扉の向こうで。
やっぱりエリカ回だよ
マホーロの部屋のバスルームに足を踏み入れると、まずはひんやりとした空気に襲われる。マホーロの香りは………………さすがにしなかった。
服に手をかけてからふと思い出して、扉を開けて首だけ出して、マホーロに話しかける。
「これからシャワー浴びるから、呼ばれても聞こえないかもしれない。だから………………………………何かあったら、ここの扉を開けて。ためらわなくていいから。」
「う、うん………………わかった………………」
少し苦しそうなマホーロの声に、胸がちくりと痛む。………………………………早くシャワー浴びて、イツキにバトンタッチしないと。
汗が引いたとはいえ、まだしっとりとしたままの下着を脱ぎ捨てて洗面台の前に立つ。置いてあるカップのなかには、歯ブラシと歯磨き粉がまだ封も切られていないままに立っている。あとは、寝癖直しとクシが置いてあるだけの、殺風景な洗面台。………………不思議だな、私の部屋にあるのと同じ設備なのに、使う人によってこんなに違うんだもの。
私の部屋の洗面台には妹の写真や家族写真が鏡に貼り付けてあるし、クシ以外にもハンドドライヤーとか転がってるから、シンプルなマホーロの部屋の洗面台と比べると、どことなくゴチャゴチャしてるように思える。………………………………っと、こんな観察してる場合じゃないな。
浴室に一歩足を踏み入れると、まず中の様子を見渡す。………………………………ほぅ、これがマホーロ愛用のシャンプーか。それにこれは………………ボディーソープか。見たことないブランドだな、使ってみよっと。
壁にかけたシャワーからお湯を出すと、まず床にお湯が叩きつけられる。………………ん、ちょっと熱いな。もうちょい埋めて………………ん、このぐらいだな。足を踏み入れてシャワーの滝を潜ると、視界も聞こえる世界もまったく変わる。頭のてっぺんに降り注いだシャワーの雨が、私の汗を洗い落として排水溝へと消えていく。………………ふぅ、あったかいな。………………でも、私はこれよりもあったかいものを2つ知っている、知ってしまっている。その片方は、今はそこのベッドでうんうん唸ってるけど………………………………
………………マホーロ、か。最初に風呂場で会ったときは不思議なやつだと思ったけど、………………今は、私の中でこんなにも大きな存在になって、愛しくて、不思議な気持ち。もちろんイツキも大切だけど、それとはまた違った感情で。
………………そろそろ、頭洗うかな。シャワーの滝から一歩踏み出すと、扉の向こうで物音がする。
「………………マホーロ?」
問い返すと、返答は無くて。
「………………マホーロ、どうした?」
そっと戸を開けて様子を伺うと、
「………………あ、ごめん。何でも、ないから………………」
洗面台の扉の前で、マホーロがちょこんと座っていた。
「そ、そうか………………」
少し残念に思って扉を閉めたあと、
「………………石鹸とか使わせてもらうからな。」
と、一言断ってから、まずシャンプーを手に取る。両手に広げて泡立てると、シャカシャカと髪をかき回す。………………む、これは泡立ちがいいな。もう少し先の方もっ。
「………………………………あの、エリカ………………?」
「………………………………む、なんだ?」
「………………私のお風呂の中、色々と漁ったりしてないよね?」
ぎくっ。
「そ、そんなことしてないぞ。」
「………………………………どうしたんだ?そう言われると気になるじゃないか。」
「………………んっと、………………エリカはさ、私のことどう思ってるのかな、って。」
「どう、とは?」
「………………いや、さ。私って、話すのヘタだし、背だっておっきめだし、………………お、おっぱいだってみんなよりもおっきいし、みんなと比べて目立ってるけど………………エリカは、こんな私をどう思ってるのかなって。」
「どう、か………………ふむ。」
出しかけたシャワーを止めて考え込む。………………私自身、マホーロのことはほとんど何も知らないと思ってるけど………………それでも、一つだけ知ってることならあるつもり。
「………………………………いいんじゃないかな。それがマホーロらしくて。」
「………………………………ふぇ?」
「………………確かに、ほかの人がマホーロを見たら、少し変わってるって思うかもしれない。けど、それを言ったら私なんてどうだ? 髪は自然な栗色だけど、顔立ちはどっちかと言ったら外国人っぽいし、それに胸だってマホーロよりもちょっと大きめだし………………」
「あ、いや………………………………胸の話はやめよっか、うん。」
………………そ、そうだな………………
「こ、コホン。………………マホーロはマホーロらしく、それでいいんじゃないか? ………………それに、そんなマホーロのことが、す………………」
「………………す、………………その先は?」
「………………い、言わせたいのか?」
思わずシャワーヘッドを握る手に力がこもる。
「………………うん。エリカの口から、聞いてみたい、かな。」
「………………意地悪だな、マホーロ。………………ん、わかった。………………………………マホーロ、好き、だっ。」
「………………私もだよ、エリカ。」
マホーロも優しくそう言い返してくる。………………………………あ、なんだか言ったあとで急に恥ずかしくなってきた………………
「………………ちょ、ちょっとシャワー浴びるからなっ!!」
慌ててシャワーを出して、ちょっとぬるいのもお構い無しにひっかぶる。もうとっくに泡は流れてるのに、それでも何度も何度も洗い流す。
(………………………………マホーロの、いじわる………………)
胸に手を当てて、早くなる鼓動を感じる。まだ12才のこの身体が、ほんのりと熱をもって、マホーロのことを求めてる。………………………………い、いやいや、そんなのはもっと後になってからじゃないとっ………………………………って、私はナニを考えてるんだっ!?
「………………エリカ、大丈夫………………?なんか壁にぶつかる音がしたけど………………」
「だ、大丈夫だ、問題は、ない………………」
余計な考えを振り払うと、次は身体を洗い始める。マホーロのボディーソープをタオルにとると、指の先からつま先まで伸ばしていく。………………む、この香りは………………マホーロの香りだ。そっか、このボディーソープの香りだったんだ………………………………マホーロに、私が、包まれる………………?
身体を見下ろせば、私の身体の至るところ、それこそ大事なトコもみんな、ボディーソープの泡に包まれていて………………………………頭が一瞬で沸騰する。
「………………エリカ、ほんとに大丈夫………………?」
「す、すまない………………………………ボディーソープが目に入った………………」
「なんで目に………………」
いぶかしがるマホーロ。………………いや、さすがにホントのこと言うわけにもいかないよな、うん。
「………………………………そういえば、マホーロは身体洗わなくて大丈夫なのか?汗とかかいてそうだし………………」
「………………えっと、エリカが出たら入ろうかなって。」
「あー………………実はイツキをキッチンに待たせてるんだ。だから、次はイツキを………………」
………………いや、そもそもマホーロは自分で体を洗う気力と体力はあるのか?
「………………なぁ、一人でシャワー浴びれそうか?」
「………………………………正直、キツイかも………………」
マホーロが、少しためらった後に言う。
「あ、あの………………それなら、私が手伝ってやろうか?ほら、ちょうど今裸だし………………」
って、私は何を言って
「………………………………お、お願いしても、いい………………?」
「………………………………え?」
………………………………え?ほんと、に………………?




