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ここは異世界



「私と一緒いるのに、別の女の事考えてませんかー」


「お前はエスパーか!」


 ただ、なんて言うんだろうな。

 こっちの世界に来てから、勇者とか賢者とか聖女だとか、巫女だとか、強そうな職業の名前を聞くと敏感に反応するようになった。


 異世界中毒かもしれん。


「おんぶして下さい」


「は? やだよ。むしろ、お前が俺をおんぶしろよ。奴隷だろ!」


「私は怪我人ですよー? 鬼畜ですか……」


「回復魔法掛けてやっただろうが」


「私は一応あるじより年上ですからね? 敬ってくださいよー」


「断る」


 夏も近づいてきて、夕方でもそんな気温が下がらなくなってきたわけだし。暑いと重いのダブルパンチで、俺にとって利点が全くない。


「あるじ、こっち見てください」


 俺はくいっくいっ、と袖を引っ張るキノの方を振り向く。


「私、美人ですよね?」


「ああ、まあ可愛いな」


 何度も言うが、美人よりは可愛いに近い。

 彼女は彼女で自分を美人だと、何度も言うが。


「今なら、美人をおんぶ出来るチャンスですよー?」


 なるほどな。中身が少々アレなせいで、忘れてたけど、可愛い子との接触は確かに俺にとって利点と言える。


「ほらほらー、私、膝痛いし、疲れちゃいましたー!」


「いや、いいや。めんどいし」


 年上だというのなら、もっと年上らしいか振る舞いをして欲しいものだ。


「とりあえず、もうすぐでレベッカの店に着くから、そしたら糖分補給して、さっさと帰ろう」


 俺は駄々をこねるキノを何とかその気にさせ、レベッカの店へと向かうのだった。



 ──翌日。


「あるじー、いい作戦思いついたんですけど、聞きますー?」


 教会の地下一階にあるソファでゴロゴロしていたキノはドヤ顔で口を開いた。


「いや、別にいいや」


 なんか、顔ウザいし。ちょっと上から目線なのもムカつく。


「はぁ、素直じゃないですねぇー。今回は特別に、とーくーべーつーに! 教えてあげますよ」


「いや、いいって」


「貧民街へ行きましょう! あそこなら仕事のない人間がわんさかいます! 街で声を掛けるよりは全然効率的だと思いますよ!」


 ……なるほどな。

 断ってるのに勝手に話したキノだったが、言っている事は割とまともだった。

 確かに、昨日街を歩いてる人に声をかけた結果、9割は仕事をしてる人だったし、その考えは悪くない。


 善は急げ! 早速向かうとしよう。


「では、じゃんぷ!」




「着地」


 はい。貧民街に着きました。


 王都近くに流れる川で隔てられたこの街は簡易的に作られたボロい家々が並んでいる。


「この臭い、いつ来ても慣れませんよねー」


「つっても、一昨日雨が降ったばっかりだしな。幾らかマシな方だと思うぞ?」


 入り組んだ道を歩いて行く俺たちを様々な視線が射る。


 泥水を啜って生きる、という言葉があるが、文字通り、水溜まりの水を飲んで生きている子供を見てしまうと、さすがに胸が締め付けられる。


 俺はリシアとペトラに巡り会えたから良かったものの、場合によってはこんな風に草を食って雨水飲んで生きる可能性もあったわけだ。


 俺はアニメや小説の主人なんかじゃない。

 人生が喜劇で終わる保証もなければ、明日すら未定の身。

 浮かれてもいられない。


「あるじー。自分で言っておいて何ですが、こっから探すのって大変そうですよねー」


 明らかに歓迎されていない。

 色々な思惑はあるだろうが、好意的な視線はひとつもない。


「確かに、これは地道にいくしかねぇな」


 こうして、俺とキノの保育士募集が始まった。



「みんな、顔が怖すぎて子供をあやせるとは思えませんねー」


 みんな、今日を生きるのに必死な身。

 鼻くそほじっててもおかしくないような間の抜けたキノとは面構えが違う。


「あるじー、いちいち私をいじめないと話す事もできないんですか……?」


 眉毛を八の字にするキノ。

 割と落ち込んでるみたい……。


「ごめんごめんって。ほら、次、あそこの人に聞きに行こう?」


 俺は壁にもたれ掛かる女の人に声を掛けに行く。

 さっきからずっとこっちを見ていたので、もしかしたら話しくらいは聞いてくれるかもしれない。


「あの、お姉さん、今、保育士の先生をさ…が……」


「あるじーこの人はもう……」


「ああ。そうだな」


 俺が話し掛けていたのは女性、だったもの。

 ずっとこっちを見ていたように感じたのは、目を見開いたまま死んでいたからだ。


 へんじがない。 ただの しかばね のようだ。というセリフも実際本物の死体を前にすると、不謹慎極まりないな。

 

 もしかしたら、あの世界の勇者は数多の命を見送り、死体を見ても動じない心を手に入れたのだろうか。

 楽しんでプレイする俺とは裏腹に、あの勇者は何度も心で涙を流しながら、冒険していたのかもしれない。


 俺は女の人の亡骸に手を合わせ、その場を後にした。


「ハズレでしたねー、次行きましょうか!」


 こんな時でもキノはマイペース。

 居心地が悪い程の温度差を感じる。


「私の育った村でもこんなのは日常茶飯事でしたからねー。昨日話した人が翌日亡くなってる、なんて事もよくある事です」


 ここもそういう世界ってことだよな。

 自覚してなかっただけで。


「ただの死体なんかにいちいち心を痛めるような人間、普通はいません。……けど、私はそれをあるじの美徳だと思いますよ? 誰かに指を指されても、例えそれを偽善だと笑われても、私はこれからもあるじにはそうであり続けて欲しいですね」


「なんだよ急に。シリアスな事言い出しやがって」


 口調もかなり真面目なものだ。

 彼女は彼女なりに、俺のことを認めてくれている、という事だろうか。


「まぁ、そんな訳でー。あの子の事、助けて上げてくださいよー」


 そう言ってキノが指さす先には武装した男数人に囲まれた少女が、小さな子供を背に庇うようにして対面していた。


 男達は武器を手に持っているのを見るに、楽しくお話しているわけではないだろう。


「カッコイイところ見せてくださいねー?」


「そうだな」


 深い深呼吸を一つして俺はその輪に入っていく。


「あ、あのぅ、その子たち怖ぎゃってるじゃないでしゅか!」


 盛大に噛み倒した俺。


 何故だろう、ドブや汗、様々な臭いが混ざった貧民街のはずなのに、どういう訳か、懐かしい臭いがした。


 

ブックマーク、評価ありがとうございます!

多分明日か明後日に、総合評価1000ptいきそうです!


メガトン嬉しい!!!


本作品は僕にとっても生まれて初めて書いた物語になるので、ここまで読んでいただけた皆様には感謝しかありません。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします!

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