旅行は行くまでが1番楽しい場合もある
「よーし、予定立てるぞ〜」
──シュパパパパパッ
俺が声を掛けると、待ってましたと言わんばかりに全員が集合する。
みんなが円になって座る時、実は席順のようなものがある。
まず、円を3分割するように、俺とペトラとリシアが座る。
そして俺の両サイドにはネギまとクハク。そこから外へと広がっていくように他の子達が座っていく。
リシアの傍には家事や戦闘においてリーダーを担う子が、ペトラの傍にはたけのこ派の子や新人が座る。
何のために?と思うかもしれないが、これはリシアがまだ、俺やペトラを本気で監視していた頃の名残で、言わば三権分立みたいなものである。
言わずもがな、この家で権力を持つのは俺とリシアとペトラである。当然、俺達が中心となって意見を出し合うのだから、隣ではなく、できるだけ対面に座った方がいい、というのもある。
「じゃあ、まずなんだけどゴールデンウィークに休み取れなさそうな人いる?」
手は挙がらない。
よし、なら全員参加って事で、問題無さそうだな。
「金は全部俺が負担するから、気にしなくていい。水着は知っての通りアデルが用意してくれる。それから、リリム達には初日のお昼ご飯を作ってもらいたい。頼めるか?」
転移すれば一発で着くんだろうけど、どうせなら道中も楽しみたい。みんなで、馬車でゴトゴト揺られるのも悪くないだろう。
「うん。任せて」
リリムから了承も得た。
ならば、いよいよ、具体的な旅行計画に移るとしよう。
「まず、1日目の予定を決める。朝は9時出発で、移動は馬車のつもりだけど、こっからスプリング帝国までの道中、寄りたい所とかある?」
俺の質問に対し、きっかり0.5秒の時間を開けて2人の家族が挙手をする。タイミングが綺麗に揃ってるし、直立したその腕も綺麗に伸びている。
これもリシアに調教されたのかな?
「それじゃあ、アンジーさん意見をどうぞ」
「私はアルケノン大橋を見に行きたいですね」
ほう。有名な橋があるのかな?
俺もちょっと興味がある。いいよね、中世ヨーロッパの建造物。俺も好き。
「では──次、ミリィどうぞ」
「動物園に行きたい!」
ほう。動物園か。
俺もちょっと興味がある。この世界には俺の知らない動物園がいるかもしれないしな。俺も見たい。
「ミリィが言うならなあ。では、動物園という事でいいか?」
「い、異議あり! せめて多数決にしてください! 私たちは平等を謳っているはずです。例え100歳離れていようと関係ありません!」
アンジーさん、結構マジのトーンだ。
ちなみに、ミリィは9歳、アンジーさんは109歳だが、噂によるとアンジーさんの誕生日はもうすぐらしい。
そんなに橋が見たいのか……。
「じゃあ多数決するから、行きたい方に手を挙げてくれ」
行先は動物園に決まった。なんやねん。
「アンジーさん、俺も橋には興味あるし、今度2人で行こうな」
できればみんなで行きたかったけど、橋の人気無さすぎて、アンジーさんしか挙手しなかったし、今度ゆっくりデートしよう。
「えっ、いいんですか?」
「もちろん!」
「ありがとうございますっ!」
よっぽど橋に行きたかったのか、耳をピコピコと揺らして喜ぶアンジーさん。顔中に嬉しいと書いてある。そんなに凄い橋なのか?
「じゃあ、次な〜。夜は温泉とキャンプどっちがいい?」
「ねぇ、質問1個いいかな?」
挙手したのはリリム。
「いいぞ!」
「温泉に決まった場合、宿の方に目処は付いているのでしょうか?」
「おう。実は行きたいとこがあるんだよな。滝温泉のある所でさ──」
滝修行、1回でいいからしてみたかったんだよな。
しかもそれが水じゃなくて温水って言うんだからいいよね。楽しみ。
「レベッカさん」
リリムが指パッチンをするとレベッカが大きな資料集のような物を開き、目を通す。
何してるんだ? あいつは。
しばらくして、フッと笑うと、そのままリリムは、ありありです、と報告した。
何故かその言葉を聞いた一部の女性陣達が、俺を肉食獣のような目で見つめたが、俺にはその言葉の意味が全く理解できない。
「じゃ、じゃあ、温泉がいい人ー」
全員だった。
まぁ、みんな女の子だし、キャンプとかで虫に刺されるの嫌なんだろうな。
俺は何かに気付きそうだったが、敢えて気付かないように思考を進める。
「2日目は海と市場と自由時間で、3日目はみんなでどっか行こうと思うんだけど、何かいいとこある?」
俺の問い掛けに挙手をしたのはエレナ。
「わたくしは雷鳴火山への登山を希望したく存じます」
なんだその 如何にもヤバそうな火山の名前は。
「そんな事より普通に散策しましょうよ〜」
多数決の結果は、キノの意見を採用する形になった。
「残念です。ご主人様。でも負けてしまったものは仕方ありませんね。今度2人で登山しましょう」
「そうだな〜」
「「「!?」」」
旅行って、計画立てるのも楽しいんだよなぁ。
──〇〇〇〇──
「なるほど。黒の方舟が我々の味方をするつもりはない、と」
「はい。都合が悪くならない限り、敵対するつもりもないとも」
「そうか」
あちらの都合が分からないから、こちらが困っているというのに、奴らは呑気なものだ。
これから先もずっと女共の顔色を伺いながら生きるなど、我慢に耐えん。
「それともうひとつ、黒の方舟がこの国を訪れるとの情報が入りました」
「なんだと? 目的は何だ? 何故広き世界でここを選んだ?」
「分かりません。しかし、ミラが言うには今回の遠征の理由、それは遊びとの事です」
「遊び……だと?」
皇帝は考える。
本当にただの遊びだと言うのなら、あのエルフがわざわざ報告してくるはずがない。
つまり、あのエルフは黒の方舟からこの情報を聞き出すに当たって、何かしらの違和感を感じたという事だ。
「お父様、彼女達は海に行くと言っていたらしいのですが心当たりはありませんか?」
海? 海だと!?
いや、まさか……奴らは嗅ぎつけたというのか?
人魚達が守り続けているという、水の宝玉を……。
あれを手に入れた者は海を味方につける。
つまり、この世の7割がその者の手に収まるということだ。
くそ……竜宮城の事はこの国の皇帝のみの機密情報のはずだ。今生きている人間では私以外に知るものがいないはず。
どこから漏れたのだ?
「お父様……?」
「下がれ、メロディ。少し一人になりたい」
「は、はい。失礼します」
竜宮城は海底に位置する人魚達の楽園、その中心にあると呼ばれている城だ。
そもそも人間には辿り着けない。
ただ、黒の方舟が全員で海を訪れるとなれば、話は変わってくる。彼女らはそれだけ本気で挑むという事。
実に厄介だ……。
「彼らを止める術は──そうだ。アイツらに任せよう」
ドナドナ団。
金や女を貪る快楽主義者。
奴らに狙われたら最期。
その実力は唯一黒の方舟に匹敵すると考えられている程だ。
上玉の女と金さえ積めばああいった輩は食いつくはずだ。
「クッフフフフ」
黒の方舟、仲間にならぬのならば消してしまえばいい。
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