カーテン・コール。
………………エリカと、お風呂。それも、私の部屋の、狭いシャワールームで。
………………最初に提案された時は、気恥ずかしさが大幅に勝った。けど………………私自身、寝汗でべとっとしてるし、それに………………ひとりぼっちは、寂しいから………………。
「ん、エリカ………………入るよっ」
一応断ってから扉を開ける。脱衣場には、私のバスタオルをちゃっかり拝借したエリカが待っていて。
「………………マホーロ、脱ぐの手伝う。」
伏し目がちにそう言って、服に手をかけてくる。それを遠慮がちに振りほどいてから、
「………………うん、まだ大丈夫………………。まだ、服ぐらいだったら自分で脱げそう、だから………………向こうで、待ってて?」
そう声をかけると、一瞬むっとした顔になって、後ろを向いてバスタオルを解く。立ち去り際に寂しそうに
「………………じゃあ、待ってるから。」
って言われたのが、心にズキンと響いて。………………私、エリカに悪いこと、してるのかな………………って。
地味な私服を解くと、オトナっぽい下着が顔を見せる。しっとりと汗の染み込んだ紺色の布地からは、むんわりとしたオンナノコの香りが漂って………………ここに洗濯機があったら即座に放り込んでタイマーをかけたいぐらい。最もそれは、隣にきちんと並べられたエリカの『抜け殻』にも同じ事が言えてっ………………
(………………湿ってる。………………練習、ハードだったのかな………………)
自分の着替えを並べるために、何の気なしに掴んでずらそうとして、その手を動かせない。………………同じ『汗』なのに、その手のひらに感じる『熱の残り香』は私と全く違って。
(………………って、そんなこと考えてる場合じゃなかった………………)
最後の一枚を両足から引き抜いて、ハンドタオルを胸に押し抱いてシャワールームの扉を押す。
「………………遅い、って言いたいけど、まぁ許す。」
一糸まとわぬエリカが、半歩歩みを進める。
「………………先に、頭と身体………………どっちから洗う?」
「………………んっと………………エリカのやり方に任せる。ただ………………プライベートなとこは自分でやらせてね?」
「わ、分かってるって………………」
………………………………なら、なんでそんなに残念そうなの? 怒るよ?
「………………ん、なら、背中から………………」
その言葉に背中を向けると、なんの予告もなくお湯が降ってくる。
「ひゃっ!? ………………も、もうっ、一声かけてよっ!?」
「す、すまないっ………………じゃ、じゃあ、始めるから………………マホーロは、自分の身体洗って?」
「う、うん………………」
ボディーソープをタオルに付けて、つま先からそっと汚れを泡に馴染ませていく。背中に時おり感じる、柔らかな弾力のことは極力頭の中から追い出してっ………………て、言うか………………エリカ、わざと押し付けてない?
「マホーロ、そんなに動くなって………………」
「だ、だって、くすぐったいし、………………おっぱい、当たってるっ………………」
「し、しょうがないだろっ………………せ、狭いんだから………………」
「樹と入った時ですらちょっと狭かったしね………………おっきな私達二人だと、身動きするのも難しい、かな………………」
エリカの手が止まって、タオルもずり落ちる。
「………………………………エリカ?」
その問いかけの答えは、私の胸に回された手。下から上へとスススと這い上がる。
「ひゃっ!? ………………も、もう、エリカ、悪戯しないでっ………………」
「だ、だってマホーロが………………樹のことを言い出すんだもの………………ちょっとだけ、嫉妬した。」
「あぅ………………ご、ごめん………………」
………………そ、そりゃあ嫉妬する、よね………………反省。
「………………マホーロ、ちょっとそっちにズレられる? ………………ふふ、私の背中もお願いしようかな。」
「あ、うん………………」
僅かに作ったスキマをかいくぐってエリカの後ろに回る。途中、お互いの『弱いトコ』がぶつかって変な声も出たけど………………なんとか気を確かに持って、エリカの背中にタオルを当てる。………………あと、さっきの仕返しにちょっとだけ胸も寄せる。
「………………マホーロ、タオルと胸とどっちかにしてくれ………………」
「せ、狭いから、無理っ………………」
そんなこんなで、お互いヘトヘトになりながら全身を洗い終わる。
「………………ふぅ………………さて、と。次は髪かな。」
エリカがそう言うと、自分の髪にシャワーを当て始める。すかさず私がシャンプーを泡立ててエリカの頭を丁寧に泡まみれにしていく。
「………………ん、その辺でいい。次はマホーロも。」
「ううん、先に泡流しちゃお?その方がいいでしょ?」
「そ、そうか? なら、お願」
「あ、エリカおでこになんか付いてるよ?」
「ん、ほんとか?」
「うん。」
そう言うと、おでこのゴミを取るふりをしてすかさず唇を奪う。少しの間ぽかーんとしていたエリカだったけど、
「………………そうか、ハメられたか。」
「ふふっ。………………さ、お湯かけるよ。」
「あ、待てっマホロ」
言い終わる前にざぁっとシャワーの雨を浴びせる。泡を残さないように丁寧に流すと、エリカが髪をかき分けて私のことをニヤリと眺める。
「やったな?………………ならこっちもお返し………………と行きたいところだが………………まぁいいか。さ、洗ってやるから頭貸しな。」
「ちゃんと返してよ?」
と、首を持って外す真似をするけど、真顔でシャワーヘッドを当てられた。………………ちぇっ、エリカ、つまんない。
「ん、洗い流すからな。」
ちょっと早めにシャワーを当てられて、私の視界が曇る。
「………………シャワー中だし、聞こえてないよな………………実は、『マホロ』ってちゃんと言えるけど、面と向かってちゃんと呼ぶの恥ずかしいから、今まで訛ってるフリしてた………………ごめん。」
エリカの呟きは、シャワーのカーテンの中でもはっきりと聞こえて。
「………………さて、終わりっと。」
「ありがと。………………『エーリカ』。」
「………………む、『マホロ』は真似しなくていいっての………………///」
そっと扉にかけた手が、『エーリカ』の手と重なり合って、二人で脱衣場への扉を開けた。
ほんとにここ最近いっつんが置物扱いされてる気がする。




