お昼前。
........................どきどきどきどき。
................どきん、どっきん。
................うぅう................し、静まれ、私の心臓................
「................えーと、では次のとこを................四条さん。」
「は、はい................えーっと、」
反射的に立ち上がったはいいけど、さっきから授業なんて上の空。そっと目線を下に向けると、前の席の樹が教科書を縦にして読むところを指し示してくれる。
「その声に袁サンは聞き憶えがあった。驚懼の中にも彼は咄嗟に思いあたって叫んだ。
『その声は我が友、李徴子ではないか?』
袁サンは李徴と同年に進士の第に登り、友人の少かった李徴にとっては最も親しい友であった。温和な袁サンの性格が峻峭な李徴の性情と衝突しなかったためであろう。」(青空文庫『山月記』より引用)
「はい結構です。それでは次を、................篠原さん。」
................ふぅ、なんとかなったぁ。後ろから聞こえてくる八千流のデタラメ読みをバックミュージックに、私は心臓をまた落ち着けようとする。けど................けど、この鼓動も熱も疼きも、全く消えてはくれなくて。
(................おかしくなっちゃったのかな、私。)
不意に指を唇へと持っていくのも、もう何回目か覚えてない。返ってくるのは自分の唇の、かさついた弾力だけ。なのに、まるでそこに樹がいるような................そんな気持ちで、また下唇に指が触れる。
八千流のバックミュージックが終わらないうちにチャイムが割り込んでくる。慌てて次回までの宿題をノートの端にメモして、教科書を仕舞う。................ってあれ?これ前の数学の時間のノートじゃんっ!? ........................しかも真っ白けっけ。
ため息を一つついて、机の上のものを全部机の中に押し込む。今はちょうど、お昼休み。ごはんは................どうしよっかな。
................でもその前に、片付けないといけないことがあるよね。
「................樹、ちょっと................いい?」
「................まほ、ろ................。」
樹が慌てて視線を外す。
「................ごめん、お腹空いてるから。」
伏せた目線もそのままに、私を置いて教室を出ていく。「待って」と伸ばした手は空を掴んで、後には私が取り残された。
「................どーしたの?ケンカでもした?」
「うわっ!?」
後ろからの声に振り向くと、焼きそばパンを咥えた八千流がいた。
「................お、脅かさないで................」
「驚かせたつもりはないんだけどなぁ................」
と、あっという間に焼きそばパンをお腹に収めて、次のコロッケパンを取り出してかじりつく。それを見て、私のお腹も思い出したように猛アピール。
「あれ?お昼持ってないの?」
「................朝は、買う余裕、無かったから................食べてくる。」
........................うん。色々悩んでたって始まんない。まずはお昼ご飯食べに行こ。........................『腹が減ってはナントカカントカ』って、言うしね。




