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〜ダ○カン、バカヤロウ!篇〜

眼が覚めると、そこは、仄暗い4畳半ほどの小部屋であった。この部屋には、窓は一切無く、外部からの情報が完全に遮断された密室であった。俺は「助けてくれ〜!」と叫んだり、日○大学のアメフト選手の如き勢いで扉にタックルしたりと密室からの脱出を試みてみた。しかし、1時間ほど経過しても誰一人として助けに来ず、扉もビクともしない。


「(これ、リアルにでられへんやつやん)」


恐怖のあまり田舎言葉である関西弁を使ってしまった。失敬、失敬。

しかし、何も無い密室でどのように時間を潰すべきか。まぁ、こういう暇な時こそ、マスをかくのが一番である。思い立ったが吉日。俺は、早速、ズボンを脱ぎ、マスをかく態勢に入ろうとした。その時である。

「ガチャ」

あのビクともしなかった扉が開いたではないか。

「おい、お前、やっと起きたか」

扉から出てきたのは竹子の父・北野竹三郎であった。竹三郎の眉間には、10円玉が余裕で挟めるほどの深い皺が、三筋あり、ブチ切れているのが容易に想像できた。

「お前、なんで竹子の部屋に入ったんや?」

「そ、それは、竹子さんに誘われて……」

「まぁ、詳しい話はええわ」

「(詳しい話、ええんやったら聞くなよ、おい!)」

「まぁ、お前は、堀江組綱領第69条、組長及び幹部に関わる婦女の閨房に入るべからずに違反したんや。郷に入っては郷に従えやでな。うちの敷地ではちゃんとうちのルール守ってもらわなあかん。けど、お前は堂々と破りよった。しかも、組長であるうちの娘の部屋でな」

「いや、俺はただ竹子さんと……」


「永田タイキックー!」


「え……?」

竹三郎がそう叫ぶと、彼の後ろからムエタイ選手らしき筋骨隆々の男が現れた。

「お前が、これから言い訳するごとに、こいつにタイキックさせるからな。覚えとけよ。今回は特別に見逃したげるけど」

さすが、日本一二を争うヤクザの組長である。やろうとすることがエゲツない。

「す、すみません」

「まぁ、ええわ。で、お前には、さっき言うたように、うちらのきまりを破った罪がある。本来なら、北の首領様か中東らへんの国王にでも高値で売りつけるのが通例やけど、お前はまだ若いし、今回ばかりは許したることにしる」

「あ、ありがとうございます!」

「けどな、ただでは返さんで。当たり前やけど」

「え……?」

「お前には、俺から任務を与える」

「に、任務……?」

「せや、任務や。この任務を遂行したら、お前がしたこと許したる」

「任務っていわれても、一体なんなんですか?」

「お前、高見組におる鈴木って男知ってるか?」

「ぞ、存じ上げないです」

数秒間沈黙した後、竹三郎は、ポケットからくしゃくしゃになった新聞の切り抜きを手渡してきた。

『「金髪の呪術師・鈴木ソウキ、和田ア○子氏呪殺未遂か?」』

なんだこの記事は。和田ア○子って「あの○を鳴らすのはあなた」の和田じゃねーか。

「鈴木はな、昔は、主に芸能界で呪代行を行ってた呪術師やったんや」

「芸能界……?」

「せや。10年前までは、芸能界も結構ギクシャクしててな。事務所の対立とか個人的な因縁とか物凄かったんや。で、鈴木はそれに漬け込んで、芸能界向けに呪い代行を行ってたんや」

「ということは、これは和田ア○子を憎む芸能人が、鈴木に呪いを代行したということですか?」

「せや。これは確か、にし○かすみこが鈴木に頼んだんや。けど、和田の呪殺は失敗してしまってな、代わりににし○かが芸能界から消えるはめになったんや」

最近、にし○かすみこをテレビで見ないと思ってはいたが、そのためであったのか。俺はなぜかものすごく腑に落ちた。

「鈴木が芸能界で暗躍してるうちは良かったんや。けどな、最近、高見組に雇われたらしくてな。う、う、うぅ、鈴木め、鈴木の野郎……」

あの鬼の組長と呼ばれ、恐れられた北野竹三郎が急に泣き始めたではないか。なぜだ、なぜ鬼は泣いているのだ。俺は質問せずにはいられなくなった。

「な、何があったんですか……?」

「あいつはな、高見の野郎に、指示されて俺の娘を呪いやがったんや……」

「た、竹子さんは呪われているんですか?」

「お前、見たやろ。あの竹子の無様な様を……。何が、コマネチやねん。何がダ○カン、バカヤロウ!やねん……。畜生、畜生、畜生ッ!」

竹子がビートた○しのモノマネを始めたのは、鈴木の呪いの仕業なのか……。鈴木め、鈴木の野郎め。俺の義心のマントルがふつふつと煮えたぎってきた。

「竹子はな、うちが雇ってる霊能者・クボエニ師の結界のお陰で、呪殺されずには済んだんや。けど、鈴木はな、結界が一切効かない生き霊を竹子に取り憑かせたんや」

鈴木の野郎。どこまで卑怯な奴なんだ。金髪は大学デビューのインキャか慶○大学に巣食うのヤリ○ン野郎のイメージだったが、ここまで外道だとは思ってもいなかった。

「しかもな、その生き霊が、ビートた○しやぞ。まだ、所ジ○ージとか松本○志やったらええわ。あいつらが取り憑いても日常に支障をきたさんから。けどな、よりによってビートた○しや。ほんま、勘弁してくれ」

娘がビートた○しになった父の気持ちを考えると、俺の胸は急に痛くなった。

「今はうちの霊能者・クボエニ師が沖縄巡礼で手に入れた鎮痛剤のお陰で、竹子の症状は満月を見た時だけに限定されている。けど、この鎮痛剤も底が尽きるのは時間の問題や」

「ということは、竹子さんは、常にビートた○しのモノマネを……」

「哀しきかな、そういうことになる……」

な、なんて残酷な現実なんだ。竹子があの愚態を公衆の面前で晒すことになるなんて。

「なんとかならないんですか?」

「その為には、鈴木に呪いを解除してもらう必要がある。しかし、鈴木は逃げ足の速い男だ。そう簡単に、捕まえれる男ではない」

「では、どうすれば……?」

「竹子は、鎮痛剤がなかったら4時間おきにビートた○しのモノマネをし始める。しかし、北○武監督の映画を観ると一時的だが呪いがおさまることがわかった。そこでだ。お前には、公共の場にいる間、4時間おきに、竹子に北○武監督の映画を観せる役割を与える」

「そ、そんな重大な任務、組員にやらせたらいいじゃないですか!僕には役不足です!」

「永田、タイキックされたいんか?」

「す、すみません……!」

「まぁ、ええわ。お前な、組員をつきっきりにしてたら、怪しまれるやろが、もし不審に思った週間文○にでも、竹子のことすっぱ抜かれたら俺らの組の権威は社会的に失墜してしまうやろが」

「でも、僕はどうやってその任務を……」

「そんなん、お前が、竹子の彼氏のフリしたらええだけやんか」

「か、彼氏のフリ⁈」

「せや。竹子の彼氏のフリをして、ビートた○シの生き霊を抑える。これがお前の任務や」

俺が、うわべだけとはいえ竹子の彼氏になるのか。これこそまさに、棚から欲求不満の団地妻である。今の俺には、無機質であった白熱球も、女性ホルモンの塊と言っていいであろう乳房にしか見えなくなった。そうなると、白熱球の周りのハエも恋のキューピッドの様に愛らしく感じられてきた。ありがとう、乳房、ありがとうキューピッド、そして、ありがとう鈴木そうき。俺の人生に、一輪の花を添えてくれてありがとう。




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