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おい、ペトラ



「お゛ねぇ゛ぢゃぁーーーーーんい゛ぎででよがっだよー」


 2人を説得して、家に招待された俺たちは、広いとは言えない部屋の椅子に腰掛けている。


 リシアの妹はずっと泣きっぱなしで、今も腰に引っ付いて涙を零している。


「ウチの妹が世話になっているらしいな」


 爽やかな笑顔で、水の入ったコップを差し出してくる兄。リシアとは結構顔が似ている。


「田舎者は茶も出せないのか……」


 ボソリと呟いたペトラの脇腹を肘で突き、コップに口を付ける。


 恐らくリシア兄には聞こえていないだろうが、そういうの、マジでやめて欲しい。


「何も無い所ですまないね。見ての通り、畑しか無い所でさ」


「いえ、のどかで良いと思います。緑豊かで」


「ハッハッハ。君は街から来たのだろう? いいんだよ、本当のこと言っても」


「虫はうるさいし、なんも無いし、もう飽きた! ペトラもう帰りたい!」


 馬鹿か! 本当のこと言っていいと言われて、本当のこと言ってどうすんだよ。


 リシア兄、ビックリして目丸くしちゃってるじゃんか。


「すまないね。大したおもてなしもできなくて」


「いえ、そんな事ないです。こちらこそ、急に押しかけてすみません」


 あくまで急に訪れた俺達が悪いのであって、リシア兄は何も悪くない。

 アポとったからと言って、対応が変わるとも思えないが、それでもここは相手の顔を立てるべきだ。空気を読むべきだ。

 

「まぁ、何も無いところだけれど、ゆっくりしていってくれ。リシアの話も聞きたいしね」


 リシア兄は爽やかな笑みを浮かべて、そう言った。


 いい人だ。この人、めちゃくちゃいい人だ。


 俺はペトラが余計な事を言う度にフォローを挟みながら、トークに花を咲かせるのであった。





「ただいま〜ってあれ? 玄関が壊れてる」


 しばらくして、玄関の方から声が上がった。

 リシア妹はスタスタスタと玄関まで走っていくと、そちらで声を上げる。


「お父さん、お母さん、おかえり〜」


 どうやらご両親は一昨日から狩りに行っていたらしく、ちょうどこのタイミングで帰ってきたみたいだ。


「あら〜、お客さん? ……え? リシア?」


「うん。お母さん、ただいま」


「あらあらあら〜。お父さん! リシアが帰ってきたわ〜」


 親子感動の再開。

 リシアは少し照れくさそうに、母と抱き合う。

 父の方はこちらに軽く会釈をすると、苦笑いを浮かべていた。



「すみません。お邪魔しちゃって」


「いえいえ〜、いいのよ〜。今日はちょうどイノシシのお肉も獲れた事だしね、ご馳走にしちゃいましょう」


 リシア母はだいぶボロボロになったエプロン姿に身を包み、料理を始める。

 その後ろ姿が何だか懐かしくて、少し寂しく感じた。


「リシアはお肉、食べないんだったわよね?」


「何言ってるんだよ、母さん。リシアは翔太くんとペトラさんと一緒に住んでいるらしいじゃないか。毎晩肉棒を食わえ──でびゅふれっと」


 おい、リシア兄、爽やかな顔してなんて事を言い出すんだ。


 リシアは躊躇いもなく兄を殴りつけて、顔を赤くしている。

 一方、俺は血の気が引いて、顔を青くしている。

 怖くてお父さんの顔が見れないよ。


「あの、俺、リシアとはそういうの関係では……」


「まあまあ、良いじゃねぇか。俺も若い頃は母さんと××××しながら××××××を××××して××××に××××を──あるまげどん」


 突如、リシア父の元へと包丁が飛来する。


「お父さん、子供達の前で恥ずかしいわ〜。手が滑っちゃったじゃない」


 笑みを崩さないリシア母。それが、逆に怖い。


「ごめんね、うちの男共変なのばっかりで……」


 うん。何となく、リシアが男苦手になった理由はわかる気がするよ。



 けど、リシアのお父さんもお母さんも、すごくいい人で、家族団欒って感じで……それが返って不安になった。


 俺とリシア達の間に、血の繋がりはない。

 黒の方舟は家族を名乗ってはいるものの、その存在はあくまで偽物でしかないのだ。


 俺の本当の家族はこっちの世界にはいない。

 だからその孤独を埋め合わせるように、俺は家族を集めた。けれど、その行いは、本来あるべき家族との時間を奪ってしまっているのではないだろうか。


「どうしたんだい? 翔太くん。もしかして妻の料理が口に合わなかったかい?」


「い、いえ、そんな事ありません。むしろ逆です。久しぶりに母の味を思い出したので……」


 俺が最後に食べた母の夕飯は苦手なレバーだった。

 今思えば、好き嫌いなんてせず、ちゃんと食べておけばよかった。


 あの夕飯が最後だって、わかっていたのなら、きっと、きっと俺は──ハンバーグに変えてもらってただろうなぁ。


「君は優しい子だね」


「え?」


 今の会話から、どうしたらそんな言葉が出てくるのだろうか。いや、これまでの会話を引っ括めて、という事だろうか。けれど、どちらにせよ、悪い気はしない。


「ありがとうございます」


「ああ。娘をよろしく頼む」


「ちょっ! お父さん!?」


「お前ももう19だろう? お父さんとお母さんが19の頃は毎日、朝から晩までこづ──ドンファン」


 リシア母がフライパンでワンパンした。

 

「ごめんなさいね〜。ほんと、はしたない人で」


 いや、うん。俺はいいんだけどね。

 ただリシア父がピクリともしないのが、心配なんだけど。


「リシア、貴女は今の生活に満足しているの?」


「うん。してるよ」


「そう。なら、お父さんもお母さんも、何も言わないわ。けど、たまには顔を見せなさい」



 ──てっきり死んだと思って、貴女のお墓作っちゃったわよ。


 リシア母は、少しほっとしたような顔でそう言った。


 リシアは一緒驚いた顔を見せたが、苦笑いを浮かべると、ごめんねと、謝った。


「え、何それ! 見たい!」


 ぺトラ、お前ほんと、黙ってくれ……。


お読み頂きありがとうございます!


明日か明後日で、本章は終わりになります!

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