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因縁と呪い


 俺ってさ、決めるところ決められないんだけど、これって何かの病気なのかな。


 称号欄には特にマイナス効果のある称号はないみたいだけど、如何せん俺の決まらなさは異常過ぎる。


 過去を振り返っただけでも、何個あるだろうか。

 特に印象に残っているのが、


 冒険者ギルドで絡まれたが、自分の方が弱かった。

 カロリーヌを攫ったリールドネス連邦国の兵士に挑む時、セリフを噛んだ。

 オリヴィアが死にかけた時、俺は傍観者だった。×2

 オリヴィアが婚約破棄された時、お喋りに夢中だった。

 リシアとのキスを逃した。

 

 これや。


 自分の情けなさに涙が零れそうになる。

 せっかく異世界に来たのだから、物語の主人公っぽく、バシッと決めたいんだけどね。現実は上手くいかないよね。




「この子達に手を出すのはやめてもらえませんか?」


 俺は小さな子供たちを背に庇う少女の前に割り込み、男達と対面する。


 日本で会っていたら速攻で土下座するような怖い人達だが、ここは異世界。ステータスが高いのは俺の方なので、なんとか二本足で立つ余裕がある。


「あ? お前らこのガキ共のなんだ!?」


 お前らだってよ! ほらキノ! 早く答えろよ!


「黙ってんじゃねぇぞ、ゴラァ」


 ほら、怒ってんじゃん!


「この子達は俺の知り合いの子で、面倒見てるんですよ。なんで、あんまり怯えるような事はしないで欲しいですね」


 ここでオドオドしてしまえば、きっとこいつらは余計に付け上がる。なら、あくまで自然体で対応するべきだ。


「チッ……。まぁ、いいわ。目的はもう済んでるしな。お前の知り合いの子ってのはこれだけか?」


「はい?」


「頭巾の女は?」


「いえ、知りません」


「そうかよっ!」


「うっ」


 男は去り際に一発、俺の腹に蹴りを入れて帰って行った。防御力のお陰で打撃の痛みはないが、鳩尾に喰らったせいで内蔵がダメージを受けたらしい。割と痛い。


「あるじって、なんで他人に対して、そんな腰が低いんですかー? ぶん殴っちゃえば良かったじゃないですかー」


「嫌いだからだよ。暴力振るって、人を傷つける事が、強いとか偉いに繋がるって考え方も、相手を尊重しないやり方も。俺、頑張って見栄張ってるけどさ、少し前までただの高校生だったんだぜ?」


 そりゃ、矛盾だってあるし、人殺しがただの高校生を名乗るのも変かもしれねぇけどさ、力を得たって心までは簡単には変われないよな。


「お前も、人より強くなったからってイキってっと、そのうち痛い目に会うぞ?」

 

「あるじはとっても平和な国から来たんですねー。私は正直賛同しかねます。力を持つ人間が、生き残り、他を支配する。そういうもんだと、私は思いますけどねー」


「お前はそういう奴だったな」


 彼女の生い立ちは軽く聞いた事があるが、まぁ正直言って明るく語れるような話じゃない。

 自分の容姿にあれほど執着するのも、彼女にとっての、唯一の武器だったからだ。


「……やっぱり、敵いませんよ。持たざる身では……」


 キノにとっては、まだ精算し切れていない過去なのだろう。

「まぁ、それは一旦置いといて、だ。君たちは大丈夫だったかい?」


 俺の前に立つのは12歳くらいの女の子と、恐らく1桁年齢の男の子2人に女の子1人。


 先程の男たちは頭巾の女、と言っていたが、この子達も全員頭巾を被っている。


「あ、あの! えっと……」


「大丈夫だよ。ゆっくり話してご覧?」


 俺は少女達が怯えないように、しゃがみ込み、目線を合わせる。


「お姉ちゃんが連れて行かれちゃったんです……多分さっきの人の仲間です。 あ、あの! お姉ちゃんを助けてください!」


 あまりにも必死な表情。

 この子よりも年上の女の子、となれば、捕まった後の未来を想像するのは用意だ。


 俺はキノの方に振り返ると、彼女は真剣な表情で頷く。


「わかった。みんなのお姉ちゃんは、俺が見つけてくるよ」


 俺は暗い気持ちを覆い隠しながら、微笑む。


「ありがとうございます!」


 ガバッと頭を下げる少女。


「うっ痛ぅー」


 その頭が俺の顔面にクリーンヒット。鼻っ面に鋭い痛みが走る。


「その締まらなさは、本当に呪いかもしれませんねー」


 そうかもな。まぁ、それはいいとして。


 攫われた姉を取り戻して欲しい、と言われても何処にいるのかわかんないし、手の打ちようがない。


 対処法を考えたが、無理そうなので何でもできそうなクハクを喚ぶ。


 使い魔召喚ってやつだ。


「うっぷ。鼻が曲がりそうでございます……」


 ああ、嗅覚が人間より強い生物にこの環境は辛いか。


「悪いなクハク。実は探してる人がいてな──」


「見つけました。念話でナビゲートしますゆえ、ワタクシは袋の中に入らせてもらいとう存じます」


「あ、ありがとう。そうしてくれ」


 優秀かよ。

 確かクハクは俺の思考が読めるらしいので、多分少女に対する情報を全て読み漁って嗅覚か何かで追跡したのだろう。


 いや、それにしても仕事が早すぎる。


『右に行って左に行って右でございます! そしたらあっちにびゅーんです!』


 ……仕事は早くて助かったが、まさかのナビゲートの方がめちゃくちゃ下手くそだ。


 まぁ、急に呼び出したんだし、文句言ってる暇じゃないな。手遅れになる前に、早く助けに行こう。



 俺はキノが追いつける程度の全力ダッシュで入り組んだ貧民街を抜け、やがて近くの街へとたどり着いた。


『ここでございます』


 目の前にあったのは貴族の屋敷。

 かつて俺が大金を盗み取った屋敷だ。




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