部屋に戻れば。
私たちがご飯を終えるよりも早く、樹が食べ終わって食器を片付けに行く。
「早いなイツキ。」
エリカがそう声をかけるけど、樹は知らんぷり。
「………………………………むぅ、連れないな。」
「相当怒ってるみたい、だね………………」
テーブルを挟んでひそひそと話し合う。………………………………後でご機嫌とっとかないと、ああなった樹は手強そうだし………………………………。
「それよりエリカ、準備しなくていいの?もうこんな時間だけど。」
「そ、そうだった!!」
慌ててエリカがご飯をかき込んで、喉に引っ掛けたらしく激しく咳き込む。
「ちょっ、そんなに急いで食べるから………………」
背中をトントンしてあげると、やっとエリカは一息つく。
「………………こ、これはマホーロが焦らせたから………………………………って、こんなことしてる場合じゃないな。じゃあマホーロ、私は練習に行くから………………その、またお風呂で。」
「………………………………うん、待ってるから。」
猛ダッシュするエリカの背中を見送ると、私も食器を片しに行く。………………さてと、樹のことを探すのもそうだけど、まずは着替えないとね。
少し急いで部屋に戻ると、まず床に散らばったエリカの服が目に入る。………………もうっ、脱いだら脱ぎっぱなしなんだから、もう。あっちこっちに散らばったエリカのパジャマと下着をかき集めると、部屋の隅っこに積んでおく。あ、でも汗ばんでるからほっとくとすぐ臭くなりそう。かと言って勝手に洗濯機にかけるわけにもいかないし、今からエリカの部屋に行っても多分もう出た後だと思うし………………………………。
とりあえず洗濯物の山に消臭剤をスプレーしてから、私もパジャマを脱ぐ。樹とくっついてたのもあって、下着はほんのりと湿ってる。………………うん、全部取り替えてお洗濯かな。
ショーツに両足を通すと、ふと洗濯物の山―――の中の、黒いシックなブラが目に入る。
(………………………………エリカと私だと、どっちがおっきいのかな………………)
ちょっとした好奇心を秘めて、そっと自分の胸につけてみる。………………ほんの少しだけ隙間が空いて、結果を思い知らされた。ぐすん。
へっこんだ心を転がして一通り着替えると、私は樹を探しに寮の中を歩き回る。テレビがあるのは談話室だし、樹の階かな?と思って覗いてみるけど別の人だった。………………あれ?どこにいるんだろ?
上から下まで全部の階の談話室を覗いて見たけど樹は居なかった。………………うーん、見たいの終わっちゃってお部屋に居るのかな………………?
もう一度樹の階に戻って、改めて樹の部屋のドアをノックする。………………………………返事はない。そっとドアノブを回すと、鍵はかかってなかった。
「樹、入るよ………………………………」
一応、一声かけてから部屋に足を踏み入れる。樹は、ベットの上で小型テレビをじっと見つめていた。
「樹、何見てるの?」
ひょこっと覗き込むと、慌てて樹が画面を消す。………………もう、隠すことないのに。
「ま、磨穂呂っ、勝手に人の部屋入ってこないでよっ。」
「ご、ごめん………………い、一応ノックしたんだけど………………………………それより、今は何を見てたの?」
「な、何も見てないっ。テレビをじーっと観察してただけっ。」
「………………うそつき。えいっ。」
ぽちっとボタンを押すと、画面に映ったのは、光に包まれて変身する女の子。
「ふわぁ、懐かしい。………………これは新シリーズ?」
横にいた樹に尋ねるけど、樹はなぜか布団に包まってむすーっとしてる。
「………………………………どうしたの?見ないの?今、戦いのシーンになったけど。」
「み、見ないっ!!………………………………だってこんなの見てるって知られたら、またエリカと磨穂呂にからかわれるもん………………………………私が『お姉ちゃん』なのに、こんな子供っぽいのを見てるって………………………………」
「………………………………そうかな?」
樹の布団を剥がして、目の前にテレビを持っていく。ちょうど必殺技を決めて、敵が散り散りになって逃げていくシーンが映し出されていた。
「………………………………いいなぁって、私は思う。………………………………だって変身できたら、嫌いなトマトだってきっと食べられるし、ニガテな数学もへっちゃらだと思うし。………………………………あのね樹、聞いて?」
なに?とこっちを向いた樹の耳に、そっと小声で伝える。
(………………………………私のずっと見てる夢はね、シンデレラになることなんだ。)
樹は驚いたような顔をして、私のことをまじまじと見つめる。
「………………まほろが、シンデレラ?」
「………………エリカには内緒だからね?」
「………………うん、約束。」
樹がにっこりと微笑む。………………………………うん、機嫌治ったかな?
「………………………………あ、でも。」
うん?また雲行きが怪しくなったかな?
「………………………………磨穂呂もエリカも、私のことを子供扱いし過ぎ。一応私が一番『お姉ちゃん』なんだからね?気軽になでなでしたり、お風呂で頭洗おうとしたり、ぬいぐるみ替わりに一緒に寝ようとしないでよ。」
「そ、それは、ほんとに、ごめん………………………………」
私は小さくなって謝る。………………………………だって樹はちっちゃくてかわいいんだもん、なんて言ったら、またぷりぷり怒るだろうから敢えて何も言わない。
「………………だ、だけど、『妹』たちがどうしてもって言うなら、一緒に寝たりお風呂入ってあげてもいいけど?」
(あ、やっぱり寂しいんだ………………)
手のかかるお姉ちゃんだなぁと思いつつ、後ろから抱っこする。
「じゃあこれからもお願いするね。『樹お姉ちゃん』。」
「………………………………も、もう、しょうがないねっ。………………そうだ、磨穂呂もこの後の見る?すっごく面白いんだよ。」
「へぇ、そうなんだ。………………あ、でもその前に着替えよっか。まだパジャマのままだしさ。」
「あ、忘れてた。」
樹がぱたぱたとクローゼットに 走っていく。そしてぽいぽいぽいっと脱ぎ捨てるとあっという間に着替え終わる。
「もう、脱いだらちゃんとまとめておいてよ。」
樹の抜け殻を集めて片隅に積むと、また樹を抱っこしてテレビを眺める。
私の心も、ほんのりとあったかくなった。




