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一方その頃

エリカはその頃

「………………………………99、100………………ふぅ。」

私は振り上げていた竹刀を下ろして、額の汗を拭う。

「おつかれ、だいぶサマになってきたな。」

「あ、………………リンカ、先輩?」

「む?どうして疑問形なんだ?」

「あー、えっと、まだ名前を覚えきれてなくて………………」

「そ、そうかっ………………お、オホン!!どうだ、一つ打ち合ってみるか?」

「………………………………え、あの、ちょっと………………」

「なぁに。」

面体の向こうにいたずらっぽい笑みが見える。

「ずっと何も無いとこに向けて竹刀を振り続けるのも退屈だろうしな、さ、どこからでも打ち込んでこい。」

面体の向こうでニヤリと笑う。………………………………そ、それなら。竹刀を握る手に力を込めて一歩踏み出す。でも、その一歩が遅すぎた。バコンという変な音と共に、頭の上に竹刀が降ってくる。

「防備がおろそかだ。攻めるだけじゃ勝てないぞ?それ、小手面っ。」

思わず竹刀を取り落とすと、次の面は必死でかわす。………………た、確か取っ組み合いもありだったな、ならっ……………… 体重をかけてリンカ先輩にのしかかると、そのままもんどりうって床に転がる。

「なっ、いきなりはひきょ………………ふへ?」

「………………イタタ………………押し倒すのって力が要るな………………ん?」

左手に感じたのは、弾力を感じる柔らかさで。

「………………あ、ごめん、なさい………………?」

リンカ先輩の顔がみるみるうちに赤くなっていって、

「う、うわぁぁぁぁっ!?し、心頭滅却、心頭滅却ぅっ!!」

私のことを跳ね除けて、道場の壁に頭突きし始める。………………うーむ、ほんとによく分からない先輩だ………………


そんなことも挟みつつ、練習を終えて道着を着替えた後、私はまっすぐ菊花寮への道を急いでいた。 その理由はもちろん、寮のシャワーで早く汗を流したかったのもあるけど………………マホーロとイツキに早く会いたいからってのが一番の理由かな。汗まみれなまま会うのは嫌だけど、それならそれでお風呂に誘えばいいし。………………あ、でも今はイツキがダメか………………

そんなことを考えつつトコトコと菊花寮の前に立つと、ポケットの携帯が震える。取り出してみれば、

「で、Telefonが20件だと!?しかも全部イツキから………………」

これはただ事じゃないぞ………………慌ててイツキに電話をかけると、ワンコールもおかずにイツキが電話に出る。

「あ、エリカ!!早く磨穂呂の部屋に来て!?」

「お、落ち着けイツキ!!………………ま、マホーロに何かあったのか!?」

「分かんない………………でも、電話にも出ないし、お部屋にも鍵がかかってて………………」

「わかった、すぐに行く!!」

猛ダッシュで廊下を駆け抜けると、通りすがる人達の文句をかいくぐりながらマホーロの部屋の前まで突っ走る。そこには、既にイツキがおろおろしながら待っていて、

「………………よ、呼んでも返事がないの………………」

「ちっ、中で何が起きてるんだ………………?」

ひとまず、マホーロの携帯にかけてみる。eine,twei,drei,………………虚しくコール音だけが聞こえてくる。

「り、寮母さん呼んでこよっか………………?」

イツキが足元でうろちょろするのさえうっとおしくなる。………………ダメ、なのか………………

「………………………………イツキ、Schlafsaalを」

諦めてそう言ったその時、プッと音がしてマホーロが電話口に出る。

「………………………………んぁ、エリカ………………?」

「マホーロ!!………………よかった………………、心配、したんだからなっ………………」

「………………………………エリカ、どうしたの………………?」

「………………イツキがな、部屋の鍵も開かないし、電話にも出ないって、心配してたんだ………………」

「かぎ………………………………?あ、かけちゃってた………………?いま、あけるね。」

なんだか幼くなった声の調子に心配していると、やがて鍵が内側から開く音がする。そして、ゆっくりとドアが開いて、マホーロの姿が現れる。

「まほろっ!!」

真っ先にイツキが飛びついて、そのままマホーロのことを床に押し倒す。

「こらこら。いきなり抱きつくのはないだろ………………マホーロ、立てるか?」

「………………あ、うん………………だい、じょうぶ。」

薄暗い部屋の中で目が慣れてくると、マホーロの顔色がだんだん分かってくる。

「………………なんだか顔が赤いぞ。それに………………寝てたのか?」

「………………うん、なんだか、とってもねむくて………………モヤモヤしてて、おなかもキュっていたかったの………………たぶん、わたしにも、もうそろそろ『くる』んだと、おもう………………」

私に体重を預けてやっと立っている、といった様子のマホーロを、ひとまずベッドに座らせる。イツキが気をきかせたのか、部屋の明かりもつけてくれた。

「………………大丈夫か?熱っぽいみたいだけど………………」

「………………うん、たぶん、フトンにこもってたから、だと、おもうの………………」

「………………にしては熱すぎるだろ………………イツキ、冷えピタとスポーツドリンク、超特急で。」

「わ、わかった!!」

イツキが部屋を慌てて出ていく。その間に、悪いとは思いながらも私は部屋の冷蔵庫を漁る。………………丁度いい具合に、口の開いてないペットボトルがあったので持ってきて、マホーロの前で開けて持たせる。………………っとと、ぼうっとしてて危ないな………………初めて見たもののようにきょとーんとしてるから、いつ力が抜けて取り落とすか分からないし、ひとまず取り上げる。

「………………大丈夫か、飲めそうか?」

「………………ちょっと、ちからが、はいんない………………」

………………と、なると………………………………く、口移ししか、ない、のか………………………………?いや、それは………………

「わ、わかった、持っててやるから、それで飲め、なっ。」

………………………………このヘタレめ。ペットボトルを持つと、そのままマホーロの口に宛てがう。こくん、こくん、と喉が上下して、ペットボトルの中身が吸い込まれていく。だけど、その何割かは口の端からこぼれてマホーロの肌を伝って、服の中へと消えていく。とうとう全部飲み干すと、またぐでっと力が抜けて、慌てて支える。

「………………だ、大丈夫じゃないみたいだな………………」

「………………あれ、エリカも、なんかあっついよ………………?」

「………………っと、すまないな。さっきまで部活やってたから、汗臭いし熱いよな………………」

慌てて布団に寝かせようとすると、逆にマホーロの方から私に寄ってくる。

「え、ちょっ」

「………………へへ、エリカの匂いがいっぱいだぁ………………」

「ま、マホーロ!?」

一瞬で心臓はハイスピードになる。………………こ、こんなマホーロ、見たことない………………あっ、私の理性が飛んでいく………………

「ただいまっ!!買ってきたよ!!」

「………………はやす………………いや、遅いぞイツキ………………」

失いかけた何かを、すんでのところで引き止めることに成功『してしまった』………………………………

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