紡ぐ、歌。
さて、................と。
私は廊下の曲がり角で一息つく。
(................一体、ここはどこなんだろう................?)
私の頭の中に「迷子」の二文字がちらつく。................どこかに、案内板でも無いかなぁ................?
キョロキョロと辺りを見回しながら進んでいると、階段の方から声が聞こえてくる。
(................誰か、いるのかな?)
もし先輩だったら、帰り道を教えてもらおう。そう思って階段をてくてくと登ると、その声は歌声へと変わっていって................
(あ、このメロディー、聞いたことある。)
そんなことを考えながら声を追っていくと、向こうの方に何人かの人達が見えてくる。この人たちが歌ってるみたい。
「........よし、ここから行こうか。テナー担当メッゾピアノの入り忘れるなよ。さん、はい。」
「........きらめくひー、びにー................」
一瞬、きれいなハーモニーを期待して待ってたのに、飛び込んできたのはてんでバラバラな声。................むしろソプラノが突き抜けてる?
「........................くーりーはーしー!?」
「あははっ、ごっめーん♪」
................なるほど、あの人が原因みたいね。乱れたの。
「................栗橋、お前歌うな。よーし、気を取り直してもう一度。」
................今度は、綺麗に合わさって一つの歌声になった。ってことは、やっぱり................
「................つーわけで、栗橋、お前向こうで練習な。」
................あ、追い出された。
それにしても................、歌、か................。私、歌う時だけは何故かつっかえないんだけど.............なんでだろ?
................そう言えば最近、歌ってないなぁ。卒業式の時にみんなで歌ったのが最後、かな................。
「....アスファルトに、咲く花、か................」
子供の頃好きだったフレーズを口にすると、静かな空間にすぐに溶けていく。................そういえば、私は歌うのも好きだったっけ。................いつの間にか忘れちゃってたけど、昔の私は家族の前でよく歌ってた。それをみんなうまいうまいって言ってくれて................楽しかった、な........................。
そんなことを思い出しながら、ふと視線を戻すと、目の前に顔が................いや、ほんとに顔があった。
「っ!?」
驚いて目を白黒させると、その顔は遠ざかって................あ、さっきの人だ。
「ごっめーん、驚かせちゃった?」
「び、びっくり、しました................」
................こ、腰抜かすかと思った................
「あなたすっごく綺麗な声してるねっ。新入生でしょっ?合唱部入らない?入る?」
ぐいぐいと迫られて、思わず身体を強ばらせる。................が、合唱部................歌うのは好きだけど................話すの苦手だし、ど、どうしよ................?
「こーら、栗橋さん。練習サボってちゃだめでしょ?」
声のする方を見ると、そこに居たのは................壁。いや、私よりも遥かに背の高い人で................、す、すごい................。
「あっ、ゆかりちゃん。ねぇ聞いて聞いてこの子ねっ」
「はいはい、その話は後で聞くから今は練習ね。でないと先輩の胃にまた穴が開くわよ?」
と、ズルズルとその人を引っ張っていく。
「あーっ、待ってよまだ話がっ」
................行っちゃった................。................でも、合唱部、か................。ちょっとだけ、興味あるかも。もう少しだけ覗いてみよっかな................。
こっそりと柱の影から覗いていると、再び合唱練習が始まった。................相変わらずソプラノが壊滅してるけど。................合唱部に入れば、私ものびのびと歌えるように、なるのかな?
そう思ってじっと見つめていると、指揮していた人と目が合う。..............ま、待って、まだ心の準備が...............
「おや、入部希望者かい?」
「い、いえ................ただ歌を、聞いてた、だけで........................すいませんっ。」
「................その割には、さっきうちの部員と話してたみたいだけど?」
「あ、あの................勧誘、されたん、ですけど................まだ、考えてて................」
「................そうか、また興味が湧いたらここに来てね。」
「は、はい........................」
そう受け答えして、その場を離れる。................それからどう帰ったのかは覚えてないけど、気がついたら下駄箱に着いてた。
........................あ、文芸部の場所、覚えてないや................。




