おそら。
「ま、待ってよ、モモ………………………………」
私たちのことなどお構い無しにとてとてと四つ足で走っていくモモを、私と樹で必死に追いかける。不思議なことに、私よりもコンパスの短い樹の方が、ずんずんとモモのあとをついて行って、それと引き換えに私は遅れ始めていて、
「ま、まってよ………………いつきっ………………」
「磨穂呂おっそーい、はやくはやくっ」
「そ、そんなこと言われてもっ………………」
あ、もう限界………………私の足がもつれて、その場にしゃがみこむ。
「まほろ?」
「い、いつき………………先行ってて………………わたし、つかれた………………」
心配そうにのぞき込む樹を先に行かせると、私は座れるところを探して腰掛けた。………………あぁ、コンクリートがひんやりしてて、気持ちいい………………
それにしても、私ってこんなに疲れやすかったっけ………………いつもならもっと走れるし、ぜーぜーはーはーするけどまだ大丈夫だし………………………………うーん、やっぱり昨日ちゃんと寝なかったからかなぁ………………主にエリカのせいで………………
そのままコンクリートの上にごろんと横になる。もうそろそろ真上に来そうな太陽が、私のことをコンクリートのフライパンでじりじりと照り焼きにしようとする。………………ちょっと、暑い………………。
そのままぼんやりと空を眺めていると、突然視界が暗くなって………………………………え?空がピンクの水玉にっ!?
「うわぁっ!?」
慌てて飛び起きると、
「ふっふっふ………………驚いたか?」
私の横に立っていたのは、ミニスカートをギリギリまで短くしたツインテールの人………………た
多分中等部の人だと思うんだけど………………見覚えがないし、誰………………………………ってか、なんで!?
「な、なんでっ………………」
「ん?なんで寝っ転がってるあんたに見せたかって?………………ふふふ、それが私の趣味だからよっ!!」
ドヤ顔でそう言い放たれた。………………………………こ、この人変態だ………………
「しかしいい反応だったな。………………それならもう一度」
「もうやめてくださいっ!!………………こ、この、露出狂!!」
「なっ、露出狂だと!?私はただパンチラしたいだけで………………まぁそれは置いておこう。それよりもこの手は相手が寝っ転がってないと使えないな………………ふーむ、もうちょっといい案はないか………………うーん………………とりあえず清歌に試してみるか。」
一人でぶつぶつと何かを呟くと、例の変態さんはとことことどこかへ去っていった。………………………………も、もうっ、何だったのあの人!!
呆れるやら恥ずかしくなるやら………………いろんな気持ちがぐるぐると駆け巡って、私の頭がパンクする。
………………どうだっていいや、もう………………。考えるのをやめて空をじっと眺める。流石に今度はピンクの水玉な空になることはなくて、青い空にふんわりとした雲が流れていく。
(あの雲………………なんかメロンパンみたい。)
丸くてちょこっと膨らんだ雲を目で追うと、視界の端から飛行機雲が伸びてきてメロンパンに刺さった。
(あ、メロンパンが、食べ残しのお団子になった。)
残りの二つは誰が食べちゃったのかな………………………………樹、かな?エリカも案外お団子好きそうだし………………うん、やっぱりこれは樹のしわざっぽいね。
その次の雲は………………あ、羊さん。
………………そういえば、羊さんが空を飛んでるのが雲だよって教えてくれた絵本、好きだったなぁ………………まだお家にありそうだし、夏休みになって家に『帰ったら』、探してみようかな。
さて、その次は………………わぁ、樹だぁ。………………………………って、いつきっ!?
「じぃー………………」
「わぁっ!?」
慌てて飛び起きると、樹のおでこにごっつんこ。目の奥がちかちかする。
「いったーい………………もう磨穂呂ぉ、ちゃんと前見てよっ。」
「ご、ごめんごめん………………って、樹がのぞき込んでくるのが悪いんでしょっ!?」
「わ、わたしはただ、磨穂呂がお空を見てるから、なにしてるのかなーって。」
樹がおでこをさすりさすり言う。
「………………………………ああ、お空を見てたの。………………樹もここにごろーんってしてみなよ。」
「こう?」
私の横にころんと樹が転がる。
「ほら、あの雲は羊さんみたいでしょ?」
「じー………………………………そーお?羊さんはもっともふもふしてるよ?」
「そう?なら、樹にはなんに見える?」
「じぃー………………………………うーんと、綿あめの固まり?」
「そ、そのまんまだね………………」
その時、樹のお腹がぐぅと鳴る。
「そっか、もうお昼だね。………………この後どうする?ご飯食べてお部屋戻る?」
「だ、大丈夫………………まだそんなに、お腹空いてないから。」
樹のお腹がもう一回、さっきよりも大きく鳴る。
「………………うそつき。」
「………………ウソじゃないもん。たまたまだもん………………」
「はいはい、そういうことにしておこっか。」
よっこいしょっ、と身体を起こすと、樹を助け起こして、そのまま食堂の方へと歩いていく。
「今日のお昼はなんだっけ?」
「うーんとねー………………」
あったかい日差しが、私たちに降り注いでいた。




