つられてきたのは。
「ん、これ、どうぞ。………………匂いで迷惑かけちゃったから、お詫びに少しだけあげます。味見、してみてください。」
野菜と煮込んだチキンスープを、小皿に取り分けて3人に渡す。
「わぁっ、なんだかおいしそうっ」
ちっちゃい方の子がくんくんと匂いを嗅ぐと、すかさずフルートを持った子がたしなめる。………………んだけど、たしなめつつも小皿のスープをちらちらと見ていて。ぽっちゃりさんの方は………………あ、もう飲み干してる。
「んぅ〜おいしいっ!! お肉って感じの味なのに、野菜っぽい味もしてて、しかもこってりじゃないぃ、ほんとにおいしいっ、ねぇおかわりっ!! 」
小皿をぐいぐいと押し付けてくる。それを見て、2人も弾かれたように小皿の中身に口をつける。そして、2人とも無言でお皿を差し出してくる。
「………………んー、味見してとは言ったけど………………この味を待ってる人がいるんで、みんな、あと一杯だけですからね?」
「えぇー、そんなケチ臭いこと言わないでよっ」
「ちょっとひーちゃん、それはいくら何でも失礼なんじゃ………………」
「えー、ひーちゃんお腹空いちゃったよー。だから、もっと………………ね? 」
上目遣いに見つめてくる。けど、マホロやイツキならいざ知らず、見ず知らずの人の色目になんか私が反応するわけ無くて。
「ダメです。」
と、3人のお皿に少しずつよそってあげると、私はまたチキンスープ作りへと戻った。
「………………ケチ」
「ひーちゃんっ!!」
と、2人の間で何やら言い争いになる。………………さて、残りのひとりは……………………
「………………おかわり。」
「ダメですって。」
「………………いいじゃないの、ちょっとぐらい。」
相変わらずお皿を突き出しておねだりしてくる。
「いや、あなたの『ちょっと』は絶対『鍋一杯』のことに違いない。………………これ以上あげるわけにはいかないんです、………………………………待ってる人がいるんで。」
「あら、それを言うなら私も待ってる人よ?」
「………………………………ちっ。Er Störend。………………見ず知らずのあなたにこれ以上は飲ませられないんです、いいですかっ!?」
「なら、見ず知らずじゃ無ければいいのね? あたしは牧間 旋花、料理部なの。」
「いや自己紹介しろとは言ってませんから………………ああもうっ!!」
ついにぷっつん切れた。
「私のっ!! マホロが!! 苦しんでるのっ!! あなたに、構ってるヒマは、ないんですっ!!」
久しぶりに声を荒らげると、向こうは一歩下がる。これ幸いとスープに取り掛かろうとすると、また距離をつめてきて、鍋の中をのぞき込む。
「………………うん、そろそろ大丈夫そうね。」
「………………………………は? 」
意味がわからずにきょとんとしていると、向こうは頭をかいて、
「………………………………いや、さっきまで鶏肉をぐつぐつに煮立ててたでしょ? 水から煮たんならアクとかがわかりやすいけど、最初っから色がついてたからね。………………少し冷めてからなら、一緒に上の方にいた旨みが沈んで、わかりやすくなるだろうなって思って。」
私も慌てて鍋の中を覗き込むと、確かに、さっきは見えなかったアクが浮かんでいて。
「………………………………まさか、この為にあんな演技を………………」
「んー? 美味しかったからもっと食べたいってのはホントだよ? 」
「ふふっ………………………………これは申し遅れました。私、一年の、エリカって言います。………………これだとまだ完成じゃないんで、出来上がったらまた味見の方、お願いしますね。」
そう伝えると、ニンジンを二つに切って銀杏切りにして鍋の中に入れる。………………ほんとは麺を入れたいんだけど、今から戻してる余裕はないし………………さっき取り出したタマネギたちも刻んでお鍋に戻してまた煮込む。その間に煮込んでほろほろになった鶏肉から骨を外してまた鍋に戻してっと………………うん、こんなもんかな。
「………………味見、お願いします。」
また3人に小皿を回すと、
「ん〜っ、これもおいしいっ!!特にこのお肉のホロホロ具合がまたっ」
「………………お肉が柔らかくて、私にも食べやすいです………………ひーちゃんは、どう? 」
「すごくおいしい!!」
「ふふっ、………………そうか、すごくおいしい、か。………………なら、良かった。」
鍋つかみをはめて鍋を握ると、そのままキッチンを出る。
「だ、大丈夫? こぼさない?」
「いやいや、こぼしてる暇なんて私には無いですから。………………待たせてる人が居るもんでね。」
………………さーて、マホロと、あとイツキもお腹空かしてるからな、早く戻らないとっ。




