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次の、部室。

カツン、カツンと階段を登る足音が二人分響く。

「だ、大丈夫、なの................勝手に、高等部、の、とこに、入って........................」

「大丈夫だと思うよー........................たぶん。」

「た、たぶん、って........................」

私達は八千流と別れた後、なんとなくその辺をぶらついていた。けど、

(................樹って、好奇心旺盛すぎない........................?)

渡り廊下を見つけると、私の手を引いてずんずんと進んでいって、見知らぬ廊下へ一直線。

「も、もう、戻ろ、うよ................」

「だめです。................この先にもっと面白いものがあるかもしれないし。」

................お、面白いものって................

「................ところで、さっきからなんかいい匂いしない?」

「........................たし、かに。」

階段を登ってこの階に来てから、なんか甘い匂いがどこからか漂ってきてて................ちょっぴりお腹がすく。

「................ふむふむ、こっちから匂ってくるみたい。」

私の遠慮もお構い無しに、樹はずんずんと廊下を突き進んでいく。

「ちょ、ちょっと、まって、」

「................ここ、だね。」

くんくんと鼻をひくつかせる樹。そこに掛けられたプレートには、『理科室』と書いてある。

「................ところで、さっき、から、何を................してる、の?」

「................扉のガラス窓から中を覗こうと思って................けど、届かないっ................」

................さっきからぴょこぴょこと飛び跳ねてたのはそれだったんだ................。

「........................わたしが、見る................」

樹と比べたら、私は頭2つぐらい視界が高いから、飛び跳ねたりしなくたって中の様子は良く見える。................どれどれ........................?

「........................どう?中の様子は?」

「................ごはん、食べてる、人が................えっ!?」

思わず大きな声を上げそうになる。

「ど、どうしたの................?」

「........................ち、ちちちちち、ち、ちち、」

「................どうしたの磨穂呂?ヒヨコの真似?」

「................ち、ちゅー、して、た................」

「........................へ?」

その時、目の前で扉が開く。

「........................あなた達、こんなとこで何してるのかしら?」

がっしりとして私よりも背の高い人が、私達のことを睨みつける。

「あ、あの................そのっ」

「................その、もしかして................見てないでしょうね?」

「な、なに、を........................」

................こ、この人、怖い................

「................こらこら雪乃。ダメじゃない、そんな怖がらせたら。」

と、奥からもう一人背の高い人が出てきて怖い人を押しのける。

「................その校章の色は................新入生かな?どうしたの?」

「あ、あの................」

「美味しそうな匂いを辿ってたらここに着きました。」

い、樹、そんなストレートに..............

「あー................やっぱ外にも匂い漏れてたかぁ。」

そう言うと、怖くない方の人はテーブルの上の砂糖の袋を手に取る。

「................バレちゃったらしょうがないね。君たちもおやつ食べてかない?」


「................」

「い、樹................?」

怖くない方の人が、お玉を火にかけて砂糖をゆっくりと溶かしていく。その様子を、樹は食い入るように見つめている。

「................見てなさい、これからがすごいんだから。」

さっきは怖かった人が、今は自慢げにその様子を解説してる。

「................もう、雪乃は見てるだけでしょ。」

その様子に、もう一人の人は少し呆れたようにお玉を持つ手を揺らす。

「................ん、もうそろそろかな。ここからが本番だから、よく見ててね?」

そう言うと、割り箸の先に白い粉を付けて溶けた砂糖に突っ込む。そして素早く火から下ろしてかき回すと、砂糖がモコモコと泡立つ。

「す、すご、い................」

ふと隣に目を向けると、樹はじっと食い入るようにお玉を見ている。

「カルメ焼きよ。えーと、重曹が熱で溶けて................んーと、望乃夏、なんだっけ?」

「そこでボクに振るの!?................ったく。」

望乃夏と呼ばれた人は、お玉をお皿に置いて黒板の前に立つ。

「んーとね、まず砂糖が熱せられて液体になるの。そこに突っ込んだ割り箸には炭酸水素ナトリウム、つまり重曹が................」

と、黒板によく分からないことを書き連ねながらスラスラと説明していく。その立ち振る舞いは、思わず私でも見とれそうで。

「................さて、質問は?」

「はい!」

樹が勢いよく手を上げる。

「はい、そこの君。」

「説明が全く分からないので、もう一度作ってるとこ見せてください。」

........................あ、望乃夏さんがコケた。

「................し、しょうがないなぁ........................なら今度は本気でいくからね?」

と、望乃夏さんはどこからか白衣を取り出して着ると、今度は砂糖を計量スプーンで測りとって火にかけ始める。

「................雪乃、そこの計量スプーンでソーダ3gキッチリ測りとって。」

「さ、3gって................」

「................ごめんボクが悪かった。じゃあ雪乃はこれ持ってて。いいって言うまで火から下ろさないでね?」

そう言うと、望乃夏さんはテキパキと重曹を測りとってお玉の中に突っ込む。

「今っ。下ろして。」

お玉をひったくると、濡れ雑巾の上で慎重にかき回し始める。すると、さっきよりも大きく膨らんで、そのまま固まった。

「........................ふう。上手くいった。」

「................ふむふむ、見てて飽きないです。」

........................樹、楽しそうだなぁ。

それからは、望乃夏さんと樹で話が盛り上がって、私は置いてけぼりになる。

「................全く、望乃夏は科学バカなんだから。」

と、怖かった人がため息をつく。

「................あ、ちなみに私は科学部じゃないから。あそこにいる望乃夏のルームメイトね。................ところであなた、名前は?」

「あっ、................四条、磨穂呂、と、言います................」

「................そう、四条さん、ね。................」

頭の上からの視線が、私のことを上から下まで眺める。

「........................その、バレーに興味はない?実は私バレー部の部長なんだけど........................その身長なら、練習すればレギュラーも取れるかもしれないわ。」

「あ、あのっ................」

「こらこら雪乃。新入生が困ってるよ。」

「ご、ごめんなさい................つい。」

「い、いえ................私、体育、苦手、なので................」

それだけ言うのが精一杯で、すぐに俯く。

(................し、失礼って、思われるかな................)

けど、その話はそれっきりになった。


結局、樹はもう少しだけ理科室にいることになって、私は一人になる。

(................帰り道、どっちだろ................)

私はまた、宛もなく歩くことにした。

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