伝えあって。
................うーん................『私の部屋で待ってて』って言われたけど....................そもそも、樹の部屋ってどこだろ........................?
私は、差し入れの中にスポーツドリンクも突っ込んで、さっきの廊下をうろうろする。................と言うか、樹ってこの階だったんだ................私と違う階なら、昨日初めて会ったのも納得できる。
(えっと................、椎原、椎原................ここ、かな?)
ドアを軽くノックすると、すぐに「..............どうぞ。」と声がかかる。
「お、おじゃま、します................」
遠慮がちに部屋の扉を開けると、樹がベッドに半身を起こして待っていた。
「................はい、飲み物................。」
スポドリと差し入れを遠慮がちに差し出すと、樹はスポドリをチラッと見たあとに、机の上へと目線を移す。そこには、空になったペットボトルが置いてあって................しかもそれは、私が買ってきたスポドリと違う種類の。................ま、間違えちゃった................。慌てて買い直しに行こうとすると、樹がだるそうに私のことを止める。
「................いい、これでもいいから。」
樹は少し力を込めてスポドリを引っ張ると、フタを開けてそのまま一気飲みする。................1/4ぐらいが、喉を通って樹の中に吸い込まれていく。................こく、こく、と絶え間なく上下に動く喉を、思わず見つめちゃって。樹が口を離すのと同時に、慌てて目線をそらす。................そして、
「あ、あの........................」
遠慮がちに口を開く。
「その................風邪、引いたのって、................わ、私の、せい................だよね?」
樹は、飲んでいたスポドリを吹き出しそうになって思いきりむせる。
「だ、大、丈夫................?」
「................なんで、それを................」
「や、やっぱり................」
................やっぱり、私のせい、なんだ................そ、それなら................私にも、確かめたいことが、もう一つだけある。
「そ、その........................間違って、たら................ごめん、なさい........................。樹は................私のこと、................す、すき、................なの?」
樹は、布団に突っ伏した。................それは、否定しようのない事実だってことを、表していて................でも、私の中に不思議と戸惑いはなかった。................最初からとっくにわかってた事みたいに、私の中に樹の『スキ』がストンと落ちる。................そっか、樹は私のこと................『スキ』、なんだ。........................なら、私の気持ちも........................確かめてみても、いい、よね?
私は、勇気を奮い起こして樹と目を合わせて、そして訊いた。
「........................ねぇ、樹................その................私、も................まだ、よく、分かってない、んだけど................私、も................樹のこと、考えると................ドキドキ、して................楽しく、なって................これが、スキ................なの、かな................」
「................................ふぇ!?」
樹が布団の中で素っ頓狂な声を上げる。................そ、そんなに、驚かなくても................。でも、もう後戻りなんて、出来ないから。
「................いつ、き........................私、いつきの、こと................スキに、なっちゃった、かも................」
................私の思いを、樹へとぶつける。
「................................................ええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
その絶叫に思わず耳を押さえて、恐る恐る樹を見れば................
「........................あれ、いつ、................き........?」
........................樹が、大の字になってのびていた。........................って、えええっ!?
(........................こ、こっちが、ええって言いたいよ................)
「い、いつき................いつき................」
ゆさゆさと軽く揺すってみると、樹が目を覚ます。................よかった。
「........................ごめん、なさい................ちょっと今記憶が曖昧で................えっと、確か................磨穂呂が、『これが、................なのかな』って言った後のことを覚えてないんだけど................」
................な、なんで肝心なとこ覚えてないのっ................。
「................その、もう一度、言ってくれない................?」
っ!?........................わ、わたしに、もう一度、言ってほしい、って................!?一瞬で頭の中が沸騰して、もう何も考えられなくなる。
「........................バカ、いつき、もう、言わないっ、絶対。」
もはや言葉を組み立てることもせず、持っている単語をひたすら樹へとぶん投げる。そんな私を、樹はちっちゃな目を見開いてじっと見つめてた。
「................いつき、スキ、................二度と、言わない................バカ。」
................何回かに一回、必ず『バカ』が混ざってるのは、私の語彙力が無いせいだと思う........................
........................私が落ち着いたのは、それから10分ぐらい経ってからのことで。
「........................どう、落ち着いた................?」
樹が熱っぽい目で見つめてくる。
「................う、うん................ごめ、ん................」
すっかり頭が冷めた私は、しょんぼりと樹のことを眺める。
「................はぁ、なんか私も疲れた................。何か、冷たいものが食べたい................」
樹が私のことをチラッと見る。................はいはい。
「................アイス、................何が、いい................?」
「................あのチューって吸うやつ。バニラのね。................あ、少しだけ溶かして。」
と、細かく注文を付けてくる。................私も、それにしようかな。
「わ、わかった................」
それだけ言うと、私は樹の部屋を出る。温んだ春の風が、床のホコリを舞いあげた。