裏側
ルーのお兄ちゃんで、水の勇者でもあるレイ君のお話です
「水の勇者レイよ。其方には黒の方舟の偵察の任を授ける。火の勇者と行動を共にし、指示に従え」
「はっ」
「うむ。水の勇者の英雄譚の幕開けだ。華やかに飾ってくるといい」
「仰せのままに」
皇帝に下がらされた俺は任務に向かうために部屋を出る。
……気に入らねぇな。
気付けばひとり、そんなことを口にしていた。
考えの浅そうなあの国王、何を言うかと思えば黒の方舟を監視しろ、だとよ。
普通、偵察に勇者二人を充てるだろうか。
否だ。十中八九、真の目的は奇襲だろう。
勇者となった今の俺ならば翔太に勝てるか?
無理だ。なまじ力を手に入れてしまったせいで、俺とあいつとの差の広さが、より深く理解出来てしまった。
ちょっとやそっとの努力じゃ、あいつには適わない。
てゆーか、向こうにはルーがいるのに、敵対なんてできっかよ!
翔太はちょっとムカつく野郎だけど別に嫌いじゃねぇし、万が一敵対したとしたら、あいつ平気でルーを人質にするだろうしな。
俺はイライラして、城のツボをひとつ叩き割る。
俺が勇者の称号を得たお陰で身についた能力のひとつ。
壺を割っても怒られない。不法侵入しても怒られない。タンスを漁っても怒られない……etc
ちなみに花瓶を割った時は怒られた。
「はあ……。」
なんで俺がこんな面倒な事を……
「待てよ? 俺、もしかして翔太に嵌められたって事じゃねぇのか?」
俺はこの仕事が終わった後も水の勇者として帝国やきのこ派の為に剣を振るい続ける日々が続くだろう。
「俺、本当に3ヶ月後、ルーを迎えに行くことができるのか?」
考えれば考えるほど、あいつの策略としか思えない。
次会ったらぶん殴ってやる!
そんな風に思うが、翔太にもらったお金で娼館に行ったことの後ろめたさで、あいつを責めきれない自分が心の中にいる。
女の人の胸があんなに柔らかいなんて知らなかった!
俺が悪態を吐きながら歩いていると、城を出たタイミングで騎士から声が掛かった。
「レイ殿。私は今回貴殿と行動を共にするミラという者だ。よろしく頼む」
ガチガチの鎧を来てやって来たのは俺より少し背の高い綺麗なお姉さんだった。
ミラという名は帝国にいれば誰もが知っている名だ。
今は火の勇者のパーティーメンバーで、剣の腕前は帝国一とも言われている。
「よろしくお願いいたします。今回は貴女たちの指示に従うように言われてるので」
「そうか。とは言え今日の仕事は偵察だ。肩の力を抜いていい」
ただの偵察で済むのなら、皇帝は英雄譚うんぬん語ったりしない。ミラだってそれはわかっているはずだ。
分かっていて気づかない振りをしているのだ。
「騎乗は問題ないか?」
「はい。だいぶ慣れました」
「そうか。ならば、直ぐにでも同行してもらおう。優斗達は既に暁の森にて監視を始めている」
「分かりました。万が一彼らと戦う事になったら、その時は任せてください」
なんて、口では言うけど、もしそうなったら俺は真っ先に裏切るね。
火の勇者の聖澤優斗さんとは何回か稽古をしたけれど、正直話にならなかった。
確かに俺よりも強い。けど、翔太と戦いでもしたら瞬殺だろう。普通にボコボコにされると思う。
俺は与えられた馬に跨る。
「待て、レイ殿。今、彼ら、と言ったか?」
「はい?」
「黒の方舟は種族を問わずあらゆる能力に優れた女性の集である。何故、彼らと言った?」
「……」
やっちまった……。
俺が実際に見たことあるのは翔太だけだ。
故に、彼ら。
これは大きな墓穴だ……。
どうする? なんと言うのが正解だ……。
「お、俺。黒の方舟を名乗る男がメンバーをスカウトしている所を見た事があるんです。黒髪の男でした」
「ほう?」
嘘はついていない。妹をスカウトしてる所を見た。
「そ、それより、ミラさんは黒の方舟のスパイをした事があるって言ってましたよね? やっぱり……強いですか?」
頼む話逸れてくれ!
「ああ。正直、雑兵をいくら集めたとしても勝てないだろうな。次元が違う。もし戦闘になったら頼れるのはレイ殿達、勇者だけだ」
いや、勝てねぇよ。
「あの、失礼ですけど、本当にスパイしてきたんですか?」
「もちろんだ。エルネスタという黒の方舟の戦闘訓練の教官に師事してもらった。恐らく彼女が黒の方舟の中で一番強いのだろうが、こちらには勇者が二人もいる。訓練通りの連携さえ取れれば彼女に勝つことも十分可能だろう」
この人、多分ポンコツだ……。
本当に翔太を間近で見てきたならそんな感想抱かない。
そのエルなんとかって女が黒の方舟で一番強いというのも多分、翔太のブラフだ。
あいつは簡単に手の内を晒すような奴じゃねぇ。
あくまで想像でしかないが、翔太に何だかんだ絆されてろくに仕事もせず帰ってきたに違いない。
あいつの口車に乗っちまったのは俺もだから責められないけどな。
色々不安になって来た……。
「ルー……無事でいてくれよ……」
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前章で貼った伏線が色々絡まり合い、誰もが想像しなかった結末に!!!




