脱衣場。
「........................お、お待たせ................」
樹がお風呂セットを持って私の部屋の前に戻ってきたのは、それから10分後。
「樹、遅い。」
ちょっとほっぺたを膨らませてみる。
「だ、だって................」
「................冗談。さ、行こっか。」
「................磨穂呂、この時間空いてる、って言ったよね?」
「................お、おかしいなぁ................」
そう、まだ六時前なのに、大浴場には女の子達がひしめいていた。
「あ、マホーロ。」
その声に振り向くと、タオルと着替えをもって戸惑う金髪さんがいた。
「................えっと、エリカさん、ですよね。」
「Ya、................私の、静かな、お風呂タイムが................」
「................この時間だと、いつもなら空いてるのに................」
「あー................Idol-Gruppe、アイドルの、コンサートの、生中継が、この後、ある、らしい、です。」
「あっ、そう................なんだ................」
エリカさんがちょっとだけ視線をあげる。
「................マホーロ、ドイツ語、できましたか?」
「................う、ううん................」
「だって今、Ach So................ああ、『あっそう』ですか。ニホンゴ、面白いですね。私の国でも、相づちで、『Ach so』、言います。」
「へぇ〜」
ドイツって面白いなぁ................と感心していると、樹が袖口をちょいちょいと引っ張る。
「................磨穂呂、この人誰?」
「................ああ、隣のクラスの人。エリカさん、私の友達の樹です。」
「イツキ................覚えました。Schön dich zu treffen.初めまして、エリカ・フォン=シュミット、です。」
差し出された手を慌てて樹が取る。................って、その前に。
「................あの、とりあえずお風呂、入っちゃいません?」
「Ach................そうですね。」
三列並んで空いてるロッカーなんて見つけようが無いから、私達はバラバラに空いたとこを使うことにする。あ、ここ鍵ついてる。扉を開けると、脱ぎたての制服が収まっていて。
「あ、そこひーちゃんの!ごめん鍵かけ忘れてた。かけて投げてちょうだい!!」
私より小さな頭がひょこひょこと動く。................な、投げるのはちょっと........................。それでも鍵を掛けて、とりあえず歩いて渡しに行く。
「ありがとっ。ひーちゃんの彼女にしてあげよっか?むふふん。」
「................い、いえ、結構ですっ」
こないだのゆるふわさんのことを思い出して、小走りに逃げる。この人もゆるふわだし、ゆるふわはみんな怖い人なんだきっと。
「どうしたの磨穂呂?早く入ろ?」
その声に振り向くと、既にすっぽんぽんの樹と大事なとこだけタオルで隠したエリカさんが待っていた。
「................あ、空いてるロッカー見つからなくて................あ、待ってて。そこ空いてるみたいだから。」
鍵のついたロッカーを開ける。................よし、今度は空っぽ。手早く脱ごうと制服に手をかけると、
「........................あの、樹................そんなにまじまじと見られると脱ぎにくいんだけど................」
「だって磨穂呂と私の身体、全然違うんだもん。よく観察したら何か分かるかなって。」
「ひいっ!?........................そ、それならもっと体格いい人が周りにもたくさん居るじゃない................え、エリカさんとか。」
「Bin Ich!?」
なるほど................と樹の視線がエリカさんに逸れた隙に私も全部脱ぐ。
「................い、行こっか。」
「................マホーロ、後で、覚えて、おいて................」
ちょっと恨みのこもった声が聞こえたような気がしたけど、私は何も悪くない................はず。
ほんとにドイツ語でも「あっそう(Ach so)」って言うんだよ!!ほんとだよ!!




