主人公の開花。第二形態へ
こっちの世界で初めての友人ができた。
俺はあまり友達という関係は好まない。
形がなく、それでいてお互い不明瞭な線引きによって区切られた世界を干渉し合う関係には、やはり怖いものがあるから。
それでも俺がオリヴィアとの友情を求めたのは、先日のデートでの、リシアの言葉の影響だ。
これまで友達を作らず、ずっと避け続けて来た道だったが、今では進んだ先に特別な何かがあるような気がする。
「けど、『特別』か……」
お付き合いを前提に、って事は俺、ゆくゆくはオリヴィアと恋人になるって事、だよな?
え、どうすりゃいいの?
俺、彼女とかできたことないんだけど。
『お付き合いすればいいじゃない』
「うぉ!女神様!」
久しぶりに話す気がする。
というか、最近話しかけても応答がなかったんだよな。元気そうでなによりだ。
『私もずっと暇ってわけじゃないんだから。知り合いに会ってたのよ」
へぇ、女神様にも人間? 関係とかあるんだ。
あの部屋に誰か来るとは思えないけど。
「女神様、恋ってなんでしょうね」
オリヴィアの事は好きだ。けれど、恋愛の話になってくると、それはまた別の話になる。
『好きだと言ってくれてるようなもんでしょ? だったらとりあえず抱けばいいじゃない』
さすが女神様。俺なんかよりよっぽど男らしい。
『ちなみにこっちに来て半年以上童貞だったのは私が見た宇宙人の中ではあなただけよ。こんなにたくさんの女の子に囲まれて尚そのザマってチキンにも程があるわ』
え、こっちに来た人みんな半年以内に童貞卒業してるの?
日本人は慎ましい人種だったのでは?
「俺は恋と性欲を履き違えたりしませんよ。それに、女神様を助けた後の約束があるじゃないですか」
『状況は変わるものよ。恋と性欲を履き違えないというのなら、尚のこと私である必要なんてないもの。それとも私に恋しちゃってるわけ?』
それを言われると確かにそうなんだよな。
女神様のことも好きだけれど、恋してるかと言われれば、それもまた別だ。
『思いやりも誠実さもあなたの美点ではあるわ。けれど、せっかく女の子がアプローチしてくれてるのに、なよなよと理屈を並べてビビってる男なんて論外よ。見苦しいし、ムカつくし、ウザイ』
「それは、確かにそうかもしれませんが……」
はっきり言われると結構辛いな。
『シャキッとしなさい。そんなんじゃ、そのうち家族たちも愛想尽かして、他所で男作って、その男との間に出来た子供をあなたが養う生活が始まるわ』
「なんですかそれ。めちゃくちゃ辛いんですけど」
『女の浮気の一番の理由は寂しさや性欲よ。つまり男に求められない事が原因が多いわ』
別にオリヴィアも家族たちも俺の恋人ってわけじゃないから、誰を好きになろうと浮気ではないんだけどな……。
『ハーレムって男の夢じゃないの? 大丈夫よ、こっちの世界は一夫一妻の宇宙人の方が少ないし、男が刺されたケースはほとんどないわ』
「ちょっとはあるんですね!」
『ええ、ちょっとはあるわ。一夫多妻の家庭が揉める可能性は36%ね』
「3分の1じゃないですか!?」
『四捨五入したらゼロよ』
「横暴だ!」
『ちなみに36は素数よ』
「2で割れますけど!?」
『ところが残念なことに3でも割れるわ。まだまだね』
確かに!
「……参りました」
『私は凄いのよ!』
「はい、凄いです」
『私を褒めて!』
「凄い女神様! 賢い! 優しい! 可愛い!」
『な、なによちょっとやめてよ!照れるじゃない!』
「わかりました。やめます」
『勝手にやめてんじゃないわよ! 女のイヤとやめては時にふたつの意味があるのよ? 今のはもっと言って、のやめてでしょう。そんなこともわからないから童貞なのよ』
わ、わーお。すげー責められるじゃん。
反撃の火力が高すぎるって。
女の子の言葉って理解が難しい。
女神様に関しては顔も見れないし、色々と察するのが大変だ。
『翔太、今日の夜、夢の中に会いに行っても良いかしら?』
これしかないわね、と少し躊躇い気に呟いた後の言葉。どういうつもりなのかは、定かではないが、少し声が上擦っていた。
『私も覚悟を決めるわ』
「……はい? 俺は別に構いませんけど、どうしたんですか?」
『私がオンナを教えてあげる』
──〇〇〇〇──
翌朝。
朝の教会に爽やかな声が響きます。
「ヘイ、そこのお嬢さん。今日もきゃわいいーね。今すぐにでも食べてしまいたいくらいサッ!」
「ズキューン!!!」
おかしいです。翔太先輩がおかしいです!!!
これまでずっとゴミくそゲロ雑魚ミノムシナメクジ童貞だった翔太先輩から、オトナの余裕を感じます。
ムムさん達も尽くオトされ、みんなメロメロです。
「なぁ、お前のためにドラゴン狩ってきてやるよ。最高のスープを届けてやる。だから、今晩、俺は君を食べたい」
「ズキュ……おっといけない!!!」
危うく私まで絆されるところでした。
一体一晩の間に何があったのでしょうか。
ただひとつ言えるのは、私の鼻が翔太先輩の童貞臭を感じ取れないと言うこと。
やけに大きく上げた胸元も、オールバックの黒髪もいつもの翔太先輩のものではありません。
「ま、まさか……あれが無限電磁キャノン?」
陰キャ童貞の翔太先輩にオリヴィアさんのような陽キャの友達ができることで、これまでねじ伏せられてきた彼の中の陽キャ因子が暴走している!?
だとすれば大変です。
このままでは翔太先輩がヤリチンになってしまいます。ならば、私がやるべき事はただ一つ。
「オリヴィアさん、待っててください! 今すぐオリヴィアさんが好きな、ゴミくそゲロ雑魚ミノムシナメクジ陰キャだった頃の、翔太先輩を取り戻してみせます!」
評価、ブックマークありがとうございます!
はげみになってます!
この章はこれにておしまいです!
次は真面目なお話のはずです




