裏では。
................やっぱり、お腹空いたかも。
私は、泣きかけたお腹を押さえ込んでどうにか鎮める。................やっぱりおにぎりだけは、自分で食べとけば良かった。................実言うと、私はお昼ご飯を食べてない。
まず購買に行っておにぎりとソースパンを確保................するのが大変だった。いくら背の高い私でも、人混みをかき分けて進むのは苦手だし................そういえば人混みを力ずくでこじ開けて進んでく人が居たけど................横顔だけしか見てないけど、あれは白峰先輩っぽかった。いや、間違いなくあの先輩だろなぁ................おにぎり争奪戦の時と同じことしてたし。
ついでに自販機で焙じ茶を買って、もみくちゃのズタボロになって帰ってきた頃には、昼休みは半分終わってた。
「お、まほろんお帰り。」
後ろの席から、机に山盛りのパンを片っ端から食べ進める八千流が声をかける。
「そ、それ、全部食べるの................?」
「いやー流石に一度に全部は無理だわ。こっちは放課後のおやつでこっちは晩御飯の後のシメ。」
「................ご、ご飯の、シメ!?」
八千流のお腹を思わず凝視する。................フツーのお腹だし、まだぺったんこなのを除けば、私と横幅も変わらない。................い、一体このパンはどこに消えるの?
「................むー?もしかしてあたしが太るんじゃないかって心配してる?」
................なんでバレたの。
「それなら心配ご無用っ。この後めっちゃ走り込むからこの分は全部使い切っちゃうし。それにとある先輩は言っていた。『お肉とご飯のコラボは正義っすよ!!』................と。つまりいくら食べてもその分運動すれば問題解決おーるおっけーなのだ!」
椅子の上に片足を乗せてポーズをキメる八千流。すかさず周りから拍手と賞賛の声が上がる。.....................けど。
「................八千流、ここ女子校、だけど................せめてパンツは、隠した方が................」
「にゃっ!?」
慌てて片足を下ろす八千流。................あ、それぐらいの恥じらいはあるんだ。
「................ちょ、調子狂うなぁ................てか、見えてたの?」
「................カラフル、だった。」
「そういうのは報告しなくてもいいっ!?」
................いや、私も見たくて見たわけじゃないんだから................
「................それよりまほろん、お昼ご飯食べないの?」
「................あ、忘れてた................」
慌ててビニール袋を開けておにぎりに手をかけると、
「................あ、樹。」
「ふぇ?」
慌てて顔を上げると、樹がトコトコと教室に戻ってくるのが見えた。思い切って、樹のところまで歩いていく。
「あ、あの................」
「ああ磨穂呂、ただいま。」
樹の声はちょっと震えてて、それだけで心配になる。
「そ、その................お昼ご飯、食べられた?」
「あ、当たり前でしょ。ちゃんとお腹いっぱいに」
樹が見栄を張ってるのはすぐにバレた。樹のお腹が、きゅるんと泣く。
「........................うそつき。なら、これ、あげない。」
後ろ手に隠したビニール袋が、カサリと音を立てる。
「お、磨穂呂美味しそうなもん持ってんじゃん。」
「っ!?................八千流、バラさないでよ。」
................もうちょっと引き延ばそうと思ったのにぃ................
「................はぁ、バラされちゃったなら、しょうがない。........................はい、樹。」
樹の前にビニール袋を置く。
「................コロッケパンと、おにぎり?」
樹がきょとんとした顔をしたので、ちょっとだけムッとする。................こっちは樹のこと考えて苦しい思いしてたのに。
「................要らないなら、返して。私が、食べるから。」
不機嫌なのを隠さずにビニール袋に手をかけると、樹は慌てて自分の方に引っ込めて、
「た、食べる食べる......................ありがと、磨穂呂。」
樹は早速コロッケパンのラップを剥いて、口を大きく開いてかじりつく。ふふっ、樹ったら........あんなに頬張って。
「それにしても良かったの?毎日競争で、激戦になる人気のコロッケパンをあげちゃって。」
八千流が後ろからこっそり聞いてくる。
「................うん、また、買えるから。」
「................変なの。」
八千流はそれだけ言うと、またパンの山の攻略に戻る。................そうだ、パンばっかりだと喉乾くよね。何か飲み物を................。私の目は、さっき買った焙じ茶のペットボトルで止まる。................樹から貰ったものは、ちゃんと返さないと、ね................?
キャップを開けて、半分ぐらいを飲み干す。それから元通りにして、樹に差し出す。
「................ん。」
樹は何の疑いもなくフタを開けて、半分残った焙じ茶を一気に飲む。
「................どう、おいしい?」
「................うん、とっても、おいしい。」
樹が弾んだ声で返す。
「................なら、良かった。」
まともに樹のことを見れなくて、そっぽ向いてそう返した。それを見た樹の顔色が、みるみる赤くなって。
「........................ま、まほ、ろ................?この焙じ茶って、 」
「ほ、ほら樹っ、もうすぐ授業、始まるから、さっさと食べないとっ。................あ。お茶、返してっ。」
強引に話を打ち切って飲みかけのお茶をひったくる。昼休み終了のチャイムが、私達の間にこだまする。
「................じゃあ、授業、だから。」
自分の机に戻って教科書を広げて、樹のことを頭から追い出す。................ちらっと目線をあげてみたら、樹はまだちょっとぼーっとしてて。
「................悩みたいのは、こっちの、方なのに。」
僅かに残った焙じ茶を口に含む。別段変わった味はしなくて、ちょっとだけブルーな気持ちになった。




