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〜ダ○カン、バカヤロウ篇〜

僥倖、僥倖、僥倖。これこそまさに僥倖である。

塾帰りに、喫茶でくつろいでいた俺は、足元に一枚の学生証が落ちてあることに気がついた。学生証の名前を見ると、なんと、同じクラスの北野竹子であったのだ。

北野竹子は、指定暴力団・堀江組の組長・北野竹三郎の娘であり、地元では言わずと知れたお嬢様であった。ヤクザの娘であるにも関わらず、端正な顔立ちの竹子は、クラスの男子からは、アイドルのような人気があった。また、女子からも竹子の放って置けない天然キャラは愛させており、男子からも女子からも大人気であった。

そんな、みんなの「アイドル」竹子の学生証を俺は手に入れたのである。これは僥倖である。これを竹子の家に届けて、お近づきになれれば……。俺の妄想は、朝の○○○のように膨張していくばかりであった。

早速、竹子に届けるべく、俺は裏に記入してある住所まで向かうことにした。


喫茶から出て30分ほど歩くと、要塞の様に堅固な家が、突如として住宅地から現れてきた。俺の身長の4倍もあろうかという大きな壁は、家の様子を一切、俺に見せようとしない。その壁から唯一見えるのは、瓦の屋根と松の木だけであった。月に照らされた松は、湘南でナンパ待ちをする黒ギャルの様に、ボディーラインがはっきりしており、私の○○○を○○させるほどのフェロモンを放っていた。

「ここが、竹子の家か…」

俺は、意を決して、大きな扉にぽつりとついている突起物を、「にゅぎゅっ」と強く押した。

「ピーンポーン」

閑静な住宅街に、淡白な機械音があり響く。

男性が小便をし終えるほどの時間が経過すると、扉の奥から「はーい」という女性の声が聞こえてきた。

竹子であるー。

俺の心臓は、南方の部族が奏でる太鼓のリズムのように激しく鼓動していた。それと同時に、いわゆる「賢者タイム」のような背徳感と後悔が一気に押し寄せてきた。まさに、アンビバレンツである。

「(俺、竹子と同じクラスだったけど、一回も話したことなかったじゃねーか。何してるんだよ。一回も話したことない男子が、亥の刻(いのこく=午後10時の2時間前後)にクラスの女子の家に訪問するなんてやばすぎるだろ!なんで、俺は明日、学校で渡すという選択肢を選ばなかったんだよ。俺のばかばかばか!)」

緊張と後悔で、私はレンジでチンしたゆで卵の様に、大爆発寸前であった。

「ギーッ」

巨大な扉が開いたー。

「どちらさん?」

パジャマ姿の竹子が、目をこすらせながら出てきた。

「えっと、あの……」

「ん?なになに⁇てか、君って、確か、同じクラスの……」

「ナガタトモキデスッ!」

緊張のあまり、カタコトで名を名乗ってしまった。不覚、不覚である。

「あ、永田くんか!でも、どーしたのこんな時間に……?しかも、なんで私の家を……」

声が喉に詰まって、出てこない。

「エッと、あの、その……」

「な、なに?」

「コレです!!」

俺は、竹子の学生証を、リニアモーターの様な勢いで、ポケットから出した。

「あー、これ、うちの学生証じゃん!無くなってて困ってたんだよねー!」

竹子の笑顔を見るや否や、俺の心臓で踊り狂っていた部族どもは一気に静まり返った。

「喫茶・玉門(ぎょくもん)で、落ちてるの見つけて……」

「本当にありがとー!永田くん!無くなったから、どーしよーか困ってたところなんだよねー」

「全然、大丈夫だよ。じゃあ、俺は帰るね」

もっと話さなくていいのか、俺。睾丸で濁流の如く分泌される男性ホルモンとは、正反対の発言をしてしまうなんて。いつも俺は、肝心なところで逃げてしまう……。不覚、不覚、不覚である。

「ねぇ、ちょっとお茶していかない?」

ん?これは、私の聞き間違いか?

「え、なんて言ったの?」

「だから、うちでお茶していかないかって聞いてんの……」

少し照れながら竹子はそう言った。

頰を赤く熱らせながらの竹子のお誘いを断る男子など、浮気のしない、川○絵音のようなものである。

「(トモキ、いっきまーす!)」

俺は、心の中でこう呟きながら、大きな扉の向こうに、ニュルッと進んでいった。

門をくぐると、外からは瓦屋根しか見えなかった家の全体像が私の目の前に現れた。これが、竹子の家か……。あまりの大きさに、私は言葉を失った。

「永田くん!ぼーっとしてるけど大丈夫?」

「う、うん!大丈夫、大丈夫」

気がつくと私の目の前には、この堅牢な要塞の扉が私を待ち構えていた。

「ここが家の扉だよ!パスワードは、なんでしょー⁇永田くん、当ててみて」

これはもうあの数字以外ないだろう。

「893?」

「えー⁈なんでわかったの……!永田くんもしかして、高見組のスパイ⁈」

「いや、ヤクザだから893かと思って……」

「ほんと、天才だね!天才すぎるよ、永田くん!絶対、メンサ入れるわ」

さすが、愛される天然キャラ。天然さにわざとらしさが無い。

家に入り、数分歩くと、竹子の部屋に着いた。竹子の部屋には、サ○リオのシ○モンやマ○メロ、バッ○ばつ丸のぬいぐるみがいたるところに飾られていた。

「サ○リオ、好きなの?」

「ううん。全然、好きじゃない。お父さんが勝手に買ってくるから置いてるだけ」

さっきまで、ニコニコしていた彼女の顔が、急に女面(女の能面)の様な暗い表情に豹変した。

「なんか、変な質問して、ごめんね」

「いや、いいの、私は一生、サ○リオのキャラの量産型の顔面に囲まれて死んでいくのよ」

俺は、返す言葉もなかった。竹子のサ○リオを見る目は、まるで汚物を見るかの如くであった。これは話を変えなければ。

「あ、そういえば、今日、満月だよ!ほら、カーテンを開け…」

「開けないで!!」

竹子の声は俺の動きよりも少し遅かった。

「え、なんで…?」

竹子がうつむき始めた。

「だって、満月って女のコを豹変させるの。太古の昔から、満月は、女のコそのものだったんだもの……」

竹子がうつむいたまま動かない。

「だ、大丈夫か⁈おい!竹子さん!」


「なんだ、バカヤロウ」


「え…」

「ダ○カン、バカヤロウ!コマネチ、コマネチ」

「竹子さん……?」

「コマネチ、コマネチ!なんだ、バカヤロウ!」

「え……?」

俺の脳は、情報過多により、機能が停止してしまった。

「ダ○カン、バカヤロウ!コマネチ、コマネチ!」


「ドンッ!」

扉がものすごい勢いで、開いた。すると、そこには、竹子の父・北野竹三郎がいた。

「おい!!お前!今すぐテレビつけろぉー!!」

「は、はい!」

言われるがままに、俺は手に取り、テレビをつけた。テレビを、つけると映画「アウトレイジ」が流れている。

「コマネチ、コマ…」

竹子は、崩れ落ちるように、倒れていった。

俺は、何を見ているんだ。竹子は、一体どうなったんだ。そもそも、竹子は大丈夫なのか。様々な問いが生じながら、呆然と立ち尽くしていた俺の意識も、ドンッという鈍い音とともに、とんでいった。

(続く)





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