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事情


 俺は金を払って、ペトラの元まで戻る。

 おばさんはホクホクのいい笑顔だった。


「ペ、ペトラ様……お久しぶりでございます……」


「うん。久しぶりだね!」


 ルナとペトラはぺこりと再開の挨拶を済ませる。

 縮こまってしまったルナに比べ、ペトラはいい笑顔だが、多分こいつ、ルナの事憶えてないな。

 そんな感じの笑顔だ。


「よし。話は後でゆっくり聞くとして、まずは飯でも食いに行くか?」


「いやニャ! 風呂が先ニャ!」


 この女、意外と図太いな……。


「彼女も臭いとか気になるでしょ? 女の子だもん!」


「そうですニャン。もう1ヶ月近くお風呂には入ってないんですニャ」


 ペトラ、お前、普段は彼女なんて言葉使わんやろ。

 憶えてないの丸出しじゃねぇか。


「じゃあ、先お家に帰ろうか。ルーニャン」


「うんうん。そーしよう、ルーニャン」


 俺の言葉に、ペトラが続く。

 この様子だと、多分ルーニャンが正式な名前だと勘違いしているのだろう。ただのあだ名だっつーの。まぁ、面白いから黙っておこう。


 俺たちは人通りの少ない場所に移動して魔法袋に入ると、ペトラの転移魔法でお家に帰った。




 ルナがお風呂に入っている間、俺は服の調達を行う。

 調達と言うよりは、依頼と言うべきか。


「ミラ〜。女の子が着る服を30分くらいで作って欲しいんだけど、できる?」


「ヒヒッ。任せてください……簡単なものでしたら、直ぐに出来ますよ……フヒヒヒッ」


「近い近い! お前、顔はすげぇ可愛いんだから、そんなに近づかれるとこっちだってドキドキするわ! 気をつけてくれよ!」


 鼻先にアデルミラの黒髪が触れる距離。

 これが彼女が会話をする際の距離である。

 なんで女の子って、同じシャンプー使っててもいい匂いするんだろうな。ほんと、謎だわ。


「……ふひひひひひ」


 なんか、ちっちゃくなって、もじもじしてる。

 え、もしかしてアデルミラ、可愛いって言われたの嬉しかったの? ……意外と乙女なんだな。


「あ…あの、身体の大きさは……?」


「身長は162cm、体重は45キロくらいかな? スリーサイズは上から84、52、86だな。飯食えばもう少し体重も増えると思う」


 もちろん、この数字はほとんど正確だ。

 俺の鑑定眼をナメるなよ!

 

「……鑑定眼にそんな能力ありませんよ……ひひひ」


「これはスキルじゃなくて、グラビア雑誌を漁って身につけた俺だけの固有スキルなのさ!」


 人はこれを変態と呼ぶらしいが、知ったことじゃない。

 俺はしゅぱぱぱぱーっと布に針を糸を通していくアデルミラの手を眺める。


 防具錬成士であるアデルミラは黒の方舟の制服を含め、家族の服飾を担当している。

 防具と定義すれば、私服まてま作ることが可能で、俺が普段着ている服なんかもかなり耐久力がある。


「ケケッ……こんな感じでよろしいでしょうか?」


 しばらくして完成したのは、黒いレースのシャツに、ホットパンツ+下着上下。

 めちゃくちゃオシャレだ。


「やっぱりミラのセンスは最高だわ」


 アデルミラとルナは面識がない。

 にも関わらず、俺が与えた情報だけでこんなにもいい感じの服が完成するのだから、感動しちゃうね。


「ふひひッ……それから、これを」


 そう言ってアデルミラがある物を魔法袋から取り出した。

 

「ナイス! わかってんな! ミラ!」


 俺は思わずといった形で、ミラを抱きしめる。

 傍から見たら貞子に抱きつく不振者の図だ。


 俺はアデルミラが手に持つニーソックスを受け取ると、ルナのいる2階へと向かった。


 ──コンコン


 脱衣場の扉をノックする。

 返事はない。


 まだ、お風呂かな。


 俺はそのまま脱衣場の扉を開け、風呂の中にいるルナに声をかける。


「着替え、ここ置いとくからな〜!」


「はーい」


 あいつ、ニャンをつけ忘れてやがる。

 後であいつの尻尾をマフラーにしよっと。


 俺は階段を下り、再び地下3階に戻る。

 この時間は、戦闘職に就いている人は特訓中だし、他の人も仕事があったりして、家に残っている人数はそんなに多くない。


「今のうちに寝とくか」


 多分、後10分もすれば風呂から上がってくるだろう。

 昨日もかなり遅い時間まで店を回ったし、ちょっと疲労が溜まっている。


 俺はネギまの背に乗ると、やがて舟を漕ぐ。

 クハクが胸元に擦り寄ってきた頃にはもうほとんど意識は夢の中。すぐに、俺は意識を飛ばした。




「久しぶりね」


 夢に出てきたのは女神様。

 確かに夢で会うのはかなり久しぶりだと思う。


「けど、会話くらいなら毎日してますよね?」


 寂しがりやな女神様は家にいる間はよく話しかけてくる。

 大概はくだらない話なのだが、彼女が楽しそうにしてくれているのは結構嬉しい。


「あなた、もしかして恋人とかできても、ほぼ毎日電話してるし、デートは2ヶ月に1回でいいや〜って言うタイプ?」


「いや、俺もたくさん会いたいタイプですけど……夢の場合って、会う会わないは全部女神様の都合ですよね?」


 夢を操っているのは、あくまで女神様である。

 俺がどうこうできるような話じゃないのだ。


「あなたムムって子にいい夢見せてもらってるじゃない! そこに私が割り込んだりしたら怒るでしょう?」


「怒りませんよ! 遠慮せず会いに来てください! 俺だって会いたいですから」


「嘘ばっかり!」


 ぷいっと顔を逸らして、腕を組む女神様。


「ほんとですよ。女神様」


 俺は苦笑いでそう言った。


「けど、あなたから夢で会おうって言ってくれないわよね?」


 今度は拗ねたような上目遣い。

 可愛いなぁ、もう。


 けど、それは……確かにそうだな。

 その手の約束は取り付けたことない。

 ……じゃあ、先程の女神様の話を照らし合わせると、俺は彼女とデートする際、全部向こうに誘わせてるってのと同じってことか?


「ごめんなさい。女神様」


「まぁ、わかればいいのよ。わかればね!」


 だいぶ満足した様子の女神様はうんうんと頷いている。


 で、なのだが。

 女神様が俺を呼び出す時は、大抵用事があるときだ。

 恐らく今回も、例に漏れず、何か訳があるはずなのだが……。


「地球にはこんな言葉があるわよね。男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる。ってやつ」


「あー、聞いた事あります」


 というか、同意。

 大人になれば、考え方も変わってくるとは思うけれど、初めての彼女は向こうも初めてであって欲しいとか、そんな期待も少ししてる。

 処女厨なんて言葉があるくらい、男には最初であることのこだわりを持つ人が多いらしいのは事実だろう。


「漫画のメインヒロインが幼馴染でしかも可愛い妹キャラだったとしても、非処女だったら秒で読むのやめますもんね」


「そうね。それに比べて、少女漫画の男は女性経験豊富なクラスの人気者だったり、不倫ものが多かったりするわ」


 確かに、そんなような気がする。

 少女漫画は夏〇友人帳くらいしか読んだことないけど、イメージ的には女神様が言ってる通りだ。


「それで、なんだけどね。……あなた、この前他の子とキスしてたでしょう?」


 女神様は少しだけ顔を赤くして、そう言った。


「え、見てたんですか……」


「私は神よ? 女神なのよ? 下界を見守る女神なのよ?」


 見てるだけで、守ってはないように感じるのだけれど、そこにツッコむのは野暮だろう。


「……で、さっきの話になるんだけどね……。その、最後の相手、塗り変わっちゃったでしょ?」


 声が小さくて上手く聞き取れなかったが、言いたいことは大体わかった。


 そう。つまりはそういうこと……。

 

 手汗が一気に滲んできた。


「え、えっと……」


 俺が狼狽えている間に距離を詰めて来た女神様が、いつの間にか俺の胸に収まっている。


 女神様の熱い吐息が鎖骨を撫でた。

 

 少し下を向けばそこには女神様の顔。

 うっとりとした丸い瞳は真っ直ぐに俺の目を見つめる。


 俺は彼女の背に腕を回し、僅かに空いた隙間を埋めるように抱き寄せる。


「さっきの子のぶん……上書きだね」


 アデルミラに抱きついたやつの事か……。

 くそっ……可愛過ぎるだろ、女神様。


 思わず視線を外し、天を仰ぐ。


「ふっ、ふぅ……」

 

 俺は息を整ると、再び女神様に向き直る。


 そのままゆっくりと顔を近づけ──そっと唇を重ねた。



「ありがとう」


「い、いえ、こちらこそ……」


 俺、天罰でも当たるんじゃないだろうか。

 控えめに言って至福の時間だ。


「ねぇ、あなたがこれから先誰と関係を持っとしても、私の初めての相手はあなたで、あなたの初めての相手は私なのよ? それだけは忘れないでね?」


 少し妬いた様子の女神様は、そう言って俺の首筋に顔を埋める。

 いやらしい気持ちになるというよりは、その温もりだけで満たされるような、そんな感覚だ。


 キスひとつでこんなにも満足してしまう俺は、存外乙女チックな男なのかもしれない。


 嗚呼、夢から覚めたくねぇなぁ。




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