咲也・此花STEPS!! ~訳ありフリーターの俺が花いっぱいの国でにゃんこな王様になるまで~
アフター・バレンタイン~神王と騎士長の昼下がり~
いくら好きといったって、限界ってものがある。
涙目で俺は、二度目のタイムを要求した。
床の上に身を横たえ、せわしなく息を継ぐ俺を、サクが呆れた顔で見下ろす。
「だからやめて置けといったんだ。
俺は無理だといった。ぜったいお前には耐えられないと言った。
それでも求めたのはお前だ。無理を押し通してこの状況を作ったのはお前だ。
さあ、もう回復しただろう。続きをはじめるぞ」
確かに、言い出したのは俺だった。
しぶるサクに、どーしても! と頼み込み、半ば強引にはじめたのも俺だった。
俺は神なんだ、だからどんな愛でも俺は受け止めてみせるんだ!
そう豪語したのもすべて、俺だ。
けれど、傲慢の報いはすぐ訪れた。
最初は、幸福感しかなかった。
動画撮影用のカメラを前にして、愛の証を貪る行為は、愛へのこたえ、そのあかし。
けれどそれが一時間も続いたころには、さすがに俺は限界を感じはじめ、休み休みに続けても、三時間経てば精も根も尽き果てた。
しかし、スパルタな教育係、俺以上に言い出したら聞かない騎士長は、がんとして俺のギブアップを認めなかった。
腕をつかんで引き寄せようとするサクに、俺は半泣きで抵抗した。
「いや、無理、これ以上無理!
いくら好きってももう無理だから!
「今更嫌がるのか?」
「今だから嫌なんですっ!」
「ああいえばこういう……
だからやめろといったんだ『バレンタインにもらったチョコ全部食べます企画』なんて!!
いくらユキマイの化身であるお前が食ったものはこの国の大地にそのまま還元できるっていったってな!! それにはタイムラグがあるんだ!! 人間としてのその体がいったんそれを消化吸収しかるのち余剰分が大地に還る仕組みなんだ!!
俺はお前にそういったな? 三回お前に言ったよな?!」
「言った!! 聞いた!! たしかにきいた!!
でもできると思ったんだもん!! やれるとおもったんだもん!!
一度でいいからバレンタインチョコおなか一杯食べたかったんだもん!!」
「だからといって世界中からチョコレートを受け付けるなどという馬鹿をやる馬鹿があるか!!
だいたい猫神の化身のくせにチョコレートなどほしがるな!!」
「猫神だからだもん!! 神種差別反対!!
っていうか俺にヒトの部分があるって言ったのサクだよね? 今さっき言ったのサクだよねっ?!」
「……たしかにいまのは失言だ。謝罪して撤回する。
だが、実際問題どうするのだ、この恐ろしい量のチョコレート。
お前は王としてこれをすべて食う、その動画を公開する、といってしまったんだ。
その公約を破れば、ユキマイ国の信用は地に落ちるぞ」
振り返れば、そこには無数のチョコ、ちょこ、チョコ。
執務室からはみ出たそれは、一階の廊下を埋め尽くし、今なお増殖を続けている。
「……どうしよう」
「やるしかなかろう。
幸いお前は『一気食いする』とは言っていない。食い終わりの期限も決めてない。
まずは一日の目標個数を決めて、地道に続けるしかなかろうな」
「そうだよね……はあ……がんばるしかないか。
そうだな、言い出したのは俺だ。やりきるさ、神王の名にかけて!」
「そうだな。
だがいいか、これを教訓に、二度とこういうことをするな。
真に身も心もささげんと、全てを投げ打ち、集ってくれたものたちがいるだろう。
遠く、想いを寄せてくれる者たちも確かに大切だ。だがお前はまず、そいつらにこたえてやってほしいのだ」
「うん、確かに軽率だった。もう、こんなことは二度とやらない。
……ありがとう、サク。
お前は、いつも一番近くで、俺を支えてくれているよな。
俺は、おまえに、どうしたら一番こたえられるだろう」
「それは、――」
サクが戸惑ったように言葉を失う。
俺とまったく同じ、濃緑色の瞳がふ、と伏せられる。
やがて奴は、静かに目を開け、まっすぐに俺を見つめた。
「――此花?」
気がつけばそこは会議室。
そうだ、いまは、バレンタイン企画会議の真っ只中。
俺はどうやら、知らない間に瞑想をはじめてしまっていたらしい。
「どうやら瞑想が終わったようだな。ならば言ってみろ、今度のバレンタイン企画として、お前は何を提案する?」
「はいっ! 世界中からおくられてきたチョコレートを全部食べます!!」
寝ぼけたままで発言した俺の頭には、いつものカミナリ(物理)が落ちてきたのだった。
~おしまい~