朝ごはん。
「………………………………………………眠い。」
「ほらエリカ、ちゃんと真っ直ぐ歩いて。………………ほら目の前、柱にぶつかるよ。」
私の警告虚しく、エリカは廊下のコンクリートの柱に頭突きする。
「ぐぉぉぉぉぉぉ」
「あーあ、言わんこっちゃない………………………………。」
私はため息をつくと、柱の様子を確かめる。………………ちょこっとヒビ入ってるけど関係ないよね、流石に。
「ちょっ………………普通は私のことを心配するだろっ!?なんで柱を確かめるんだよ………………」
「エリカは、自業自得。」
その声に振り返ると、樹があくびしながら眠そうな目をこすっていた。
「あ、樹………………おはよ。」
「イツキ、Guten Morgen.」
「おはよ………………………………それにしても、変な夢見ちゃった。なんかね、急に私におヒゲが生えてネコさんになる夢なの。それでキジトラちゃんと遊んでたんだけど………………………………ここの制服を着た子に『まてまて〜』って追いかけられるの。………………それで起きたら、なんか顔がヒリヒリするし、私、どこかおかしいのかなぁ?」
「さ、さぁ………………どうなんだろうな………………?」
私とエリカは樹から目を逸らす。………………あー、今日はいい天気だなー。
「そ、それにしても、イツキはほんっとによく寝てたな、うん。真夜中にあんな大騒ぎがあったのに。」
エリカがこっそり話題を変える。
「え、なにがあったの?」
「それがな………………………………出たんだよ、アレが。」
「………………あ、アレって………………………………お、おばけ!?」
樹がプルプルと震え始める。………………あれぇ?もしかして樹って、
「………………オバケ怖い?」
「そ、そんなことないもん!!」
「あ、樹。後ろに白いのが」
「ひゃぁぁぁぁぁ!?」
樹が飛び上がる。………………じょ、冗談だって………………
「あっはっはっは、この『お姉ちゃん』は怖がりだなぁ。」
エリカが樹の頭をぺしぺしと叩く。当然樹は焼きすぎたお餅みたいにぷくーっと膨れて、
「………………し、しらないっ!!」
ダッシュで廊下を駆け抜けていく。
「あらら………………どうするエリカ?」
「ほっとこう。どうせお腹がすいたら帰ってくる。」
………………うん、確かにそれもそう。
「先にご飯食べてよっか。」
「そうだな。………………さて、今日の朝ごはんは何だったっけか。」
「さぁ………………………………?」
「………………ワカメの混ぜご飯、か。」
「あれ?エリカはワカメ嫌い?」
「いや、慣れないだけで、別に嫌いってわけでは………………………………海藻なんて『向こう』じゃあんまり食べなかったしな。」
エリカがお茶碗の中をじっと眺める。今日はお味噌汁にも入ってるけどね。
「ほらエリカ、生姜焼き忘れてる。」
「おっとと、ありがとう。」
トレーを持って私達は席につく。今日は日曜日だからか人影も少なくて、みんなまだベットの中にいるみたい。
「それじゃ、いただきますっと。」
「うむ、いただきます。」
私はまず混ぜこみご飯に手をつける。程よい塩っけが、汗ばんだ身体にありがたい。
「そういえば樹、来ないねぇ。」
「また中庭じゃないか?」
「………………………………いるよ、ここに。」
「うわっ!?………………び、びっくりしたぁ………………………………」
いつの間にか私たちの真横に、樹がトレーを持って立っていた。
「あれ?樹はワカメのご飯じゃないの?」
「お肉嫌い。」
「そ、そう………………………………」
(………………こりゃ完全に不機嫌だな。)
エリカがこっそり耳打ちしてくる。………………………………もしかして、朝のイタズラ書きがバレた?
「………………あと、8時になったら私はテレビ見に行くから。エリカは部活だっけ?」
「あ、ああ………………今日は一日、な。」
「そっ。」
そう言うとまた樹は無口になる。
………………………………これは、けっこう怒ってるなぁ………………………………どうしよっかな。




