晴れやかー
オレハニヤケテイタ。
トッテモニヤケテイタ。
「そうだよな。これだよこれ! お約束じゃあないか!」
春野翔太17歳が今、とっても上機嫌な理由。
それは王都の冒険者ギルドの受付嬢のある一言から始まる一連の流れにいたく感動したが故である。
「取ってきた素材を出してもらっていいですか?」
ナンシーさん、よく言ってくれた!
俺はワクワクしながら魔法袋を開くと、3体の陰亀を取り出して、ギルドのホールのど真ん中に置いた。
異世界の定番のひとつ、魔法袋から大量の魔物を取り出して、ギルド職員を圧倒させるの術。
「ああああ! 貴方! 本当にこんな短時間で陰亀を狩って来たんですか! しかも3匹も!」
いや、短時間って……。
3時間もいるかどうかも分からん亀を探したせいで、こっちは結構ギスギスしてたんだぜ?
どうやらナンシーさんは薬草の回収のみで帰って来たのだと勘違いしたらしく、めちゃくちゃビックリしていた。
「っふっふ……アッハッハッハッハッ!」
みんなが俺たちに、化け物でも見るような目を向けてくる。
嗚呼、なんて気持ちいいんだ。
多分、今だけはこの世界が俺を中心に回っている。
「おいおい! 何事だこりゃ!」
気分が良くなり高笑いをしていると、突如、後方から怒鳴り声が聞こえてきた。
視線の先では40歳ぐらいのおじさんが、慌てた様子で階段を駆け下りて来ていた。
「ギ、ギルドマスター」
ナンシーさんが救いを求めるように、その男へと声を掛けた。
なるほど、あの人がここのギルドマスターなのか。
おっさんはおっさんなのだが、受付嬢のナンシーさん同様に、しっかりとした制服に身を包み、ネクタイもきっちりと締めてある。
清潔感があって、小汚い冒険者たちとは違いだ。
俺の想像する荒くれ者の長とはやや違った感じで、ごっつい体格の割にはインテリ系の顔をしている。
ナンシーさんはギルドマスターの元に駆け寄ると、今あった一連の流れを説明しはじめた。
険しい顔で相槌を打っていたギルドマスターだったかま、やがて興奮気味なおっさんの視線が俺のほうに向いた。
「初めまして、冒険者君。私はここのギルドを管理しているサム・ハーンという者だ」
「どうも。俺は春野翔太です。こちらの2人は従魔……じゃなくて、従者です」
俺の言葉に倣うように、ネギまはぺこりとお辞儀をし、クハクはフッと鼻を鳴らした。
クハクちゃんは人を見下す傾向があるからなぁ。
「して、これは君が狩って来たのかい?」
「はい。薬草を摘んでいる内に、いつの間にか沼のほうまで行ってしまいまして、その時にたまたま遭遇したのです」
「ふむ……」
おっさんは黙り込む。
俺はニコニコと機嫌を伺うように、おっさんの次の行動を待つ。
「これをここまでどうやって運んだ?」
「俺は宇宙人です」
宇宙人は、本来なら全員チート能力を持っている。
俺がたまたま持っていないだけだ。
いや、まぁ、たまたまじゃなくて必然だけども。
「……わかった。これをギルドに持って来たという事は……」
「はい。素材の買取をして貰おうと思いまして。……それから、一応陰亀の討伐依頼がないかも確認して貰えませんか?」
「わかった。直ぐに手配しよう。──ナンシー、この者達の取り次ぎを頼む」
「はいっ!」
思いの外あっさりと事が進んだ。
深く詮索しないのは、彼もまた一人の冒険者だからなのかもしれない。
俺はナンシーさんの指示に従って、陰亀を解体場に運び、素材のお金と合わせて大金貨76枚、日本円にして7600万円を受け取ると、そのまま晴れやかにギルドを後にした。
「これだけあれば十分だろうな」
宿は10日間貸切で5000万円。その他の出費も、2600万円以内には収まるだろう。
こっちの世界に来る前は、異世界転移した日本人の金銭感覚に独りで色々ツッコミ入れてたけど、実際に大金を手にしてみても、あんまり大きな喜びはない。
何でだろ。無くなるってわかってるからかな。
「なぁ、ネギま、クハク。今日は2人にも頑張ってもらったし、ちょっとだけ奮発しないか?」
──〇〇〇〇──
ご主人様は、先に少しだけ買い物をしたいと言って、様々なお店を巡りました。
フルーツや花、油や酒など、統一性のないものを沢山買います。
「主様、一体これで何ができるのでしょう?」
私が疑問に思った事をクハクが聞きます。
恐らく、私に質問をする、という恥を欠かせない為でしょう。主様との距離感が気になるクハクではありますが、こういう所はかなり気の回る後輩です。
私は感謝の意を込めて、そっと微笑むと、クハクは軽く頭を下げました。
ご主人様は今買った素材で、しゃんぷーを作ると言います。
そして、大ニュース。今日は、一緒にお風呂との事です。
「嬉しいです〜。楽しみにしてますね〜」
ご主人様とのお風呂は偶にしかないのですが、私にとってはかなり至福の時間となります。
彼は洗浄が得意なようで、私も羽の付け根まで綺麗さっぱり洗ってもらう事ができるのです。
クハクさんの方はもっと別の楽しみがあるようで、ご主人様のパオーンを見ては、ニヤニヤと涎を垂らしています。
もしかしてご主人様の生殖器は涎が垂れるほど美味しいのでしょうか。
機会があれば、今度啄んでみたいところです。
「なんか食べたいものとか、行きたい場所とかあるか?」
「いえ、主様。ワタクシは今すぐにでもお風呂に入ってそのしゃんぷーを試しとうございます」
相変わらずクハクは欲望にストレートです。
まぁ、確かに、ご主人様とのお風呂は昇天しそうな程気持ちいいのですが。
特にクハクの方は、私よりもブラッシングに時間が掛かります。
その間の蕩けきった彼女の顔を見て、自分もそんな感じなのかと思うとかなり恥ずかしいのですが、やはり清潔に保てるのは嬉しいです。
返り血を浴びたくない彼女が、接近戦を躊躇う気持ちもよく分かります。
「今日はせっかく手伝ってくれたのに。こんなんでいいのか?」
「いいんですよ〜。私たちは従魔ですから〜。ご主人様のために生きてるのです〜」
ずっと暇で、ずっと孤独だった。……死のうとも思った。
そこから救い出してくれた貴方にはもうたくさん大事なものを貰っているのですから。
「じゃあ、帰って、お風呂にするか〜。あ! それならついでに、新しいブラシも買っておくか!」
楽しそうに笑うご主人様。
そんな笑顔が、堪らなく愛おしいのです。
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実はですね!個人宛にこんなメッセージ頂きました。
『ネギまちゃんは死にますか?』
いや、死なせんよ!多分。
感想、メッセージ受付けているので、良ければ書いてください!
明日もよろしくお願いいたします!




