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ちょっと長いです。

後で修正する可能性があります。



「イギャャァァァァ!!!!」


 突如、ジャヒーは呻き声を上げる。

 かと思うと、その場に蹲り、苦しそうにもがき苦しみだした。


「おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 ジャヒーは怒りに充ちた形相で、その原因を睨みつける。

 そこに居たのは、紫髪のエルフ。未だに酔いの覚めきっていないエレナだった。


「ダメです……急に動いたからっ……おろろろろ」


 口からキラキラと光るものを吐き出すエレナ。

 それに対し、ジャヒーは大袈裟に避ける。


「何だ、それは……」


「聖水だよ」


 ジャヒーの問に答えたのは翔太だ。

 狂化スキルは仲間との共闘で使うにはデメリットが大き過ぎる。ゆえに、闘争心を何とかねじ伏せて、スキルを解いたのだ。


「聖水……だと?」


 エレナが口から零した聖水は、触れただげでも、悪魔であるジャヒーには堪らない苦痛となる。


「そうだエレナ! おしっこだ」


 いつの間にか建物の瓦礫でコップを作っていた翔太は、エレナにそれを差し出した。


「い、いまですか?」


 普段なら、即拒否だろう。

 しかし、呂律は回復しているとは言え、相当酒を飲んでいるエレナには正常な判断ができていなかった。


「今すぐだ。頼む、ルナの妹の命が掛かってるんだ!」


 翔太に催促され、ついには下着を下ろしてしまう。

 髪色に合わせた紫色の下着は、膝の辺りで止まる。


「ふっ……ふう」


 エレナは覚悟を決めるように深呼吸をする。が──


 突如翔太の身体が、有り得ない速度で飛び──壁にめり込んだ。


「あんたはシラフでしょうが!」


 そこに現れたのは光の勇者リシア。

 真っ白なワンピース姿に聖剣というミスマッチな姿。

 しかし、よく映える。


「お、お前……ドジっ子キャラから、暴力ヒロインに転職したのか? 最近暴力多くないか?」


 翔太はそんな事を訴えながら瓦礫の間から出てくる。

 

「エレナも流されちゃダメでしょうに」


 リシアはエレナにパンツを履くように命じて、ため息を吐く。全くこいつらは、そう言いたげな眼差しだ。


「厄介そうな仲間が増えたものだね」


 このやり取りの間に傷口を修復したジャヒーは、落ち着きを取り戻した様子で、対峙する。


「翔太、魔力の吸収を抑えて」


 リシアは吸魔の解除を要求すると、翔太はそれに従った。


「聖・空・救・慈──」


 それらしい漢字の羅列。


 リシアが聖剣を構えると、足元に魔法陣が形成されていく。それはやがて白い光となり、リシアを包む。


「悪魔狩りは私の専売特許だもの!」


 光の勇者であるリシアは、悪魔と敵対した際にもバフが掛かる。

 倍以上にステータスが上がったリシアは勢いよく地を蹴りつけ、ジャヒーに肉迫した。


「【狂化ランク1(ディメント・ワン)】」


 翔太は、理性を失わない程度にも抑えた狂化スキルを発動し、リシアに続く。


 ……エレナは部屋の隅に蹲ってキラキラをおろろろしている。


 魔力の解放されたジャヒーは、召喚魔法で電撃の槍を生み出すが──


「マジかよ……」


 リシアはその全てを剣圧で弾き飛ばした。


 ──デタラメ過ぎる……


 翔太がリシアの光の勇者としての姿を見たのは、これが初めてだ。まさしく光の速度。

 肉眼では追うことのできない速さで舞うリシアは、ジャヒーのとる行動全てを無効化していく。


 翔太はそんなリシアの姿に圧倒されながらも、隙を付いて剣を振るう。


「邪魔をするな、劣等種が!!!」


 再び胎動する空間。


 周囲に散りばめられた無数の魔法陣から、魔力弾が乱射される。


「【クリエイト・ロックゴーレム】!!」


 翔太は瞬時に発動した創造魔法で土の壁を作ると、魔弾を防いだ。それに対し、リシアはその全てを躱しているのだから、翔太は苦笑いを浮かべる他ない。

 しかし、そんな時でも──


 ……エレナは部屋の隅に蹲ってキラキラをおろろろしている。


「翔太、どうすればいい?」


 いつの間にか翔太の隣に立っていたリシアは聖剣で魔弾を弾きながら問う。


「殺すだけなら、簡単だけど、そうじゃないんでしょ?」


「ああ。できれば……というか、絶対に、それだけはダメだ。あの悪魔だけをどうにか取り除きたいんだが……」


「……理沙ちゃんを連れてくるべきだったかもね。打つ手がないもの」


「もうお手上げなのかよ!!!」


 ──あれだけかっこよく登場しておいて、もうギブなの?


 聖女による浄化ならば、もしかするとこの状況をどうにかすることができたかもしれない。

 しかし、今の翔太とリシアにはその能力はない。


「だから言ったじゃないか。 身体を返して欲しくば、契約しよう、と。君たちに取れる手段なんて、元からなかったのさ」


 ニヤリと笑うジャヒー。

 

「貴女は……何を対価にすれば、その子を返してくれるの?」


「君は交渉するつもりがあるんだね」


 交渉を突っぱねた翔太に対し、リシアはその悪魔の囁きに耳を貸すことを選んだ。──耳を貸してしまった。


「なら……君の身体を貰うよ。契約成立だ」


 一方的な受理による契約の成立。

 しかし、常識は通用せぬというように、ジャヒーは一瞬でリシアに近づくと、そのまま額を重ねた。


 ──そして


「あっははははははははははは。いいね。この体。実にいいよ!」


 これまでの嫌な笑みを浮かべることはなく、ジャヒーは高笑いを続けた。


「ざけんなよ。ぐうの音も出ないお決まり展開過ぎるだろ。お前はドラゴ〇ボール界の住人か!」


 翔太はギリィッと奥歯を噛み締める。


 焦る翔太。しかし、不運には不運が重なるのが現実というものである。


 これから始まる第2回戦にアルビナを巻き込まぬよう避難させたところで、最も聞きたくない声が届く。


「しょーた何してるの?」


 泣きじゃくるルナを抱えて転移してきたのは魔王のペトラだ。アルビナには決別宣言をしたものの、どうしても耐えられなかったルナはペトラに頼み、ここまで連れて来て貰ったのだ。


「ペトラ! お前は今すぐ帰れ!」


 聖剣を持つ者がペトラと敵対することだけは、絶対に避けなければならない。

 それだけペトラのステータスは異常なのだ。


「君は……! ああそうかい……まさか、君たちが魔王レミレの仲間だったとはね……これで生かす理由がなくなったよ」


 いつもは白い光に包まれていた聖剣も、今では赤黒い光で燃えている。


 ──まずい。


 ペトラと同等のステータスを持つ者がもう一人現れたとなっては、この地だけでなく、国そのものが危うくなる。


「【涙音(クライネ)


 翔太が発動したのは、ある程度周囲から魔力を吸収することで発動できる、周囲へのデバフスキル。

 彼女達のステータスを考えれば、効果はすずめの涙ほどだろうが。


「……しょーた。あんまりナメられると、困るなぁ」


 その瞬間、ペトラはジャヒーの右腕を蹴り飛ばした。

 それだけで、肘から先が弾丸のような速度で飛び消えていく。


「聖剣がなければ、リシアの体も、所詮は人間のものでしょう?」


 つまりはそういう事だ。

 ペトラが一瞬にして捥ぎ取った腕に握られていたのは光の聖剣。武器が手元になければ、バフ効果は発揮しない。


()()には、()が、こんな羽虫一匹抑え切れない子供に見えたのかな?」


 ジャヒーの胸ぐらを掴み、殺意を撒くペトラ。


「私と互角に戦えたのは、リシアにそれだけの意志があったからだよ。いくらステータスが高くても、それだけで追いつけるほど、魔王は弱くない」


 突如、カタカタと揺れだすリシアの体。


 そこにあるのは、底知れない──恐怖だ。


「きっ……き、君が月を砕いたせいで私は──」


「夜空に爛々と輝く月が悪い。借り物の光のくせに、我がもの顔で夜空に居座るなんて、不愉快だよね?」


 ペトラはニコリと笑う。

 そう、まるで悪魔のように……。


「そんな……理不尽な」


 ぺたりと座り込むジャヒーに、ペトラは更に続けた。


「リシアに引き分けて初めて死にかけた日……翔太に命を救われたあの日から、私の中で、明確に変わったものがひとつだけあるの」


 さらに殺意が増し、高濃度の霧が生じる。

 その場で見ていた翔太やルナ達でさえも、汗が吹き出し、足が震えだした。


「争いなんて大嫌いだったけど、もし気に入らない奴がいたら積極的に殺そうって、私、決めたの」


 あまりの恐怖と圧力。

 魔王の瞳に広がる底知れぬ闇。

 

 耐えきれなくなったジャヒーは、その場で失禁した。


「あっ……あああああああ、いやぁぁぁぁぁ!!!」


 体が聖水で濡れたことによるダメージで、ジャヒーは叫び声を上げる。

 

「痛い、イタイっ……痛い痛い痛い痛い痛い痛い」


 そして、ついには耐えきれず、リシアの体から飛び出した。


「しょーた! そっちいった!」


 殺気をしまい込んだペトラが、翔太に指示すると、彼は慌てたようにして刀を構えた。


 狙いは恐らく、彼の後ろにいるエレナだろう。

 

「【愛音】」


 それはアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉の持つチャージスキルで、ジャヒーが迫るギリギリまで魔力を蓄える。そして──


「【勝道】」


 翔太はジャヒーを一刀両断した。



 ──辺りを静寂が包む。


 翔太は「やったのか?」というセリフを喉元で飲み込み、敵感知の反応がないことを確認する。


 あまりにも呆気ない幕引きに、心が休まらない。


「お疲れ様」


 少し浮かない顔をしたペトラが、翔太の元へと寄っていく。


「ペトラのこと……怖かった?」


 翔太がリシアとペトラの力を見たのは今回が初のことだ。


 かつてペトラはその強大過ぎる力故に、人々から恐れられた。──本当は争いを嫌う、3歳児だったというのに。


 ──普通に怖ぇよ!


 翔太は内心ではそう思ったが、ペトラの顔はその言葉を恐れているようだった。


「ペトラが来てくれて助かったよ。帰れなんて言って悪かったな。これほど頼れる仲間がそばにいたってのに、何ひとりでどうこうしようとしてたんだか」


 翔太は申し訳なさそうに笑いかける。


 ペトラはいつもと変わらない翔太のその笑顔を見て、心底安心したように微笑んだ。


 しかし、それはそうとして──


 気絶したアルビナに付着したキラキラを拭き取るルナ。

 おろろろと蹲るエレナ。

 右腕をもぎ取られ、失禁したリシア。


 ほぼ大破した娼館。


 後始末が大変なものばかり。


 翔太は聖剣を握りっぱなしになったリシアの右腕を回収すると、そのまま回復魔法で接着する。


 四肢の欠損は、黒の方舟では日常茶飯事なので、その動きは慣れたものだ。


「見てみて! しょーた見て! リシアがおもらししてる!」


 厳密に言えば、その失禁はリシアの身体を操っていたジャヒーによるものなのだが、ペトラからすれば、それは関係のないこと。


「こいつの不幸体質って、ちょっと可哀想過ぎないか……?」

 

 翔太はため息を吐いて、リシアとエレナを魔法袋に収納する。


 ──まさか戦闘になるとは思っていなかったとは言え、今後のためにもお酒の飲み過ぎは、控えさせたほうがいいな。


 不憫な勇者の明日を思い、翔太は家へと帰宅した。

お読みいただきありがとうございます。

少し話がごちゃついたため、修正する可能性があります。


次話もお読みいただけると幸いです。

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