うにゃー、にゃーん。
煮干の袋を持ってダッシュで樹のところに戻ると、
「………………あれ?………………いつき………………?」
さっきまでずーっと「じー」ってしてたのに………………おかしいなぁ、どこ行っちゃったんだろ………………
(………………まさか、誰かに連れてかれたんじゃ!?)
不意にそんな考えが頭をよぎってすぐに取り消される。
(………………そんなわけないか。だってそんな変な人が入ってきたら………………………………用務員さんが追い払っちゃうもんね。)
噂だと、ここの用務員さんは武道の達人で、今まで何人もの不審者を取り押さえてきたらしい………………………………。とてもそんな風には、見えないけどなぁ………………。私はあのむすっとした用務員さんのことを考えながら、樹のことをきょろきょろと探す。………………ダメだ、居ない………………。
その時、私の真後ろの草むらがガサっと揺れる。
「………………………………いつき?」
そう声をかけるけれど、帰ってきたのは「じー………………」でも、「まほろ?」でもなくて、
「………………………………にゃー?」
………………そんなかわいい鳴き声だった。
「あっ、ネコさん………………君だったんだ………………」
「にゃーお」
とてててっと走ってくると、私のひざ元でじーっと見上げてくる。
「………………どうしたの?他のみんなは?」
「にゃ」
わかんなーいって言うかのように、そのまま毛繕いを始めるネコ。
「マイペースなのかな………………………………そうだ、樹がどこ行ったか知らない?」
「にゃん?」
なにそれ?とでも言うかのように顔を見上げてくる。それから、ふんふんと鼻を近づけると、私の持つ煮干の袋をじいっと眺める。
「………………………………あ、これ?………………食べる?」
封を開けると、すかさず私の膝にネコさんが飛び乗ってくる。
「………………………………もう、慌てんぼ。………………ちゃんと、あげるから。」
煮干をひとつまみ取ると、ネコさんの鼻先に持っていく。何度かふんふんと匂いを嗅いでから、そのままぱくっとくわえて私の膝を下りた。
「うにゃぁ………………」
すぐに食べ終わっちゃったみたいで、「もっとちょうだい?」ってこっちを見てくる。………………………………もう、くいしん坊なんだから。
もうひとつまみ取り出してネコさんの前に差し出そうとすると、横から何かが飛んできて煮干をかっさらわれる。
「あっ………………」
「うにゃっ」
その視線の先には、尻尾の先まで真っ黒な黒猫が煮干をくわえて満足げにしている。しかもそれだけじゃなくて、
「なーごぉ」
「にゃーおーん」
「うな〜」
いろんな草むらからネコが集まってきて、私の抱える煮干をじぃっと見上げてくる。
「ま、待ってよぉ………………………………こんなにたくさん来られてもっ………………」
袋ごと全部あげちゃってもいいんだけど、それだと絶対大ゲンカになるし………………最初に来たネコさんも必死に威嚇してるけど、多勢に無勢だし………………………………
その時、また草むらがガサガサと揺れる。………………も、もっと来るの………………? でも草むらの揺れ方はさっきよりも大きくて、
「ネコちゃん待ってぇ(とてとて)………………………………あれ?」
「………………………………あ、あれ?」
草むらから出てきたのはネコさんじゃなくて、………………ネコを追いかけてきたネコ好きさんだった。
「………………あ、いつきちゃんのおねーちゃん。」
「お、おね………………く、クラスメイトですっ。」
「そんなとこでなにしてるの?いつきちゃんなら向こうでネコちゃんと遊んでたよ?」
「ほ、ほんとですか?………………………………あの、ネコに囲まれちゃって………………」
「わぁ、ネコさんがたくさん。あっ、さっきの黒ネコちゃんだー、まてまてー(とてとてとて)」
「うぎゃっ!?」
かおりさんが黒ネコさんを追いかけると、みんなして散り散りになって逃げていった。そんなネコ達を「まってよぉ」って追いかけて茂みに消えていくかおりさん。………………な、なんかよく分からないけど、助かった………………
それから間髪を置かずに、また草むらが大きく揺れる。そして出てきたのは、
「もー、かおりったらどこ行っちゃったんでしょ………………………………せっかくお姉さまがクッキー持ってきてくださったのに………………」
「あっ………………………………くれは、さん………………」
「あら、かおりの仲間のその友達の………………」
「えっと………………磨穂呂、です。」
「そう。………………って、こっちはそれどころじゃないの!!かおりを早く見つけなきゃいけないの!!………………………………さっきもかおりかと思ったらあんたのとこの子だったし………………」
「あ、えっと………………かおりさんでしたらさっき、黒ネコを追いかけて向こうに」
「それを早く言いなさいっ!!」
そう言うと、くれはさんはスカートのまま茂みを突っ切ってかおりさんを探しに行く。………………さ、騒がしい人だなぁ………………
「うにゃ。」
「………………………………あっ、ご、ごめん………………」
最初のネコさんが、「煮干のおかわりまだぁ?」って感じで、私の膝をたしっと前脚で叩く。
「あ、ごめんね。………………こっちもね、『仲間』が待ってるんだ。だから君も、仲間のとこにお帰り。」
頭を撫でてそう言うと、私の奥底を二つの眼差しがじいっと見透かしてくる。
「………………………………ひとりぼっち、なの?」
「うにゃ」
「そっか………………なら、ついてくる?」
「にゃっ」
私の膝に飛び乗って、胸に頭をすりすりしてくる。
「そっか………………………………なら名前を付けないとね。………………………………うん、キジ色だし………………………………『モモ』、あなたは、『モモ』ね。」
「うにゃあっ」
一際大きな声で『モモ』が返事をする。私はモモを抱き抱えると、さっきかおりさんが指さした方向へと歩いていく。
「………………にゃーお………………」
「………………はいはい、煮干は後であげるからっ。」




