混浴と勇気と
振り出しに戻った。
……てゆーか、みんなもう風呂入っちゃってんじゃねぇかよ。
誰も来ないなら今更混浴に突撃したって意味無くね?
俺が仕方なく男湯への暖簾を潜ろうとした時、後ろから声が掛かった。
「へぇ、意外。翔太ってむっつりだし、こういう時は絶対混浴に行くと思ってたのに」
後ろを振り返ると、部屋着に身を包んだリシアが立っていた。
「余計なお世話だよ」
「まあまあ、そんな怒んないでよ。ちょっとしたジョークでしょ? せっかくだし、混浴、入ってみる?」
「はぁ、何だお前、まだ酔ってんのか?」
「別に。けど、せっかくの機会だしね」
リシアはクスリと笑うと、そのまま混浴の暖簾を潜って中に入っていく。
「なんだ?あいつ……」
俺は少し躊躇いはしたが、リシアの後に続くようにして、暖簾を潜った。
お湯の暖かな熱を感じる脱衣所。
足元は意外にも濡れていて、多くの客が混浴を利用したのがわかる。
リシアは既に着替えを始めていたようで、俺が来た時にはすでに、上着を脱いでいた。
柔らかな肩を露出させたリシアはそのままズボンの方にも手を掛けた。
俺は視界に入らないように背を向けて、自らの服にも手を掛ける。
背後からは衣擦れの音。
今はただ、無言の時間が気まずく感じる。
やがてリシアはお先に、と一声掛け、そのまま浴室へと向かっていった。
「ふぅ」
なんか、俺ばっかり変に意識してるみたいだ。
俺は残りの服と下着を脱ぐと、タオルを一枚持ってリシアの後を追った。
「背中、流すよ」
「ありがとう」
俺は椅子に座るリシアの後ろに腰を下ろす。
リシアの背は勇者という称号には似合わないほどに華奢で、白く透き通っている。
なんというか、こうしてまじまじと女性の身体を見るのは初めてのことだ。
謎に濃い湯気が俺の視界を邪魔してくるが、目の前にある背中は、正真正銘の女性の背中だ。何処にでもいるような、ただの女性の背中。
彼女はこの背中で、一体どれだけの物を背負ってきたのだろう。
俺はタオルを石鹸で泡立てると、そのままうなじに当てる。
「ふぅ……っ」
それに答えるようにリシアからは息を吐く音が聞こえた。
「あ、このタオル俺が腰に巻いてたやつだから、間接うなじチンチンだ──ぶふぁっ」
ノールックでエルボが顔面に飛んできた。
幸い鼻も歯も折れなかったが、多分陥没してるはず。なかなか痛い。
リシアは自分の胸を隠していたタオルを俺の顔に投げつけてくる。
「あ、これは間接おっぱいアイマスク──ぐふぁっ」
頭上からのサマーソルトで俺は地に伏せる。
幸い首も顎も折れなかったが、なかなか痛い。
俺が顔を上げると、既にリシアは座り直していたので、俺は今度こそちゃんと背中を流し始めた。
リシアの前にある鏡に目を向けると、丁寧に胸を隠していて、何より顔も赤い。
どうやら恥じらいはあるらしい。
俺は敢えて茶化すことで恥ずかしさと興奮を抑えつけていたのだが、リシアはいつも通りなので、何とも思ってないのかと思ってた。
確かに、恥じらいを全面に出すような性格でもないが、男嫌いで免疫もない彼女にとっては、刺激が強かったかもしれないな。
さっさと洗ってお湯に浸かろう。
じゃなきゃ、俺のパオーンがおはよウナギしちゃうかもしれない。
と、その時、ガラガラと、扉を開く音が聴こえる。
「あれぇ、あれあれぇ、何やってんの〜、2人とも!」
振り向いた先にいたのは一糸まとわぬ姿で仁王立ちするシレーナと大きなバスタオルで胸を隠すカロリーヌだった。
「ほ、ほら! やっぱり翔太さん混浴にいるじゃないですか! 絶対そうだと思ったんです!」
どうやらシレーナに無理やり連れ込まれたらしいカロリーヌは少し涙目で、腰が引けていた。
それに比べ、シレーナの方は恥じらいのひとつも見せない。これが王族か!? 裸の王女様か!?
「姫様精神の欠片もねぇな!」
「ええー? まあ、男の人の前で脱ぐのは初めてだけど、まぁメイドとかにも肌は見せてたしね。人前で脱ぐのには抵抗ないかな」
ハッハッハーと笑うシレーナ。
なるほど、姫様ゆえにか。
「確かにその慎ましい胸を見られたところで、何ともないでしょうね。私だったら二重の意味で恥ずかして、殿方の前には立てませんからね」
軽口を叩きながら、ムムが入ってきた。
黒い霧を纏って局部を覆うムム。見えそうで見えない。
やっ、やるじゃねぇか……。
我が家の巨乳四天王の2人と 貧乳四天王の2人の邂逅。こうやって比べると凄い差だな。
「私は四天王でも最弱だけどね」
無い胸を張ってシレーナはそう口にする。
そうなのだ。貧乳四天王の中ではシレーナは一番胸がある。故に最弱。
「ねぇ、翔太。今ものすごく邪な視線を感じたんだけど?」
リシアは俺の方へ振り向き、キッと睨む。
「誤解だよ。俺はちゃーんとお前の絶壁を見てもいやらしい気持ちになったぞ──じぇひゃっ!」
滑る床を利用した回し蹴り。
俺はそのままザブンと、浴槽に落ちた。
……ある意味助かった。
じゃなきゃ俺、今頃中腰だっただろうからな。
温泉の中ならバレないぞ。
「あの……翔太さん。お背中、流しましょうか?」
ムムは俺の元へとやってきて、そんな提案をしてきた。浴槽を覗き込むような姿勢のせいで、自然と谷間が強調される。
これはブラックホールだ。
俺の視線を吸い込まんとするブラックホールだ!
「んぬぬぬぬぬぬぬぬぬっ、ううん。大丈夫だぞ!」
今はお湯から出られる状態じゃないし。
魅力的な提案だが、ここは引き下がらざるを得ない。鋼の精神で彼女の提案を拒絶し、その場に留まる。
「しゅーん」
「やっぱり、流してもらおうかな。10数えたら」
前言撤回だ。鮮やかな手のひら返し。
俺が断るとムムは露骨にガッカリとした顔を見せたので、罪悪感に打ち負けた俺はそんな提案をした。
「わかりました! では私は先に自分を洗っちゃいますね」
ムムはそう言って振り返ると、胸はどるどるん、おしりはぷりんと揺れる。湯気が邪魔だッ!
ムムって、年上のお姉さんで、サキュバスなのにすげぇ純心なんだよな。感情表現が豊かだからそう見えるのかな?
俺は先程起こしてくれたおばさんの裸を想像してゆっくりと10数える。
「いーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーち。にーーーーーーーーー──」
「それ、全然10秒じゃなくないですか?」
「うるせぇぞ、カロ。俺は10数えると言ったんだ。10秒とは言ってねぇ!」
仕方ないだろ。俺のパオーンがおっ起しちゃったんだからさ。元気におはよウナギしちゃってんだよ。
「きゅーーーーーーーーーーーーう。九てんいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーち──」
……
……
……
「よし10数えたぞ!」
俺はお湯を上がり、鏡の前の椅子に座る。
背中を流してもらうだけだ。
俺はふっと息を吐いて前屈みになる。これは念の為。
「では失礼しますね──」
『おはよーウナギ〜』
ダメだった。
てゆーか、背中に当たるこのやわらかくてハリのある感触。
間違いない、おっぱいや。
「くっ。俺はサキュバスの色香に屈したりなんてしないぞ!」
「ふふっ。そう言わないで、私に身を委ねちゃって下さいよ」
くそっ。何故だ。何故さっきからそんなに的確なツボばかり!
これがサキュバスが長年培ってきた技だと言うのか!?
「私は精気を吸収する際に夢を見せます。その夢の内容はそのまま私達サキュバスの経験値になるんです。翔太さんにはもう何十回もエッチな夢を見せているので、ツボは大体おさえてますよ」
そ、そういう事か!
こっちの世界に来てからエッチな夢を見る回数が増えたのは色々と溜まっていたからではなく、ムムに故意的に見せられていたからだったのか!
「翔太さんは腰のここをこうすると……」
「っぁぁ! ああああああああぁぁぁ!!!」
「あああああああああ!!! うるさいです!!!!」
ツボを刺激された俺が声を上げると、それ以上の大声を上げたカロリーヌに、俺とムムはゲンコツを貰った。
カロリーヌは顔を真っ赤にして、肩で呼吸しながら、口を開く。
「ふっ、風紀が乱れてます。温泉でのそういった行為はマナー違反です」
自分じゃ気づかなかったが、結構酷かったらしい。
リシアだけでなく、あのシレーナでさえも顔を赤くして目を伏せていた。
「失礼しました……」
今ので少し冷静になった俺は体を洗い流すと、みんなと少しだけ距離を空けてお湯に浸かった。
あれ? これってもしかして、異世界ハーレムってやつでは? なんて、思ってみたり。
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