ふらふらと。
いっつんサイドですよん。
................はぁ、勢いに任せて飛び出して来ちゃった、けど................
私は、乱れた息を整えようと立ち止まる。................うん、落ち着いた。................のは、いいけれど。
「................ぐぅ。」
「あっ........................」
................お、おなか、すいた................。お財布お財布っ................あ、カバンの、中だ................。今から戻るのは................磨穂呂と鉢合わせしちゃいそうだから、ナシ。だとすると................お昼ご飯、どうしよ................。
宛もなくぷらぷらとうろついていると、いつの間にか中庭を通り越して高等部の玄関の前を歩いていて。
(................そうだ、理科室に行けば墨森先輩が居るかも。)
事情を話せば、お昼代ぐらいは貸してくれるかもしれないし。................その代わりに何か頼まれても、雪乃先輩が大抵横にくっついてるからそんなに非道いこととかは頼まれなそうだし。................最も、雪乃先輩は墨森先輩に弱そうだしなぁ................。
高等部の昇降口に足を踏み入れると、急に視界が遮られる。目線を上げると、ゆるふわな髪の毛がまず目に入って。次の瞬間、壁際まで追い詰められていた。
「........................え?」
「おいおい、こんなところで一体何をしてるんだい子猫ちゃん?」
「こ、こねこ........................?ネコさん、どこにいるの?」
高等部は校舎の中でネコさん飼ってるんだぁ、なんて変な感動を覚えながら、あたりをキョロキョロと見渡す。................あれー、居ないよ?
「も、もう、調子狂うなぁ................ねぇ、なんでよそ見してるの?ん?ボクはここだよ?」
頭の上から低くて甘ったるい声が落っこちてくるけど、私はネコさん探しを続ける。................居ないよ、どこ?
「........................き、きみねぇ................」
........................このゆるふわさん、ワナワナと肩を震わせてるけど、具合でも悪いのかな? とりあえずじーっと観察してみようかな?
「ふ、ふふふ、ちょっと無視が過ぎるんじゃないかな、子猫ちゃぁん?」
「だからネコさんどこにいるの?」
「目の前にいる君が子猫ちゃんじゃないかっ!?」
................変なの。私がネコさんに見えるのかな?
「マーリッカっー♪みーつっけたっ♪」
いきなり真横から人が飛んできて、――いや、ほんとにすっ飛んできた――ゆるふわさんに抱きついてすりすりする。
「だー!?千歳やめろって!?今いいとこなんだからっ!!」
「うぅーん、そんなマリッカもすってっきぃ♪」
「む、胸を押し付けるなぁっ!?」
................なんかよく分かんないけど、このスキに................。それにしても、子猫ちゃん子猫ちゃん言ってたけど、全然ネコさんいないじゃん、嘘つき。
てくてくと高等部の階段を上がって、理科室の前に立つ。扉にはまったガラスを覗こうと背伸びするけど、見えてくるのはガラスの下のグレーの鉄の扉だけ。................くっ、もうちょっと身長さえあれば................必死にジャンプしてみるけど、中の様子は分からない。................しょうがない、素直に扉開けて入ってみよ。電気も点いてるみたいだし、きっと居るよね。
「おじゃまします................」
カラカラと扉を開けると、教室の中の視線が全部私へと集まる。
「................何の用ですか。」
................あれ、なんでこんなにたくさんの人が?
「あ、あの................墨森先輩は。」
「墨森?知らんな。とにかくうちはミーティング中なんだ、出てってくれ。」
「え、ちょっと、待って」
「さぁ、出てった出てった。................ったく、剣道部ミーティング中って扉に貼っておいたのに。」
文字通りつまみ出された私は、トボトボと自分の教室へと帰ることにした。................もうお昼休みの時間もそんなに残ってないし、今日はお昼ぬきかぁ........................。
今度はゆるふわさんにも出くわさず、すんなりと1-1にたどり着く。................磨穂呂は、................あ、居た。................と、とりあえず何事も無かったかのように................
こっそりと自分の席に戻ると、目ざとく磨穂呂が飛んでくる。
「あ、あの................」
「ああ磨穂呂、ただいま。」
ちょっと声が震えたの、バレてないといいけど。
「そ、その................お昼ご飯、食べられた?」
「あ、当たり前でしょ。ちゃんとお腹いっぱいに」
見栄を張るけど、途中でおなかが鳴る。
「........................うそつき。なら、これ、あげない。」
カサリ、と磨穂呂の背中から音がする。
「お、磨穂呂美味しそうなもん持ってんじゃん。」
「っ!?................八千流、バラさないでよ。」
................えーと、何隠してるの?
「................はぁ、バラされちゃったなら、しょうがない。........................はい、樹。」
私の前にビニール袋が置かれる。
「................コロッケパンと、おにぎり?」
「................要らないなら、返して。私が、食べるから。」
不機嫌な顔をしてビニール袋に手をかける磨穂呂。慌てて自分の方に引っ込めて、
「た、食べる食べる......................ありがと、磨穂呂。」
コロッケパンのラップを剥いて、口を大きく開いてかじりつく。濃いソースの味が、私のおなかをくすぐる。
「それにしても良かったの?毎日競争で、激戦になる人気のコロッケパンをあげちゃって。」
「................うん、また、買えるから。」
「................変なの。」
後ろで八千流と磨穂呂が何か話してるけど、私はそんなの気にせずに一身にかじりつく。................お、おいしいっ。でもそろそろお茶が欲しいかも。
「................ん。」
すかさず磨穂呂が、お茶のペットボトルを差し出す。........................へぇ、焙じ茶かぁ。フタを開けて半分ぐらい入った焙じ茶を一気に飲む。
「................どう、おいしい?」
「................うん、とっても、おいしい。」
「................なら、良かった。」
磨穂呂がそっぽ向いてそう言う。................あれ、顔がちょっと赤い................?................って、これ........、
「........................ま、まほ、ろ................?この焙じ茶って、 」
「ほ、ほら樹っ、もうすぐ授業、始まるから、さっさと食べないとっ。................あ。お茶、返してっ。」
飲みかけのお茶を強引にひったくられる。................えっと、もしかしなくても................そう、だよね?
私の頭の上で、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。




