女は半年で結構変わるが変わりきれない
早速問題にぶち当たった。
「転移できる奴おらんやんけ」
俺もそろそろ取得するべきか……!?
けどスキルポイントが勿体ねぇしなぁ。
とりあえず今回はペトラでも連れて行くか。
俺は階段を下りペトラに声を掛ける。
ミリィとチェスで遊んでいたペトラであったが俺が決着が付くのを待つ事を条件に着いてきてくれることになった。
「やーやー、お待たせだねー、いこーかー!」
多分勝ったんだなぁ。
上機嫌なペトラは胸をどるんどるん揺らして走って来た。
「んじゃあ行くか!」
俺たちはいつものように魔法袋に入って王都へと向かった。まずは冒険者ギルドで情報を得ないといけないしな。
王都の冒険者ギルドは久しぶりだ。
俺が上級職に至った時以来だったかな。
相変わらず綺麗な大部屋で、街のギルドと違って治安もいい。
「アタシ達は昨日も来ましたね。ここの冒険者ギルドで転職させてもらったんス」
プリシラは嬉しそうに昨日の事を語った。
そりゃ上級職だもんな。我が家では当たり前のような扱いになっているが、上級職に到れる人間はそう多くない。
ましてやクノイチマスターのような普通職を複数獲得していないといけない職業は彼女にとっても誇らしいものだろう。
「アタシってエルフなんで、やっぱり周りの視線が気になってたんスよね。けど、この制服を来てる間だけは視線の意味も変わってくるンスよ。昨日上級職に上がった時は純粋に祝福してくれる人族の方もいて、ちょっと自信もついたっス」
黒の方舟もだいぶ知名度が上がってきているようだ。
そして、悪くない変化だ。
昼は黒の方舟、夜はドナドナ団。人々の憧憬でありながら恐怖の対象でもある俺たちは少しずつこの世界に影響を与えているのかもしれない。
「すいません。ちょっと情報の提供をお願いしたいんですけど、いいですか?」
俺は手の空いていた受付のお姉さんに声を掛ける。
「冒険者カードか身分証明書はありますか?」
「はい。これで──」
「あああああ!!!!!」
「えええええ?????」
突如受付カウンターから身を乗り出して声を上げたお姉さん。ビビる俺。
「いいいいい!!!!!」
「ううううう?????」
「おぉぉぉぉ……………」
ケーラ、プリシラ、レベッカも声を上げる。
お前らは俺をバカにしてるのか?
……って、それよりも、だ。なんでこの人こんなに驚いてんだ?
「半年前に狂戦士になった宇宙人ですよね?」
「そうだけど……って!思い出しました!あなたナンシーさんですか!?」
「はい。そうです」
「変わり過ぎてわかんないですよ!」
いつの間にかメガネは外れていて髪の毛も伸びている。
前見た時よりも段違いに女性らしくなっていた。
「でも、無事でよかったです。半年も顔を出さないので、何処かで……」
「死んでると思いました?」
「いえ、そこまでは。でも、はい。何事もなくてよかったです」
濁してはいるが、多分死んだと思ってたんだろうな。
俺が狂戦士になる時はかなり反対されたし。
「けど、これでようやく貴女との約束が果たせましたね!」
俺は言いながらもマスクを外し笑いかける。
黒の方舟として活動する時は全員顔を晒さないように徹底しているのだが、素性を知ってる相手にいつまでも顔を晒さないのは失礼だろう。
「覚えていたんですか?」
「当然です」
「しょーた、約束って何?」
「いつか俺がビックな男になったらナンシーさんに会いに来る約束だよ」
「へーそんな事があったんだね!」
「まぁ、まだ道程だけどな」
「そうなんですか。まだ童貞ですか……それにしても、まさか貴方が黒の方舟のメンバーになるとは……」
ナンシーさんはどこか感慨深そうに頷いた。
「お姉さん、違うっスよ?この人はメンバーじゃなくて、創設者っス!そこ、結構重要っスからね?」
プリシラから指摘がはいる。別に創設者もメンバーなんだからメンバーでいいだろうに。彼女には細かいこだわりでもあるのだろうか。
「それ、本当ですか!?」
「まぁその通りだな」
「じゃ、じゃあセーラー服専門店のやまむらや鶴亀製麺や数多のお菓子を製造しているという海永製菓も、転移で荷物を届けるトマト運業も全部貴方の部下が……!?」
え、いや。ごめん。俺、その点に関しては初耳なんだけど。俺はスっとみんなの方を振り返るとサッと視線を外された。こいつら俺の知らないところで何してやがる!?
「なんかね、理沙ちゃんがね!宇宙人の知識を使ってお金をもーけよーって、前から話しててね!」
そんで俺の知らんうちに会社を立ち上げていたというのか?ふざけるな!俺だけ仲間外れにしやがって!
「完全なる玉の輿!大出世!それで、えっと春野翔太様。結婚式はいつにしますか?」
「は?」
ついにナンシーさんまで意味のわからん事を言い出した。
この場にまともな奴はいないのか?
「あ!しょーた思い出した!この人、妄想女だ!リシアと三人でご飯食べ行った時、しょーたがこの人に惚れてるー、とか話してた人だ!」
「妄想?違います。この人は私にプロボーズを……」
「してない」
「ビックな男になって帰ってくるから、その時は俺の女になれって……」
「言ってない」
「…………」
「ようこそ、冒険者様。本日はどう言ったご要件でしょうか?」
この人、一連のやり取りをなかったことにしやがった。
なんてメンタルしてやがるんだ。
結局、俺は彼女にツッコミは入れないまま、盗賊の情報を得て、戦いへと赴くのだった。
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