ニボシ。
「い、いつき………………?」
「………………じー………………」
「な、なにしてるの………………?」
「じー………………」
………………ど、どうしよっかな………………
ひーちゃん先輩達から樹を引き離して引きずっていると、急に樹が私の手を振りほどいて走り出した。
「あっ、待ってよぉ」
とっとこ走る樹を追いかけると、急に樹は茂みの中にしゃがみこむ。
「ど、どうしたの………………?お腹痛いの?」
「………………磨穂呂、静かに。」
そのまま樹は「じー」っと茂みの向こうを眺める。その視線をたどって私もそっちを見ると、
「ふわぁ………………………………ネコがいっぱい………………」
中庭の少しひらけたところで、たくさんのネコ達が思い思いにひなたぼっこしていた。
(キジトラ、アメショー、ミケ、靴下………………えっと、あれは………………)
わかる名前をかたっぱしから頭の中であげていく。
「樹、行かないの?見てるだけでいいの?」
「じー………………」
「い、いつき………………」
「………………磨穂呂、邪魔しないで。」
樹は面倒くさそうにそう言うと、そのままネコ達の様子を「じー」っと眺めていた。
(………………見てるだけだとつまんないなぁ………………ネコジャラシないかな?)
きょろきょろと辺りを見渡すけど、残念なことにネコジャラシは生えてなくて。
(………………………………いいや。樹もずっとここにいるだろうし、カツオブシでも買ってこよう。)
なるべく音を立てないようにこっそりと茂みを抜けると、そのままニアマートまで歩いていく。
(ネコ缶の方がいいかな?………………でもネコがたくさん居たから取り合いになりそうだし、それに樹が面白がって食べちゃうと危ないし………………)
普通のコンビニのはずなのになぜか充実してるネコグッズを眺めて、私は調味料のコーナーで足を止めた。
「あ、煮干………………」
うん、たくさん入ってるし、これでいいかな。これなら樹にあげても大丈夫だし。………………いや、流石の樹もネコのエサを横取りしたりはしないだろうけど………………………………まぁ、樹だから。
お会計を済ませて自動ドアをくぐろうとすると、
「おっと、」
「うぅ………………」
「きゃっ!?」
ぐったりした人に手を貸した人と、すれ違いざまにぶつかった。
「………………おっとごめんよっ。ケガないかい?」
「あ、はい………………大丈夫、です。」
「ふ、文姉………………あたしの心配は………………?」
「ん?………………あー、明梨は大丈夫だな多分。これでいいか?」
「ひどい………………」
ぐったりしてた人が、担いでいた人を睨む。………………なんかこの人達、似てるような………………
「んぉ?このニボシはお嬢ちゃんのかな?………………ふふん、嬢ちゃんの身体だとこれ以上カルシウム要らなそうだけどん?」
担いでいた方の人が、さっき転んだ時に取り落とした煮干の袋を拾ってくれた。
「あっ、はい………………………………ネコ達に、あげようかなって。………………って、か、身体は………………そのっ………………」
いつの間にか胸に向けられていた視線を感じて、慌てて後ずさる。
「おー、中庭のネコ共か。あいつら猫缶開けるとすぐ群がってくるんだよなぁ。………………そうかニボシか、その手があったか。余ったら明梨に食わせりゃいいし一石二鳥だなっ。」
「………………ふ、文姉………………あ、あたしはネコの余り物なの………………?」
「何なら先に明梨が食うか?………………育つかもしれないぞ?」
明梨と呼ばれた方の人が、自分の胸と煮干を交互に眺める。
「………………………………毎日食べてみる。だから文姉、二つ買って?」
「お前なぁ………………ならナプキンは自分で買えよ。」
「………………文姉のケチ。」
そんなやり取りをしながら二人はコンビニの中に吸い込まれていく。
………………そうだ、私も樹のこと忘れてた。早く戻らないとっ。




