樹の部屋で。
「私、イツキとマホーロ、どっちも好きになってしまったようなんだ。」
私の頭の中で、エリカの言葉がぐるんぐるんと回る。................同時に、答えを出さなきゃって一人で焦ってる。
(................いつもの時間、大浴場で答えを聞かせて、か。)
何も知らずに目の前で眠る樹のことを、じっと見つめる。結局寮の前のバス停に着いても起きなくて、エリカがおんぶしてこの部屋まで担ぎこんだ。でも、それだと目を覚ました時に混乱するかもしれないからって、私が樹の部屋に残った。................でも、今は。
(................樹のことが、羨ましいな。だって、こうやって寝てればいいんだから。................はぁ、ほんとにどうしよ................)
「................んっ、ふぅ................」
樹が微かに身動きして、そっと目を開く。
「................あれ、ここ、どこ?」
「あ、樹................起きたんだ。」
「あれ?おっきなドーナツは?」
................寝ぼけてるんだ。もう、樹ったら................ほんとに、可愛いんだから。
「もー、樹ったら途中で寝ちゃうんだもん。................ここまで運ぶの、苦労したんだからね?」
ほんとはエリカが運んだんだけど、ウソをつく。だってそしたら、樹がエリカに取られちゃいそうで。
「................私、寝てたの?」
きょとんとする樹をそっと抱き抱える。ほっかほかのぬいぐるみみたいな匂いがした。
「そうだね、きっと疲れてたんじゃない?................今日はオトナになったし、お買い物したし、逃げ回ったし、いろんな所歩いたから。」
「................うん、そうだね。私はオトナになったんだよね。」
樹の寝ぼけた目が、一瞬でキラキラし始める。うん、ちょろい。
「どうする?もっと寝とく?」
「そうしよっかなぁ................あと、ご飯もお風呂も今日はいいかも。なんだか疲れたし。」
「ダメだよ、お風呂は入らないと。ご飯なら後でおにぎりでも買ってきてあげるけど、お風呂だけはちゃんと入らないと。................お腹にバイキンが入るよ?」
「い、一緒にお風呂行こ?」
私の服をがっしりと掴む樹。でも、その指をそっと一つ一つ丁寧に引きはがす。
「ダーメ。................オトナの日はみんなと同じお風呂に入っちゃダメなの。だから、今日はお部屋のシャワーにしようね?」
「そ、そうなんだ................わかった。シャワーにするっ。」
言うが早いか、樹はシャワー室に入って着ていたものをぽいぽいっと脱ぎ始める。私は苦笑しながら、樹が今朝脱いだ替えのパジャマと新しい下着を揃えてシャワー室の前に置いておく。
「いい?樹。................シャワー浴びて温まったら、『すぐにお布団入るんだよ』?うろちょろしてたらまた風邪引いちゃうから。」
「わかってるよー。」
シャワーが床を叩きつける音に混ざって、樹のちょっとムッとしたような声が聞こえてくる。................うんうん、樹はそれでいいの。................私達のことは、何も知らないでいいの。
樹の部屋のドアを、そっと後ろ手に閉めた。




