不思議なであい。
入館料を払って館内に入ると、まずは案内板を眺める。
「二人はどこに行ってみたい?」
「そうだな................イツキは、どこがいい?」
「そうだねぇ、まずは................この、おっきい魚から見てみたい。」
「じゃあこっちだね。」
二人の手を引いて――――誘ったのは私だから、と成り行きでホスト役を務めさせられることになった――――大型魚のコーナーに進む。
「ふわぁ................」
「ほう、これが................」
目の前の水槽では、大きなエイが身体を広げて泳いでいた。
「ねぇねぇ、これってあの有名な................えーっと、なんだっけ................サンタ?いや違う、................なんだっけ?」
樹は答えを私に丸投げする。
「................オニイトマキエイ、マンタ?」
「そう、それ!!」
「あぁ、ダイビングする時に一緒に泳げるっていうあれか。................ふぅん、これが。」
エリカが物珍しそうに水槽を眺める。................いや、そもそもほんとにオニイトマキエイかどうかは私分からないんだけど................。チラッと視線を動かしてプレートを見た感じでは合ってるようなので、ほっと胸をなで下ろす。
「こっちは................マグロ?」
マンタの水槽に張り付きっぱなしの樹とは対照的に、エリカはどんどんと先に進んで別なものに興味を持ったみたい。
「................これがマグロ................おっきい。」
テレビで冷凍マグロをセリにかけてるとこは見たことあるけど、本物ってこんなに大きいんだ................。というか、もう「おっきい」以外の感想が出てこない。
「あー................これから、あの刺身ができるんだよな?」
「うん。................あれ?」
エリカがどことなく冴えない顔をしている。
「................もしかして、お寿司嫌い?」
「................嫌いまでは行かないけど、苦手だな。そもそも生で魚を食べたのなんて、学園に入る少し前が初めてだったしな。」
ちょっぴり恥ずかしそうにエリカが続ける。
「................魚を生で食べるなんて最初は信じられなかったし、あの生臭さが鼻をついて................しかも最初、ワサビが何なのか分からなくて、そのまま口に入れちゃってだな................」
「あー................」
その様子を想像してしまう。................ふ、不謹慎だとは思うけど、わ、笑いそう................
「................あ、笑おうとしてるな?」
「い、いや、そんなことはっ................」
「................ま、別にいい。ところでイツキ、あのままほっといて大丈夫か?」
その言葉に振り返ると、樹はさっきと同じ姿勢のまま水槽の中を眺めていた。
「樹、置いてくよ?」
「わっ、ま、待って................」
トットットと走ってくる樹。................もう、本気で置いてくわけないのに。
「さて、次はどうする?」
「そうだねぇ................ここから近いのだと、................げっ、軟体動物コーナー................」
うにょうにょと動くタコを想像してちょっとだけ怖気付く。でも樹はそんなのお構い無しに、むしろ嬉々として軟体動物コーナーに入っていく。
「ナマコさんいるかな?................えぇ、触れないの?」
少し残念そうに水槽をつんつんする樹。................それを見て、二人で顔を見合わせる。
「........................エリカ、ここは姉の役目で。」
「いや私よりマホーロの方が年上なんじゃないか?私は10月生まれだし。」
「残念でしたっ。私は11月生まれだもん。」
「くっ................な、ならジャンケンで。」
「望むところ。」
................あいこ数回の果てに私が負けて、うにょうにょうねうね共の水槽に囲まれた空間へと恐る恐る足を踏み入れる。
「い、いつきっ................こんなとこ早く出ようっ?」
「えー、面白いのに?」
「私たちがダメなのっ!?」
樹をズルズルと引きずって、別なとこに連れていく。次のコーナーは群れをなす魚達のコーナーで、
「これは、................sardine、イワシか。」
恐る恐る水槽をつつくエリカ。................もしかしたらエリカは、魚が全般的にニガテなのかも?
「................さっきのとこの方がおもしろかった。」
無理やり連れ出されたのが面白くなかったらしく、樹はさっきからむすっとしたまんま。
(................あちゃー、これじゃ全然思い出の上書きにならないよぉ................)
頭を抱えたまま通路を進むと、横から来た人とぶつかった。
「わっ、」
「きゃっ!?」
「きゃあっ!?」
私はすんでのところで踏みとどまったけど、相手の方はもののみごとに転ぶ。
「あいたたた................紅葉ちゃん、ケガない?」
「私は大丈夫です。それよりお姉さまの方は................」
「私も大丈夫。................そちらさんも、ケガはない?」
「は、はい................私の方こそ、前見ないで歩いててすいません。」
「ああ、気にしなくていいから。」
「あれ、どうしたの?」
騒ぎ(?)を聞きつけて樹が歩いてくる。
「あ、ちょっと................ね。」
「あら?」
「あれれ?」
相手の方が、樹を見て首をかしげている。
「この子って確か................」
「かおりを探してる時に、よく見かける子ですよね。ってことは、かおりもこの辺にいるのかな。」
その時、廊下の角から「呼んだ?」とばかりに小さな頭がひょこっと出てくる。
「あ、かおり。もぅ、探したんだから。」
「ごめんねー、面白そうなのがあったから。................あれぇ、いつきちゃん?」
「あ、かおり先輩。」
どうやら、このふわふわした先輩?と樹は知り合いのようで。
「いつきちゃんもでーとしてるの?」
「で、デートだなんて................」
樹だけでなく、私も、追いついてきたエリカも................それだけでなく、相手のお二人まで赤くなる。
「も、もう、かおりちゃんっ!?」
「かおりっ、お出かけなら全部デートってわけじゃ................」
「................ちがうの?」
きょとんとした顔になるふわふわ先輩。................こ、この人、うちの樹よりも天然かもしれない................
「................かおり先輩は、その................このお二人とはどんなご関係で?」
「えーとね、こっちが高校生のかなみちゃんでー、こっちが高校生のくれはちゃんだよ。」
や、やっぱり高等部の方でしたか................。
「それでねー、みんな大好きなの。それでね................あれ、あそこでなんかゆらゆらしてる。ネコちゃんかなぁ、待ってぇ................」
話の途中で、とてとてとどこかに歩いて行ってしまう。
「あっこら、かおりっ。こんなとこにネコがいるわけないでしょ。................すいません失礼します。」
くれはさんの方がふわふわな先輩を追いかけていく。それを見て、かなみさんの方も頭を抱えた。
「................かおりちゃんのお友達なのね。うちのかおりがお世話になってます。................と、挨拶してる場合じゃないか................。それでは、いつかまた。」
「あっ................その、お互い、苦労しますね。」
そう声をかけると、かなみさんは苦笑しながら走り去っていく。................樹って、変なとこで変な人脈あるんだなぁ。
「................マホーロ、この後どうするんだ?」
「................どうしよっか。」
さっきのやりとりで、考えてたことが全部頭の中から吹っ飛んじゃった。
「................ま、とりあえずこのまま進んでみようよ。そしたら、何か見つかるかもしれないしさ。」
「樹、勝手に一人でどっか行かないでね?」
................ま、言ってもダメだろうし捕まえておこうかな。
樹の袖口を、そっと掴んだ。




