情けない奴
「いやさ、違うんだって! 俺も戦いたかったんだけど、色々事情があるんだよ!」
スタンピードを見事抑えたみんなは私服に着替えて、街にやってきた。
そして俺は戦場にいなかった事情を説明中。
割と重要な事なので言っておくと、この世界にラーメンはなかった。
どんなに日本の文化が進んでも、こっちに技術を持ち運べる人がいなければ意味がない。
早く転生して来ないかな、ラーメン作れる人。
で、話を戻します。
「俺が戦わなかった理由は2つだよ。まず、1つ目が武器だ」
アイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉。
リリムが風の聖剣を改造して作ってくれた俺の愛刀。
でもこの刀、魔術学校でも使用したせいで、ガチファンには俺の正体がバレちゃうんだよね。
実際、ナベーパくんの妹のオキ・レーナカッターちゃんには正体がバレていた。
「2つ目はビジュアル」
顔を隠しているとはいえ、美少女軍団である事までは隠しきれない。
人々の希望であり、アイドルでもある黒の方舟に男が1人混じってたらなんか萎えるじゃん?
てゆーか、前に噂してるやついました。
「え? 黒の方舟男いんの? マジかー、萎えるわー」って。
「以上が、理由です」
「翔太先輩、本音は?」
「お腹が空きました」
「正直ですね。……それに、翔太先輩だって、自分達が黒の方舟だって事、隠す気ないじゃないですか!」
確かに俺たちが黒の方舟である事はバレていると言っていい。周囲からの視線がそれを物語っている。
人族の国でまともな生活をしている亜人族や獣人族なんて俺たちを除けばまずいない。
身なりが整った彼女達を見たら一発で黒の方舟のメンバーである事はバレてしまうだろう。
それを知っていても、俺達は戦いの際には顔を隠し続ける。自分達が認めない限り、黒の方舟である証拠はないからだ。
俺たちが違うと言えば、それまで。
どんなに特徴が一致していても関係ないのだ。
別に悪い事をしてるから隠したいんじゃなくて……
「お食事中、失礼します。黒の方舟の方々でしょうか? 実は先程の件で、皇帝より城への招待を頂きました」
こういう事。
俺達の力を借りようとしたりする奴もいれば、こうやって何かをする度にお偉いさんから声がかかる事もあるということだ。
学校の先輩にすらビビっていた俺が、皇帝様なんかと話しようとしたら一瞬でチビっちゃうね。
「私に対しては物怖じしてませんでしたけどね」
「ふっ。敗戦国の王女くらい大したことないさ。しかも、お前は初めて見た時、汚いイッヌだったんだし」
それでも、俺だってちゃんとカロリーヌには敬語使ってたもんね。
「では、明日の昼過ぎに伺うとお伝えください」
それまでに、礼儀作法を少し学んでおこう……。
──〇〇〇〇──
くっ……こやつが……。
翔太の姿を見た皇帝は思わず顔を顰めた。
その姿があまりにも、礼儀正し過ぎたから。
皇帝が翔太達を城に呼んだのは謝罪のためだ。
皇帝は黒の方舟に対し、ミラというスパイを送り込む、ドナドナ団に暗殺をさせる、勇者を二人派遣する、などとあからさまな敵対行為をしてきた。
その結果、帝国側はメンバーを七人削る事に成功した。
しかし、その代償があまりにも大き過ぎた。
今回の件で、黒の方舟だけでなく、ドナドナ団からも睨まれたのが事実として挙げられる。
化け物級の組織を一度に2つも敵に回してしまったのだ。
それに加え、黒の方舟を偵察させていた第一騎士団と勇者一行は、森で起きた火事に巻き込まれ、ほぼ壊滅。
第二、第三騎士団はスタンピードで多くの戦力を失った。
これだけの仕返しを食らった帝国が今、たけのこ派に攻められてしまえば、敗戦の可能性すら見えてくる。
故に、皇帝は頭を下げる事を選んだ。
だが、翔太の口から出た言葉は皇帝にとって、恐ろしいものだった。
「街の人が、無事でよかったです。罪のない人が巻き込まれるのは、見ていて辛いですから」
皇帝は理解する。これは脅しであると。
今や黒の方舟は帝国の民からすれば英雄のように目に映っているだろう。
しかし、そもそもスタンピードを起こしたのは彼らなのだ。これは自作自演、印象操作だ……。
今回の一件で、黒の方舟は民を味方に付けた。
侮れない、皇帝はそう思った。
しかし、事実は自作自演ではなくマッチポンプだ。
似て非なるもので、そこには大きな差がある。
何故なら、根本的に、黒の方舟が帝国を害するつもりは少しもないからだ。
ドナドナ団に睨まれ、帝国の主要人物である女性が7人殺害されたのは、レベッカの意思であり、黒の方舟には何の関係もないからだ。
では、勇者一行と第一騎士団が壊滅した話は何なのか。
それは時を1日ほど遡ることになる──
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