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殺人仮面



「なぁ、ドナドナ団ってのは悪い事をしたのか?」


 暁の森にて、偵察中だった水の勇者──レイは火の勇者である聖澤優斗に問う。


「さあ、どうだろう。組織がどういう存在なのかは、僕もよく分かっていないんだ。借りのある人はいるけどね」


「じゃあ、あくまで、皇帝の命令として任務に就いているって事か?」


「そうだね」


 聖澤のこの返答で、レイは迷いを捨てた。

 場合によっては黒の方舟との間を取り持つことも考えていたのだが、最早その判断ができる状況にはない。


 命令だから人を殺す。

 そんな考えをする人間と翔太の気が合うわけがないからだ。レイの目には翔太はもっと自由な人間に見える。

 関わったのはたった数時間だけ。あとはウワサでしかない。それでも、理解できたこともある。

 それに、窮屈な生き方をする優斗はきっと、翔太の事を認めないだろう。


「伝令! 黒の方舟が宿を出ました! 馬車に乗って帝都を目指しているようです!」


 斥候を務めていた軽装の兵士がそう声を上げると、森の中が騒がしくなる。


 無論、黒の方舟を討つための準備に皆が取り掛ったからだ。


 レイは決断した。コイツらの元を離れなければならないと。それは裏切りとも呼べる行為であることは理解していたが、妹があちらにいる以上、彼らに加担することはできない。

 上司であるミラも、火の勇者である優斗も、悪いヤツではなかった。

 しかし、黒の方舟にはたった一人の家族がいるのだ。

 妹に刃を向けるなど、到底できるはずもない。


 レイが隙を見て森から駆け出そうとした時、危機感知スキルが大きな反応を見せた。


「全員伏せろ!!!」


 咄嗟に叫ぶレイ。

 しかし、彼の声に反応が出来たのは、たった数人。

 残る兵士達は燃え盛る業火に焼かれ、命を落とした。


「くそっ、黒の方舟(向こう)の奇襲か? 翔太達、今出発したばかりじゃねぇのかよ」


 燃える森の中で、何とか立ち上がったレイは辺りを見渡す。そこは先程までの静かな森と違い、火の海だ。


 敵感知スキルに反応はない。

 ただ、危機感知スキルは鳴り止まないまま警告を続けた。


 とりあえず森を抜けなきゃマズイ、そう考え歩き始めた時、レイは視界の端に2つの黒い影を見つける。


「黒の方舟か?」


 レイは勇者になった事で、強化された視力を使い相手を見据える。


「€&々:%:%・€><・・<〆<=÷°°〒÷〆」


 少し幼げな声の少女。

 ハニワの面をつけ、黒い服に身をまとっている。


「風の精霊王の力を見よ!【テンペスト】」


 続いて若い少年のような声が森に響くと、気を薙ぎ倒すような風が吹き荒れ、火は森の中を更に拡散する。

 

「こいつら、皆殺しにするつもりか?」


 魔法の火力だけならば、勇者に匹敵すると言っていい。

 次々と草木を燃やしていく業火の中心からは高笑いが聞こえてくる。


「たった二人でこの戦力……つくづく黒の方舟は化け物だ」


 レイは絶望色に顔を染める。



 ──しかし、実のところ、この二人は黒の方舟のメンバーではない。


「+|%=<〒〆<<×<*〆<<×」


「よせ。ナベーパ・サソワ・レーナカッターは、言わば仮初の人格だ。貴様の兄はもういない」


 彼らの正体は翔太に厨二病を教わったナベーパ・サソワ・レーナカッターと妹のオキ・レーナカッターだ。


 実は、彼らはここら辺を収める貴族の子供であり、この森もその領地の中に含まれる。


 翔太は魔法を二人に教える際に、この魔法は森では使うなよ、と何度も釘を刺した。


 だからこそ──使ってしまったのだ。


 ナベーパ達は己の好奇心を抑えることができず、家の近くの森で、一体自分の力がどれほどなのか、と試しに魔法を撃ってしまったのだ。


 森に勇者や騎士達がいる事を知らず。

 

「ふむ。やたらと経験値が入るな」


 ナベーパはご満悦そうに笑うと、メガネをくいっと上げる。自分が何十人も人を殺したなんて、気づきもしていない。


「÷^^==〆+×÷3=%・:<+・<○」


「冗談はよせ。師匠がこの国にいるわけないだろう」


 ナベーパはそう言って高笑いを始める。


「では、去るとしようか──シュッ」


 ナベーパとオキは全力疾走で、家に帰った。


──〇〇〇〇──


 そして、時間は少し進み、舞台は城へと移る。


「今回の件、誠にすまなかった。実に浅はかであった」


 急に皇帝が頭を下げ始めた。

 国のトップがこんな簡単に頭を下げていいのだろうか。


 翔太はそんな事を考えるが、皇帝からすれば謝罪で許されるなら安いものだと考えている。


「頭を上げてください。そんな必死に頭を下げられたら、俺が悪いみたいじゃないですか」


 あまりにも真剣な形相だったため、翔太は不敬を承知で冗談を言う。


「これを機会に、もう少し友好的になれたらいいですね」


 その言葉に、皇帝は瞠目する。

 今回の一件で主導権は握られた。

 友好的とは、つまり傘下入れとの事だ。

 これから先、帝国は黒の方舟に搾取されることを意味する。


 しかし断ればどうなるだろうか。

 平気で国を滅ぼすに違いない。

 民が無事でよかったという彼の言葉は逆を返せば、場合によっては殺す可能性があった、という事だ。


 ならばこの申し出には頷く他ない。


「では、これからもよろしくお願いします!」


 翔太は嬉しそうに返答し、立ち上がる。


 今日は元々帝都で店や観光地を巡る予定。

 時間が惜しいので、切り上げようとしたのだ。


 皇帝の方にもそれは伝わったようで、退出の許可はすぐに出た。


 翔太達の退出を見送った皇帝は玉座の上で冷や汗を拭いながら、体を脱力させる。


「彼奴とだけは対立せぬよう、貴族共にも伝えねばならぬ」


 後は一刻でも早く彼らが国を出てくれる事を願うことだけだ。


「不甲斐ない父親ですまない……」


 森で大火傷を負った自らの娘への咎を責めることすら出来なかった己への無力感に苛まれながら、深いため息を零すのだった。

ブックマーク、評価、ありがとうございます!

後数話で章も代わります!


これからもよろしくお願いいたします!


皆さんも、厨二病には気を付けてください。

人を殺す危険性があります。

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