食堂、行ってるね。
................もぐもぐ。
................樹とエリカ、遅いなぁ................もぐもぐ、むぐぐっ!?
慌てて私は、コップの水をあおる。................ふぅ、辛かったぁ........
「あ、磨穂呂いたっ。」
「................ふぅ、もう食べ終わって戻っちゃったかと思ったぞ。」
聞きなれた声に顔を上げると、樹とエリカがさっきとは違う装いで降りてくる。
「もー、遅いよ................」
「悪い悪い。................イツキを捕まえるのに時間かかってな。」
................あの後、また逃げたんだ................で、当の樹はと言えば、
「................だ、だって今度はリンスの時」
「あー分かった分かった。................どうせまた何も言わずにシャワー浴びせられたんでしょ?」
「ち、違うよっ。今度はシャワーのお湯が水だったんだよっ!!」
あ、それは私でも逃げる。
「................おかしいな、シャワーの時にお湯の方に切り替えたはずなんだが................」
エリカはしきりに首をひねる。そのはずみにはらりと落ちた長い髪からは、嗅いだことのないいい匂いがこぼれる。
「あ、磨穂呂カレー食べてる。私もカレーにしよっと。」
「あ、樹はやめといた方が................」
すると、樹がじとーっとした目を向ける。
「磨穂呂ぉ、私が辛いカレー食べられないと思ってるでしょ?................私だって食べられるもん。りんごカレーとか、はちみつカレーじゃなくだって食べられるもん。」
「い、いやそういう事じゃなくて................」
「ふんっ、見てなよ。私だって『甘口』じゃないの食べられるんだからね?」
そう言うと樹はずんずんと食券の券売機へと大股(................何度も言うけど、私達の普通の歩幅と変わんない)で歩いていく。横をすれ違う時に樹の髪の毛の先が、私の鼻先をかすめていく。
(................あ、この匂い................)
樹の髪は、エリカと同じ匂いがした。................いや、二人は同じお風呂に入ったんだし、シャンプーとリンスが同じものを使ってても何もおかしくはない。ないん、だけど................私の心がモヤモヤする。なんだか私だけ、仲間はずれになっちゃったみたいで。
「................どうしたんだマホーロ、手が止まってるけど。」
「あ、いや........................エリカの髪、いい匂いだなって。」
「あ、ああ、これか................私のお気に入りだ。ちょっと高いけど、ほら。毛先がまとまるんだ。」
「ふぅん................」
くるんと丸まったエリカの毛先を、少しの間眺める。
「................次は、私がエリカの部屋のお風呂、借りよっかな。」
そうこぼした途端、エリカが急に立ち上がる。
「ど、どうしたの................?」
「い、いや................二人で入ったら狭そうだな、って................」
「なっ................しゃ、シャワーは一人で浴びるよっ!!」
「だ、だよなっ、うん................はは、変な事言っちゃったな................そ、そうだ、私もご飯取ってこないと。」
すっかり挙動不審になったエリカは、椅子に足をひっかけてすっ転びそうになりながら食券の券売機へと歩いていく。........................し、失礼しちゃう。................わ、私は一人でシャワー浴びれるし................エリカに洗ってもらわなくたって大丈夫だもん................。
私が一人でぷんすこ怒っていると、エリカと入れ替わりに樹が戻ってくる。................のは、いいんだけど。
「................だから止めたのに。辛くて大盛りだから................」
「だ、大丈夫................食べきってみせるから................」
................ほんとかなぁ................樹のちっちゃいお腹に、このカレーが全部入るなんて想像できない。
「ん、お待たせ................って、イツキ!?」
意外と早く戻ってきたエリカまでもが、樹のカレーに目をむく。
「あ、エリカはスパゲティなんだ。」
「ん、ああ。『向こう』でも食べ慣れてたしな。」
「へぇ................」
そんなふうな話をしてる間にも、樹はカレーの山と格闘してて................うん、全然減らないね。
「...............あ、マホーロ。袖にカレー付いてる。」
「えっ................あ、ホントだ。」
「カレーのシミは落ちないからなぁ................そうだ、この際マホーロも風呂入り直したらどうだ?」
「ええっ................うーん、でも、そっか................ちょっと身体も冷めてきちゃったし................うん、そうするね。」
なら早めに食べちゃわないと。さっきよりも早いペースで食べ進めてお皿を空にすると、早くもカレー山の攻略を諦めたのか樹がこっちを見る。
「そういえばエリカ、明日はどうするの?」
「ん、私か?私は部活だな。................ああ、言ってなかったか。私は剣道部なんだ。」
「へぇ、そうなんだ。」
エリカは剣道部なんだ................。って、あれ?
「................エリカ、明日防具付けるのに、そんな匂いしてて大丈夫なの?」
「................あっ................」
................お風呂への同行者が、一人増えた。




