリィが選んでもいい?」


「いいぞ。ルーと話し合って決めてこい」


「分かった!」


 ミリィはにへっと笑い、てとてと歩いていく。


 彼女達からすると、大人向けの掲示板の高さは身体に合っていないようだ。

 俺は2人を抱きかかえると、俺と同じ目線の高さまで持ち上げる。


「ラピ〇タ王の討伐依頼はないみたい」


 ルーは少しだけ眉毛をひそめた。

 ここらには強い魔物は滅多に出現しない。

 当然、クエスト内容も難易度が低いものばかり。


 まぁ、この世界にラピ〇タ王はいないけどな。


「お兄ちゃん、馬鹿の討伐は?」


「ダメだ」


 ストレスで禿げる未来しか見えん。


「じゃあこれ!」


 ミリィはクエストの用紙を1枚手に取った。


 猪血鯉という魔物の討伐依頼らしい。

 体長2mほどで、水中ではなく、空を飛ぶ(コイ)だという。

 

「よし、行くか!」


 俺は困惑する受付嬢さんを何とか丸め込んで、依頼を受けた。


 ただ、安心して欲しい。今この冒険者ギルドで昼間から飲んだくれている奴ら全員足しても、ルーとミリィには敵わないから。うちの幼女達は可愛くて強くて最強なんだぞ!


 ──けど、それをわかっていない奴もいるようで、俺がギルドを出ようとすると、チャラついた不良冒険者がこちらに近づいて来た。


「おいおい! 笑わせんなよ! お前、子連れで冒険か?」


 だいぶ酔っ払っているようで、特に嗅覚の強いミリィは顔を顰める。


「ガキのうちの片方は犬っころと来た。行先は奴隷商の間違いじゃねぇのか?」


 ケラケラと笑う冒険者。

 まぁ、酔っ払いだし、いちいち相手にしていても仕方ないよな。


「いやぁ、なんかすみませんね。すぐに出ていくので──」


 俺はご自慢のスルースキルで、どうにかやり過ごそうとしたのだが、それを許さない者がいた。


「貴方、大人のくせに。恥ずかしくないの? 平和な街に居座る害虫が偉そうな事言わないで欲しい。──自分が外で通用しない底辺冒険者だからって、自分より弱そうな人間を見つけて傷付けるのはクズのする事。さっさと死ぬことを進める。貴方みたいな人間はこの世界の利にならない」


「……」


 開いた口が塞がらない。

 まさかルーの口からこんな言葉が出てくるとは思わなかった。


「お兄さん、はやく行こう」


 ルーは俺の手を引くと、ペロリと飴をひと舐めした。


「……なぁ、ミリィ。ルーってあんなに怖い子だったっけ?」


「うん? 学校とかでも、いつもあんな感じだよ。スピカさんって人に、強く在る方法を聞いたんだって」


 あいつの影響か……。


「お兄さん何してるの?」


「な、なんでもない。行こうか」


 俺は未だに閑散としてしまった冒険者ギルドを出ると、命鯉がいるという草原に向かった。




 草原に着いたのは、午後3時を回った頃。

 そこから、目的の魔物に遭遇するまでには更に30分掛かった。


「これが猪血鯉……」


 一見すると、ただの鯉でしかない。

 血のように赤い鱗を持っているが、それ以外に変わった点はない。強いて言うなら魚のくせに宙に浮いている点か。


 早速、討伐の為に俺は刀を握る。


「行くぞっ! そーーい──」


『まっ、待ってよ! お兄はん。ワテを殺さんといてや!』


 早速討伐に取り掛かろうとしたタイミングで、鯉が喋りだした。


「凄い。魚が喋ってる」


「面白いお魚さんだねっ!」


 ルーとミリィは関心したように、その鯉に見入っていた。


『ワテには、病気の母がおるんや。母がどうしても、ウナギを食べたいっちゅうんで、はるばるこんなとこまで来たんやけど──』


 急に語り出した鯉。

 相手は魚なので表情は変わらないが、かなり饒舌に語ってくる。


『どうか見逃してくれへん? ワテにできることなら、なーんだってしたるわ。母にウナギを届けたら討伐されてもええ。せやから、今だけはどうにか頼む! この通りや!』


 この通りや! と言った猪血鯉は浮遊していた状態から、パスッと地面に落ちると、ぺちぺちとその場を跳ねだした。


「この通りってどの通りだよ。これに一体この行為に何の価値があるってんだ……」


「お兄ちゃん。この猪血鯉さんにも事情があるみたい。討伐はやめてあげよ?」


「私も賛成。ちょっと可哀想」


 絆された幼女二人。

 ぺちぺちと地面を跳ねる鯉。

 俺。


 シュールな絵面だなぁ。


「……わかったよ。今回は見逃してやる」


『ほんまか? ありがとう。お兄はん命の恩人や』


 再び浮遊した猪血鯉は土の着いた体でふよふよと泳ぎ回り、喜びを表現する。


 猪血鯉──命乞い、か。


 今回は俺の負けだぜ。


「元気でやれよ、じゃあな!」


 俺はミリィとルーと共に踵を返す。



「……やっぱりなぁ!!!!」


 俺は振り向き様にアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉を振るい、猪血鯉を一刀両断した。


『なんや……と』


 猪血鯉:魚型の魔物

  備考:命乞いをして冒険者を油断させ、背を向けたところで、猪のように突進してくる。殺した冒険者の数だけ、血に染った数だけ、鱗が赤くなる。


 あまりにも必死に命乞いしてくるものだから、若干絆されかけてしまった。

 だが、相手は魔物だ。最後まで油断しなかった俺の大勝利といったところか。


 ただ、今の華麗な一閃で、ミリィにも俺のかっこいいところを見せる事ができたのではないだろうか。


「どうだった? ミリィ。俺、かっこよかった?」


「ううん。お兄ちゃん卑怯だよ! あんなに必死に命乞いしてたのに……。まさか、見逃す振りして油断させたところを斬るなんて……」


 俺に尊敬の眼差しを向けているはずだったミリィの目は、軽蔑を宿していた。


「い、いや、違うぞ! あれは俺たちを騙そうとする演技で──」


「お兄ちゃん、全然かっこよくない!」


 ──ガーン。


 どうやら俺は、今日も一日かっこいいところを見せることはできなかったらしい。


 かっこいいと思われる行動とは、存外、観測者側の心理に依存するものなのかもしれない。

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