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出てきたけれど。

「それでは樹お嬢様を呼んでまいりますので、しばらくこちらでお待ちください」

「………………は、はい………………」

お盆からケーキと紅茶を私達の前に置いたメイドさんは、そのままスッと扉の向こうに消えていった。

「………………………………」

「………………」

応接間(?)のテーブルの上に置かれたケーキをじっと見つめて、私とエリカは動けずにいた。

(………………い、樹の家ってどんだけお金持ちなの!?)

このティーカップ一つとってもキレイに磨きあげられてるし、きっとケタ違いに高いんだろうなぁ………………お、おっかなくて持ち上げられないよっ!?

「………………マホロ」

「ひゃっ!? ………………な、なに、エリカ………………」

「………………こうしててもしょうがないし、とりあえずケーキと紅茶をあがろう………………」

そういうとエリカはフォークを取り上げてケーキを切り崩す。そして、何のためらいもなく口へと運ぶ。

「む、美味いなこれ」

もぐもぐと口を動かすエリカを見て、あきれ半分で、

「………………このタイミングでよく食べられるね、私なんか、おっかなくて、とてもじゃないけど、食べられそうにないよぉ………………」

とりあえず私もケーキを切り取って手持ち無沙汰につんつんとつつく。………………あ、柔らかい。食べてみようかな………………

その時、後ろにある扉がガチャリと開く。思わず振り返ると、

「………………いつ、き………………?」

「………………なんできたの?」

小綺麗なドレスに身を包んだ樹が、そこに居た。

「なんでって………………突然居なくなったから心配して………………」

「それは………………ごめん。でも、磨穂呂とエリカが、悪いんだからね?」

「えっ………………」

「それは、どういう」

「とにかく帰って」

エリカにその先を言わせず、樹は強引に話を打ち切って扉の向こうにまた消えていく。追いかけようとする私の袖を、エリカが引き止めた。

「エリカ、なんで止めるのっ」

「………………マホロ、一旦落ち着こう。ほらケーキもまだ食べてないじゃないか。とりあえず紅茶を」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」

初めてエリカに対し声を荒らげる。でも、そんな私をエリカはそっと抱きとめる。

「………………だから落ち着けって。このまま力ずくで樹のことを連れ戻すつもりか? ………………お手伝いさん達に止められるし、第一その後どうするんだ? ………………まさか、寮に戻せばどうにかなるって思ってるんじゃないだろうな?」

「うっ………………」

そう言われて私も止まる。………………確かに、なんにも考えてなかった………………

「………………落ち着いたか? なら、とりあえずケーキ食べな。それから考えよう。………………後は、メイドさん達からも話聞いてみよう。何か知ってるかもしれないし、ガードマンさんの話からしてもどことなく協力的な感じだからな。」

「………………わかった、落ち着く」

とりあえずソファに深く座り直して、ケーキを口へと運ぶ。………………あ、これ美味しい。

「………………しかし、樹はなんで出ていったんだろうなぁ。」

エリカが紅茶を飲み干しながら問いかける。

「だよねぇ。そこが分からないとどうしようもないし。」

紅茶の香りも味わいつつ頭を働かせる。………………考えられるのは、私たちが最近樹に構ってあげられなかったから、あとは………………子供扱いし過ぎたから、なのかなぁ………………

「ちっす、紅茶のお代わり持ってきやした~」

いきなりドアが開いて、浅黒いメイドさん? がずかずかと踏み込んでくる。

「あ、ありがとう、ございます………………?」

ぶっきらぼうなメイドさんに戸惑いつつティーカップを差し出すと、扉の向こうからもう一人メイドさんがすっ飛んできてこのメイドさんをお盆で叩く。………………しかも、頭を、縦で。

「いってぇぇぇ!?」

「お客様になんて口の利き方するんですかっ!? ………………申し訳ありません、樹お嬢様に一番近いメイドなので任せたのですが………………はぁ」

飛んできた方のメイドさんが頭を抱える。

「いーや、こんな扱いで充分だ。樹お嬢様のことを泣かせた奴らだぞ?」

「だとしてもっ!! 主人のお客様である以上はおもてなしするのが仕事ですっ!! ………………っと、お見苦しい所をお見せしました。」

「あ、いえ………………お構いなく? ………………って、私たちが樹を泣かせたっ!?」

「………………あら? もしかしてご存知ではない………………?」

「い、いえ………………心当たりはあれど、実際に泣かせたことは」

「へっ、言い逃れする気か?」

「ラスルシャっ!! あなたは黙ってて………………と、なると………………どうやら私たち使用人とあなた方、そして樹お嬢様の間で何らかの齟齬があるようですね………………」

メイドさんは一つため息をつくと、手をパンパンと打ち合わせる。すると、四方の扉からメイドさんが集まってきて私たちのことを取り囲んだ。

「………………どういうつもりか、教えてもらおうか?」

私の事を後ろにかばいつつ、エリカが最初のメイドさんを睨む。するとメイドさんも目を白黒して、

「待ちなさい。………………手空きのメイドがこんなに居るわけないわよね? 気になるのは解るけど、仕事を放り出さないこと。さ、戻りなさい」

そう言うと、あれだけいたメイドさんが波が引くように去っていく。後に残ったのはほんとに10数人で、

「申し訳ありません、うちのメイドは皆、樹お嬢様のこととなるとつい熱くなってしまって………………」

「い、いえ………………」

し、死ぬかと思ったぁ………………

「しっかし命拾いしたなーあんたら。みんな樹お嬢様のこと好きだからな、強引に連れ戻そうとしてたら」

浅黒いメイドさんがスカートをめくったかと思えば、私の首筋に警棒が当てられていて、

「………………死んでたかもよ?」

背中を冷や汗が駆け抜ける。

「ラスルシャ、この方達は今もまだ『樹お嬢様のお客様』なのですから、その物騒なものは仕舞いなさい。………………それに、樹お嬢様を泣かせたと言うのは、どうやらこちらの認識違いのようですし。」

「………………わかりましたよっと」

首筋から警棒が離れると、私はその場にへたりこむ。

「ごめんなさいね、ラスルシャは特に樹お嬢様と歳が近いから……………」

別のメイドさんが後ろから話しかけてくるけれど、思わずそのスカートの下を想像して身を固くする。

「………………あ、心配しなくても大丈夫よ。面と向かって敵対しない限りは、私たちはお客様の味方だからっ♪」

「は、はい………………」

………………な、なんだかとんでもない所に来ちゃったような………………

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