微熱と、お昼。
「………………ふぅ、なんか、疲れたっ」
食堂の椅子にどかっと腰を下ろすと、樹はじとーっとした目で
「磨穂呂、もう疲れたの? もう、だらしないなぁ。」
「う、うるさいっ、………………樹が、元気すぎるんだって………………なんであれだけネコさんおっかけて、けろっとしてるの………………?」
「けろっとって………………私はカエルさんじゃないよ?」
きょとんとする樹にちょっとだけ癒されるけど、私の疲れはキャパオーバーしてるからほとんど足しにもならなくて。
「あはは………………とりあえずご飯食べよっか。その後はお部屋戻って………………」
「えぇっ、まだまだネコさんと遊び足らないよぉ。ねぇもっと遊ぼうよぉ。」
やだやだとダダをこねる樹のお尻をぺちんと叩くと、樹が「ひゃん」と跳ねる。
「ワガママ言わないのっ。そんなにワガママ言うんだったらもう一緒にお風呂入ってあげないからね?」
「ま、磨穂呂のいじわるぅ………………」
「はいはい私はいじわるですよっと。」
樹のことを適当にあしらいつつ、私はお昼ご飯を選びに行く。………………あ、今日はパラパラチャーハンなんだ。いつもよりもちょっと多めにしてもらって席に戻ろうとすると、樹はまだ席についたまんまで、………………ちょっとイタズラしたくなって、わざと樹から離れたテーブルの席に座り直す。慌ててちょこまかと席を移す樹を、
「ごはん食べないの?」
と、軽くあしらって追い返す。そして、樹が戻ってくるのを待たずにチャーハンの山にレンゲを突き刺した。
「ま、待ってよ磨穂呂………………なんで私のこと無視するのっ?」
樹がチャーハンを持って向かい側に座るのを目線も上げずに確かめると、
「………………別に。ちょっと疲れてるだけだから。………………………………大丈夫、樹のことを嫌いになったとか、そういうのじゃないから。」
「………………………………ほ、ほんと………………?」
「だから、ほんとだって。」
ちょっと強めに言うと樹は大人しく引き下がった。これ幸いとチャーハンを食べ進めると、少し多めにしてもらったはずのチャーハンはあっという間に全部私のお腹に収まった。
「樹、まだ食べ終わらないの?」
「そ、そんな事言ったって………………」
顔を上げると、樹のチャーハンはまだ半分近く残っていて、
「………………要らないなら、ここからこっち、貰ってもいい?」
「た、食べてくれるの?べ、別にいいけど………………」
スッと差し出された器からチャーハンを取り分けると、またレンゲを動かして食べ進める。………………………………おかしいなぁ、私って元々食は細い方なんだけど………………。
私と樹でほぼ同時に食べ終わると、樹は私の前で指示を待つかのようにじっと見つめていて、
「………………ねぇ樹、この後はどうしたいの?」
「え、えっと………………………………ネコさんと遊びたいけど………………………………磨穂呂はそれだと嫌なの?」
「だから、嫌とは言ってないよ。………………だけど、今日はなんか疲れちゃったからまたにしようって、さっきから言ってるよね?」
意識してないのに言葉にイヤミが混ざってトゲがにょきっと生える。………………あ、あれ?
「ま、まほろ、………………怖い………………」
「怖い?………………………………私が?」
ちょっと驚きを込めて聞き返すと、また樹がビクッと肩を震わせる。
「あ、そんなに、怖い………………の?………………私の、こと………………」
こっちもビクビクしながら樹に問い返すと、
「う、うん………………………………なんだか、いつもの磨穂呂じゃないみたい………………」
「そ、そう………………かな………………」
………………どうしちゃったんだろ、私。………………なんか身体がだるいし、熱っぽい気がする………………大好きな樹のことも、なんだか面倒くさくなるし………………
「ま、磨穂呂………………具合悪いなら、お部屋で休んでて?私も、一人でネコさんのとこ行くからっ………………」
「………………そ、そう、するっ………………ごめん、ねっ、樹………………」
すごくぎこちない雰囲気の中、お互いにそろそろと重苦しい足で反対の方向へと歩いていく。私は寮へと、樹は中庭へと。
(………………………………どうしちゃったんだろ………………私………………)
部屋の鍵を開けて、いの一番にベッドにぼふっと倒れ込む。
(………………昨日のせいで寝不足………………ううん、これはただの寝不足じゃなさそう………………なら、風邪?………………も、何か違うし………………と、なると………………)
そっとお腹に手を当てる。軽くズキッとした痛みを感じて、その正体を知る。
(………………なんか、眠くなってきた………………そうだ、樹も心配してるし、メール………………いいや、後で。)
昨日の騒ぎで眠れなかったツケが回ってきたらしく、私は携帯を手放す余裕もなく、そのまま視界が闇に閉ざされた。




