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手に入れたものたち。

トントンと階段を上って、私の部屋の階を通り過ぎてもう一階。廊下の中程の部屋の前で、エリカさんが足を止める。

「ここだ。」

ドアには木のプレートが掛けられていて、流暢なアルファベットで何かが書いてある。

「................ああ、そのプレート、気になるか?................私の名前だ。Erika von schmit(エリカ フォン シュミット)、って書いてある。................向こうだと『エーリカ』って呼ばれてた。」

鍵を開けながらエリカさんが懐かしむように言う。けど、何故か寂しそうに見えて。

「さ、入ってくれ。」

「お、お邪魔します................」

恐る恐る足を踏み入れると、私は部屋の内装にまず驚く。基本的なレイアウトは私や樹の部屋と同じだけど、まず本棚が増えていて、上からギッシリと本や小物が詰められている。

「................あ、これ気になってたやつ。」

樹が本棚からマンガを引っこ抜く。

「ちょっと、樹!?勝手にいじったらだめだよ!?」

慌てて樹をたしなめるけど、

「ん、気にしなくていい。マホーロも読みたいものがあったら手に取っていいぞ。」

と、エリカさんは平然とする。................でも、さっきのは樹がお行儀悪いから................って、樹、マンガとにらめっこしてるけど................

「................よ、読めない。」

後ろから覗き込むと、絵は私もよく知ってるマンガなんだけど、セリフがアルファベットになってて................

「ああ、それは向こうで買ったやつだから。................探すの苦労した。向こうだと、日本の2.5倍ぐらいする。」

「そ、そんなに................」

樹は早くも飽きちゃったみたいで、マンガをほっぽり出して部屋の中の観察を始めてる。もう、出したものは片さないと。マンガを元通り棚に収めて、樹が変なことしないか見張る。

「................お待たせ、Orangensaft................オレンジジュースで、いいか?」

「あ、ありがと。」

ジュースと聞いて樹も戻ってくる。

「........................そ、そうだ、spielkarteでも、するか?」

いそいそとエリカさんがトランプを持ってくる。

「................ま、待って待って、確か、話すことがあるからって、誘われたと思ったんだけど................」

「そうだっけ?」

樹がジュースを片手に首を傾げる。

「そ、それは後でも大丈夫だから。................さ、マホーロの分はこれな。」

少し慌てたように、トランプの束が私の目の前に置かれる。................うん、断るのも悪いし、何より樹がやる気みたいだから................とりあえず一戦したらお(いとま)しようかな。


「はい、上がりっ」

「................ぐぬぅ................もう一回!!」

「別にいいけど................磨穂呂、今何連敗目?」

「う、うるさいっ................」

................こっそり数えてたけど、確か今は8連敗目。だってこの二人強いんだもん................。

「よ、ようし、次こそはっ。」

私が意気込むと、樹のお腹が鳴く。

「................ふむ、今の時間は。」

チラリと時計を見れば、もう8時を回っていて。

「................そういえば、ご飯、食べてなかったね。」

「................マホーロ達もか?」

エリカさんが私達の話に食いつく。

「あ、一緒に行きます?」

「うん、今なら空いてそうだしな。」

ケースにトランプを仕舞いながらエリカさんが立ち上がる。それを見て私も立ち上がると、パジャマのポケットから携帯がコロンと転がり落ちる。

「おっとっと。」

「あれ、磨穂呂、携帯持ってたんだ。」

「うん、一応ね。」

........................って、そういえば、樹と八千流とメアド交換するの、すっかり忘れてた。

「「あ、あのっ、」」

声が重なって思わず振り向くと、エリカさんと視線がぶつかる。お互いに「先にどうぞ」と譲り合いをしまくって、ようやくエリカさんが口を開く。

「................その、だな。せっかくだから................携帯の番号とか、メアドとか、交換しないか?」

「あ、それさんせー。」

「................わ、私も、それ言おうとしてたっ。」

................先に言われちゃった。樹がズボンのポッケからピンクの携帯を取り出すと、ぽちぽちといじり始める。

「................そうだな、先に私とマホーロで交換するか。」

「う、うん................えっと、こう?」

見様見真似で赤外線通信して、エリカさんのアドレスをもらう。不思議なことに、エリカさんの画面だと全部ドイツ語なのに、こっちに送られてきた時には名前以外は全部日本語になってた。

「あっ、磨穂呂私もっ。」

樹が背伸びして赤外線を送ってくる。送られてきたプロフィールはほとんど平仮名で、

(そういえば、樹の名字って椎原って言うんだっけ。)

なんてことを思い出した。

「........ん、これで全員繋がったな。これで........................マホーロと、イツキとは、Freund................と、トモダチ、だな。」

エリカさんが恥ずかしがるように言う................いや、これは照れてるのかな。

「なぁんだ、エリカは友達が欲しかったんだ。」

「ちょっと樹!?」

さ、流石に馴れ馴れしすぎない!?私達よりも上級生なのに................

「................ふふ、エリカと呼んでくれる人、久しぶり。みんな、『さん』を、付けるから。」

「え、エリカさん................?」

そう呼ぶと、エリカさんが急に不機嫌な顔になる。

「................マホーロ、『さん』は、要らない。................だって、私は、12才。同じ1年生で、二組だし。」

「........................え!?お、同い年................?」

「................最初に会ったとき、お風呂場で自己紹介、したはず。」

「ご、ごめんなさい................あの時は、緊張してて................」

お、同じ歳だったんだ................てっきり三年生の人かと................。

「うーん、エリカはなんか大人っぽいから、みんな遠慮して『さん』って呼ぶんじゃない?」

「................私、特別扱い、して欲しくない。だから................せめて、最初のトモダチの、マホーロとイツキには、『エリカ』って呼んでほしい。」

「うん、わかった。よろしくね、エリカ。」

その後、二人は期待の眼差しでこっちを見る。................うぅ、わ、分かったよぉ................

「................え、エリカ................。」

「よろしく、マホーロ。」

「........................磨穂呂、だって。」

................でも、いっか。私の方も目標が一個、達成できたし。

真っ白だった電話帳に並んだ二つの名前に、私はそっと目を落とした。

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