私が、主人公。
今回はつかさ様の須川 美海さんをお借りしました。
........................一人に、なっちゃった................
私は、誰も歩いていない廊下をてくてくと歩いていく。................行く宛なんてこれといってないけど、それでもまだ寮に帰るつもりはない。................だって、ほかの2人は入る部活をほぼ決めてるのに、私だけまだ決まってないし................
そんなことを考えてふらふらしていると、とある部屋の前で足が止まる。
「........................文芸、部................」
................えと、文芸部ってことは................本を読んだり、自分で書いたりするのかな................。書くのはやったことないけど、読むのは好き。だって................本と『会話』する時は、私は言葉を口にする必要は無いから。心の中で思うだけで、本と私は会話ができる。これが『人』とだったら................私はまず、思ってることを整理して組み立てて、やっと言葉になって................でも、こんな話し方だから、伝えたいことの半分すら伝わらない。だから................私のことを分かってもらいたくても、みんなには伝えられない。でも、文字なら................私の好きなこと、全部伝えられる。
うん、決めた。ここに、しよ。
何回も深呼吸して、ドアをノックする。................返事がない。そっとドアを開けると、部屋の隅に彫像が................いや、小説を片手に彫像みたいに固まってる人が、いた。
「................あ、あの................」
思い切って入口から声をかけてみるけど、その人は身動き一つしなくて。................聞こえなかったのかな、でもドアを開ける音けっこう大きかったし................
「お、おじゃま、します................」
一応一声かけてから、部屋の中に入る。テーブルの上には、書きかけの原稿用紙が散らばっていて。所々に朱が加えられてるのも混ざってる。
私は、窓際に座るその人の前に立つ。すると、ページをめくる手が止まって、その人が顔を上げる。
「................もう日が陰ってきたのかと思えば、何?あなた。邪魔。」
「あ、あのっ........................」
「................おまけに私よりも背が高いし、................ってあら、その校章は................新入生?」
「は、はい........................」
その人は、本に栞を挟んで立ち上がる。
「................須川 美海よ。よろしく。」
「あ、あの........................四条、磨穂呂と、申します................」
「そう、四条さん、ね................」
差し出された手に少し戸惑うけど、そうしてるのも悪いからこちらからも手を差し出す。須川先輩の手は、ちょっとだけ柔らかかった。
「................それで、四条さんはどんなのが好きなの?」
「どんなの................ですか................そう、ですね................物語、でしょうか................。」
「................ふうん。小説、とか?」
「は、はい................あの、................物語、だと................自分が主人公、みたい、で........楽しい、し................流れに任せれば、考え込まなくても、いい、ので................」
................あ、不思議そうな顔してる。
「................んーと、具体的にはどういうこと?」
「あ、あの................」
................ダメ、ちゃんと伝えられない........................、そうだ。
「あの、........これ、使って、いい、ですか?」
「................構わないけど。」
急にどうしたの?って顔をする須川先輩を横目に、私は伝えたいことを書き連ねていく。................できた。
「................その........伝えられない、ので................」
スッと差し出すと、先輩は文字を目で追っていく。
『言葉だとうまく伝えられないので、文字で失礼します。私は、その時々に応じて言葉を組み立てて口に出す........ということが苦手で、人と話すのが苦手 です。だけど本――中でも物語なら、ストーリーの流れに乗ってしまえば後は流れていくだけで、自分から何か考えなくてもいいので................。それと、本は私に問いかけてくるけれど、私はその答えを口に出す必要が無いので、自然と読書が好きになったのかもしれません。』
紙面から目線を上げた須川先輩は、大きなため息をつく。
「................四条さん。」
「は、はいっ!?」
「........................あなた、文章を書いてみたことって、ある?」
「ま、まだ................無いです................感想文とかも、苦手で................」
「................そう、なの................?」
意外、といった顔をされる。
「................ぜひ、うちで書いてみて欲しいわ。あなたなら................きっと、『主人公』になれる、から。」
「私、が................『主人公』?」
................今までも、物語の中に溶け込めば『主人公』にされて動かされてきたけど................私から『主人公』になったことは、一度も無い。そんな私が................『主人公』?
「................まずは、思ってることを書き出す練習からね。次に、軽くストーリーを作ってみる。................そうね、エチュードとかやって見るのもいいかも。」
「エチュード................」
「そう。................自分が『主人公』になる練習。」
その後も色んなことを教えてもらって、帰りには自作の小説も貰った。
「................書けたら、またここに持って来るといいわ。................私はずっと日向ぼっこしてるから、多分いるし。」
「................はい。ありがとう、ございます。」
おじぎをして後ろ手に扉を閉めると、私はまた歩き出す。.........................帰りに原稿用紙を買う計画を、胸に秘めながら。
用語解説
エチュード:場面設定だけで、演者(役者)が自分でセリフ等を即興で考えて演じる小劇。たまに公園とかでやってるのを見かけることがあるかもしれない。




