ピクニック!?
結局、亀探しは難航し、暇つぶしがてら、襲って来たゴブリンを狩ること更に1時間。
そろそろ俺達のメンタルにも限界が来た。
「ご主人様〜見てくださ〜い! 美味しそうなお魚ですよ〜」
いつの間にか沼で魚を捕っていたネギまは、透明な容器に大量の魚を入れてこちらへ走って来た。
笑顔満面のところ悪いんだけど、それ食えんの?
この沼、結構汚いけど。
「主様。ワタクシは山菜を取って参りました」
うん。君たち完全に飽きちゃってたわけね。
いるかどうかも分からない亀を3時間も探し続けてたら流石に飽きちゃうか。
こればっかりは2人を責められない。
「早速いただきましょ〜」
ネギまは指パッチンで点火すると、そのまま薪をくべる。
俺は竹串の代わりになりそうな枝を見つけては、クハクが捌いた魚に刺していく。
野営する準備は常に怠らない俺は、当然塩だって持っているぞ。
濃い味が好きなので、自分の分には過剰なくらいに塗りたくってやる。
泥抜きはしてないんだけど、これってマズイのかな。
ネギまとクハクに限っては余った内蔵を生のまま食べていたけど、果たして大丈夫なのだろうか。
旅行前にお腹壊さないでくれよ?
今は2人とも人間の見た目をしているせいで絵面もエグいし。
「体内を発火させて寄生虫を殺せば問題ありません」
「同じく〜」
流石は火を司る種族だけあるわ。
人間とは根本的に違うみたいだ。
「それにしても、カメは一体何処にいるんだろうな」
「先程の女性が言うには大きいもので3mにもなるそうですからね〜。それだけ大きければ見つからないはずがないんですけど〜」
「だよなあ」
そんだけ大きければ、遠くからだって分かるはずなのだ。なのにこれだけ探してたったの一体も見つかっていない。
「2人は陰亀見た事あんの?」
「ないかな〜」
「ありませぬ」
「……そうか」
いまいち会話も盛り上がらない。
2人も結構疲れてるみたいだな。
休憩のつもりで飯の準備始めたけど、これはもうそのまま帰った方がいいかもしれない。
日はまだ高い。
家に帰ったら、陰亀の情報を幾つか集めて、夜は2人を労わってやろう。
「そろそろかな〜」
俺はお魚に手を伸ばす。
「いただきまーす」
──もぐもぐ
……美味しい!
これはなかなかいけるな。
表面はいい感じに塩が効いていて、身もふわふわしている。
クハクが取ってきてくれた山菜はもれなく天ぷらにしたのだが、こちらもかなり美味い。
「最高っ!」
「ありがとうございます〜」
「御身の為ならば」
俺の感想を聞いた二人は、続くようにして魚や山菜に口を付ける。
彼女達が初めて料理を食べたのは半年前の事で、お箸を持つようになったのは本当につい最近だ。
ずっと野生の魔物、聖獣として生きてきた彼女達には馴染みのない味や食感だろうが、2人の顔を見れば、気に入って貰えたのは一目瞭然だろう。
キャンプは女の子達が温泉に行きたがるから、案から漏れちゃったけど、今度別の機会に行ってみたいな。
ネギまも、本来の姿で空を飛び回ることに喜んでいたみたいだし、もしかしたら彼女たちにとって人と同じ生活は窮屈なのかもしれない。
旅行中、彼女達にも羽を伸ばしてもらえればいいんだけどな。片付けをしながらそんなことを考えた。
「まだいける?」
「もちろんです〜」
「はい」
「じゃあ、行くか」
時間は午後2時くらいだろうか。
うん。そこそこいい時間だ。
俺は焚火の火を消し、地面に置いていた簡易式の椅子などを魔法袋にしまう。
そして、再度地面に目を向けた時、ふと違和感を感じた。
太陽はまだ高い位置にある。焚火はもう消した。
「じゃあ、なんでこんなに影が長いんだ──?」
そう思った瞬間、敵感知スキルに大きな反応が出る。
「お前ら、敵だ!」
サッと臨戦態勢を取って背中合わせに構えるが、敵は現れない。
スキルに誤報なんて、聞いたことない。
ならば確実に敵はいる。
突如、自らの影が、牙を剥く。
足元に伸びた影がうねうねと形を変え,次の瞬間には触手の形となって飛び出したのだ。
それはネギまの影もクハクの影も同様で、俺たちを囲うようにして暴れ始める。
俺は瞬時にアイネクライネナハトムジーク第十八金剛烈空丸・華叉を抜いて一閃。
それらを切り落とす。
人型になっていたネギまもクハクもそれぞれ棍棒と鉄扇で対応していた。
「これ、亀の仕業かな?」
「分かりませぬ。ただ、陰なるものが影を使って攻撃してきたとしても、道理には適っております」
そうか。ならば、まずはこの無数の触手を止めて、且つ、本体に出できて貰わなきゃならねぇな。
となると……
「ネギま、クハク、俺が蒸発しない程度の炎で影を濃くできるか?」
「やってみます〜」
「お任せくださいまし」
2人は周囲に炎を出現させ、俺達の影を更に濃くする。
すると、各々の影の中からにゅるにゅると黒い塊が現れ、やがて俺たちを見下ろす形で、三体の大亀が出現した。
「出た!これが多分陰亀だ!」
ナンシーさんから聞いていた通り。
どうやら、こいつらは火が苦手だったようだ。ちゃんと予習してよかった。
高さ2m、全長6m程の大きな亀。
漆黒の甲羅はまるで夜のように暗く、幾つもの触手がうねうねと踊っている。
随分とでけぇな。
このサイズに関しては聞いて話よりも随分とデカい。
「行くぞお前ら! 逃がすなよ!」
「「御意」」
俺は狂化スキルを発動し、斬り掛かる。
最近やっと、このスキルも馴染み出した感じだ。
使いこなせているとは言えないが、応用の幅はかなり広がったと思う。
狂化の具合は大まかに三段階。
今俺が使用したのは一段階目なので、理性は多少残っている。感情が昂って仕方ないが、ある程度の自制心は残っている状態だ。
ただ、二段階目まで行くと最早理性を無くし、獣のように暴れ回ってしまう。
三段階目まで行くと、記憶をなくす。自分が何をしたかも覚えていられないのだ。
「さぁ、やり合おうか、でっけぇの」
俺は華叉に纏う魔力を火属性に変換させて、力いっぱい叩き切る。恐らく敵は闇属性なので、リシアなどが持っている光の属性が有利なのだろうが、残念な事に俺は使えない。
俺が振るった刀は、本来なら柔らかいはずの頭に当たるが、そのまま弾かれる。
「随分と硬ぇな」
なら……。
「汝を蝕むは穢れた風。汝を食らうは悪魔の牙。死への鍵は我が手に【蝕悪付与】」
俺が今、刀に付与したのは地属性と毒属性の複合魔法。
「オラァ……!!!」
再び俺が刀を叩きつけた場所は、浅いながらも亀裂が入った。
ならば、後はそこを集中攻撃だ。
俺の刀を纏っている風は強烈な腐食性を持っている。
どんなに硬くても相手は生物なのだ。
全ては化学で対応できる。
日本人は詠唱を嫌がって魔法使い系の職には就かないが、多分俺みたいな不登校じゃなくて、ちゃんと勉強してた人が扱えばかなりチート級になると思う。
「オラァ!死ねや」
しつこく襲ってくる触手を掻き切りながら、何度も何度も切り刻む。
本体の動きは遅いが、触手の動きはかなり速い。
すべてを捌くのは無理そうだ。
ムチのように振るわれた触手は、甲高い音を立てて、俺の体を打つ。音を置き去りにしたその衝撃は、俺の背から肉を削ぎ落とし、胸を穿った。
「ってぇな。クソっ!」
大したダメージは入っていない。
即死するような攻撃じゃない。
けど、やっぱり痛いもんは痛い。
三本同時に飛来してきた触手を切り伏せ、更に亀の頭を狙う。
外殻が剥がれ出し、肉を覗かせたところで、俺は大きく華叉を振りかぶった。
「【十炎】」
炎を纏わせたトドメの一撃。
燃え盛る刀の剣撃に合わせるようにして、その首が地に落ちる。
「……ふぅっ。討ち取ったり〜」
俺がネギま達の方を振り向くと、ネギまもちょうど倒し終えたようで、棍棒でグズグズに顔面を叩き潰された亀が転がっていた。
一方で、クハクの方はとっくに戦闘を終えていたようで、綺麗な顔して立っている。亀の方に目立った外傷はないが、果たしてどうやって倒したのだろうか。
「先輩、接近戦縛りをしていたようですが、それにしても少々時間を掛けすぎではございませんか?」
「貴女こそ〜、マナーがなってませんよ〜。気の強い方は、触手使いと遭遇した時は〜、わざとやられなければならないのです〜」
おい! 誰だよ、俺の可愛い従魔にそんな入れ知恵をした奴は! 絶対許さねぇ!
誰だよ、なんて言いつつも、犯人はどこぞの転生者で間違いないので、後で理沙には説教だ。
理沙の奴、学園を離れてから色々と奔放すぎる。
この厄介オタクめ。
俺は頭痛を抱えながらも、3匹の亀を収納し、帰還の準備をする。
「よし、忘れ物はないな──それじゃあ、撤収〜」
お読み頂き、ありがとうございます!
実は先程、このお話の第14話に出てくるモブを主人公とした短編物語を書きました。
良ければお読み下さい!




