変わるもの、変わらないもの
「翔太先輩、昨日何があったんですか?」
「ん?いや、まぁ特になにも」
本当は昨晩、夢の中で女神様と会った。
念話で話された様なことを何回も何回も説教されて、約束通り、女神様からオンナを教えてもらった──途中まで。
説教が終わったあと、女神様はたどたどしくも、服を脱ぎ俺を抱きしめた。お互い初めての事で慣れないながらも少しずつ触れ合っていったのだが、俺が抱きしめ返した時、女神様がすっと涙を零したのだ。
初めは羞恥心によるものだと思った。
俺も結構涙目だったから。
「私、誰かの温もりに触れたのは初めてで……」
けれどその時、彼女から放たれた言葉で俺は知った。
彼女は神である。親は存在しない。
彼女は神である。愛を知らない。
彼女は神である。ずっと孤独な神である。
そして、一人の少女である、と。
俺は冷たい床に触れぬよう女神様を膝の上に座らせて、いつまでも抱きしめ続けた。結局俺が帰るその時まで彼女の涙が止まることはなかったが、最後には優しい口付けをひとつもらった。
孤独が彼女を愛すと言うのなら、俺はそれ以上に彼女を愛せばいい。
愛する女神の為ならば俺は全てを捧げよう。
俺はそう誓ったのだ。
「まぁ、先輩が何も無いって言うならいいんですけどね? ただ急に女慣れしたような態度取り出すものだからみんなビックリしちゃってますよ!?」
「あー、なるほどな。そういうことな。けど俺はもうただの童貞じゃないんだぜ? 凄いやつなんだ!」
「何がどうすごいのかはわかんないですけど、みんな困ってるので普通にしてください。普通に」
「へいよ〜」
「あー、それです。そのだらしなく締まらない顔。漂う童貞臭。それでこそ翔太先輩です」
「酷くね!?」
鼻をつまんだ理沙は顔の近くを手で仰ぎながらこっちを睨む。さすがに俺だって傷つくし、泣きたくもなる。ほんと、酷い扱いだ。俺の事を慕っての先輩呼びではない事がよーくわかる。
「まあまあ、怒らないでくださいよ。それよりなにより、今日は新人研修の日じゃないんでしたっけ?」
「ああー、そういやリシアに頼まれたっけ」
「念の為私も連れて行ってもらいますので、ご飯食べたら準備しておいてくださいね」
「はいよー」
新人研修と言っても何か特別なことをするわけではない。
ただ盗賊から金品を巻き上げてくるだけ。
その際に連携の確認や盗賊狩りの知識を伝授するだけのものだ。
盗賊狩りのメリットは大きく3つ。
1つ目は相手がクズだと言うこと。俺だって自分のことを棚に上げるつもりはないが、やっぱり無実の人間を襲うよりはいくらか心が楽だ。
2つ目は賞金首がいた場合ギルドからお金が貰えること。その首を持っていくことで、結構な額の金と交換できる。
そして3つ目が盗賊の持ち物を奪えること。金だけでなく物資や人材が手に入る。
やらない理由がない。
「準備出来たぞー」
俺は適当にスープとパンを腹に詰め込むと、黒の方舟の制服へと着替える。
地下一階から、階段を上り家の外に出ると、4人の女の子たちが荷物の確認をしていた。
なるほど、道理て。
普段なら新人研修はシレーナかアンジーさんが行っている。今回に限り、俺が担当になったのは、恐らく彼女達の職業ゆえだ。
ケーラ 職業:上級女忍
プリシラ 職業:上級女忍
レベッカ 職業:死神
理沙 職業:聖女
全員同じような格好をしているので、見た目の違和感はほとんどないが、職業だけ見ると理沙の浮き具合が半端じゃない。
「ケーラって、この前まで盗賊だったよな?よくこの短期間で上級職まで上げたな?」
俺がそう言うと、灰色の猫耳がピクっと揺れる。
「そ、そうなんですよね……実はここにいる3人、一昨日の特訓を目処に、上級職に就く許可が降りたんです」
ケーラの言葉を肯定するように他の2人も目を伏せた。
そう言えばこの2人も慰めたっけな。
小柄なエルフのプリシラも、クールな澄まし顔のレベッカも一昨日は鼻水垂らして泣いていた。
にしても上級職に就くのってリシアの許可が必要だったんだな。そこまで管理されてるとは知らなかった。
「でもレベッカの死神って職業は初めて聞いたな。そんな上級職あったっけ?」
「死神は暗殺系職の頂点。超級職ですよ」
「マジ!?」
ケーラの言葉に驚いた俺は、ちらりとレベッカの方を見る。こちらの視線に気づいた彼女は小さく首肯した。
いや、まじか。俺ですら上級職なのに?
悔しいわ……。
俺、宇宙人なのにな。
自分が全然特別な存在でないってのは、やっぱりちょっとへこむよな。
はあ。
ため息が出るぜ。
「それはそうとして、今回の盗賊狩りは少し大変みたいだな。敵は火竜の血盟。元Sランク闇ギルドの成れの果てだ。絶対に気を抜くなよ」
ここまでお読みいただきありがとうございます!
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新章始まりました。
真面目な話になると思います(翔太が真面目かはわからない)これからもよろしくお願いします!
 




