イルカ。
樹の手をしっかりと握って、水槽に囲まれた通路を歩いていく。
「樹、この後はどうしたい?」
「どうって................あ、それならさっきの」
「うねうねうにょうによはダメだからね?」
「なんで?」
................やっぱり行きたかったんだ................。
「と、とにかくあんなウネウネしたのはヤダっ、じゃなかった、ダメっ。」
「かわいいのにぃ」
「かわいくないっ!!」
................うーん、やっぱり樹の感性って変わってるなぁ................
「マホーロ、これなんてどうだ?」
エリカがどこからかビラを持ってくる。................えっと、なになに................?
「へぇ、イルカショーやってるんだ。どうする樹、見てく?」
「わぁ、面白そう................ねぇねぇ、これってイルカさんに乗れるの?」
「うーん、それは無理だと思うよ?」
...............いくら樹がちっちゃくてもイルカには乗れないし乗せてもらえないでしょ、流石に................
「むぅ................でも、面白そうだから、行ってみよっ。」
そう言うと、私の手を振りほどいてすたこらさっさと走っていく。慌ててエリカが追いかけて捕まえるけど、それよりも私は、振りほどかれた袖のことが気になって。
(................樹のこと、ずっと捕まえてるつもりだったのに................こんなに簡単に振りほどかれちゃうなんて。................私じゃ、樹をつなぎ止めて置くことも出来ないんだ................)
「........................マホーロ?」
「あ、うんっ、なんでも、ない。」
少しブルーな気持ちを残したまま、私達は外へと続く階段を登っていく。
「ねぇねぇエリカ、エリカはイルカさん見たことあるの?」
「ああ................向こうのAquarium、水族館でな。................でも、みんなが楽しみにしてる所悪いんだけど................」
エリカが急に歯切れを悪くする。
「................ど、どうしたの?」
「................あー、マホーロ、イツキ。何か聞こえないか?」
そう言われて耳をすますと、パラパラと何かが落ちる音。もしかして、と視線を上げれば、外の世界は雨に包まれていた。
「あっちゃー、雨だと中止って書いてあったよね。」
「イルカさん見れないの?」
樹はキョトンとして周りを見渡す。
「まぁ、この雨じゃなあ。................それにしても今まで気が付かなかったな。やっぱり中に居たからか?」
「あと、周りが水槽ばっかりだからってのもありそう。」
しょうがない、諦めよう。私とエリカが踵をかえすと、樹が二人の手を掴んで離さない。
「樹、イルカショーは中止だよ?」
「................でも、このまま帰りたくない。」
「................確かに。それもそうだな。」
「まだ三時前だしね。................うーん、後は................お土産コーナーぐらいかなぁ。」
「お土産!!買う買うっ。」
途端に樹が元気になる。................うーん、樹って、
(ちょろい)
(Schokoladen........)
「二人共なにしてるのー?早く行こっ。」
「はいはいっ、引っ張らなくてもいいから。」
「全く、イツキは甘えんぼだな。」
やれやれといった感じで、樹に引きずられていく。
「じー................」
「................な、なぁマホーロ................イツキは一体、何をしてるんだ?」
「................あー、気になったものはああやって眺めるのが樹のクセなの。」
いま樹が眺めてるのは、8000円もする大きなイルカのぬいぐるみ。................とりあえず樹を引き離す。
「樹、買わないからね?」
「................じー................」
「そんな恨めしげな目で見なくても................」
でも諦めたのか、樹は別のものを探しに行く。................ふぅ、良かった。
「マホーロはもう決まったか?」
「うん、これにしよっかな。」
私が見つけたのは、ラッコの形のペンダント。そしてエリカが握ってたのは、
「................さっきのイルカ................の、ちっちゃいやつ?」
「................これぐらいなら、ちょうど良さそうだったし。」
いや、ちっちゃいって言っても普通に抱っこできるぐらいの大きさなんだけどね。それでも2000円ぐらいするみたいだけど................
「そうだ、樹はどこ行ったんだろ。」
「磨穂呂、エリカ、みてみて。」
その声に振り向くと、樹が持ってきたのは、
「................イルカの着ぐるみパジャマじゃない。却下。................それ、高そうだし」
「................いや、ありなんじゃないか?」
「エリカっ!?」
思わず振り向くと、エリカが目をキラキラさせてて。................あぁ、エリカもそっち側なんだ................。
なんとかなだめすかして、樹には着ぐるみを諦めさせる。................その代わり、次はみんなで着ぐるみパジャマを探しに行く約束をさせられちゃったけど。
「................ふぅ、今日は疲れたなぁ。」
バスに乗りこんでしばらくすると、エリカは大きく息を吐く。
「もう................。」
色々と言いたいことはあるけど、とりあえず仕舞っておくことにして。
「イツキ、今日は楽しかったな。................イツキ?」
「あ、そっとしておいて。................寝ちゃってるみたいだから。」
「................ね、寝てるのか................そうか。」
エリカが驚いてしどろもどろになる。................うーん、樹の寝顔かわいい。つんつん。
「................そ、そうだマホーロ................今日は、ありがとな。」
「ううん、どういたしまして。」
エリカが妙にかしこまる。
「................あ、あと、その................イツキとマホーロって、付き合ってるのか?」
「ふぇっ!?........................い、いや、そこまでは行ってないっていうか................樹からスキって言われたことはあるけど................」
「................そ、そう、なのか................それで、マホーロの方はどうなんだ?」
「わ、わたし................?私も、樹のことは好きだけど................」
「な、なら。」
エリカが、ぐっと身を乗り出す。
「................そのスキに、私も混ぜてくれないか?................その、恥ずかしい話なんだけど........................私、イツキとマホーロ、どっちも好きになってしまったようなんだ................」
「................................................ふぇっ?」
私の頭がその言葉の意味を理解するまでに、たっぷりと時間がかかった。




