最初の、自己紹介
今回も宜しくお願いします。
................こんな私でも、友達ができるんだ................。
それを教えてくれたのは、私の大事な大事なおともだち。................おともだち、で、いいのかな................ううん、好き、だから................きっと、おともだちでいいんだ、きっと。
「まほろん、何してるの?」
「................またお腹でも痛いの?磨穂呂。」
「うう、ん................なんでも、ないっ。」
................いつかは、話せるといいな。ホントの気持ちを、自分の言葉で、はっきりと。
(........................ううぅ、つ、次は私の番................)
後ろの席の人の自己紹介がもうそろそろ終わる頃になって、私――磨穂呂の心臓はもう、破けそうなぐらいドキドキしてた。
(だ、大丈夫................お部屋でもトイレでも練習したし................落ち着いて、一言一言................)
................もう、昔の私とはバイバイするんだ。今からは新しい私に................
「では次の人、お願いします。」
「は、はい、っ................」
弾かれたように立ち上がると、教室中の視線が私に集まる。
「あ、あのっ、わたし、はっ................四条 磨穂呂、と、言います。................菊花、です。得意なこと、は、................と、とくに、ない、です。よ、よろし、く、お願い、します。」
それだけ言うのが精一杯で、すぐに椅子へと崩れるように座る。
(や、やっぱり出来なかった........................)
顔を覆って泣きたい気持ちを押さえ込んで、顔を上げる。教室の空気は、私のことなんてもう忘れて次の人の自己紹介を待っている。
(........................緊張しやすいとか、あがり症ならまだ良かったのに................)
私の抱える悩み、それは........................上手く話せないこと。よく吃音症って言われるもの。
(........................これじゃ、友達なんてできないよ................)
生まれ育った地元を離れて、一人でこの街に来た。みんなと一緒の中学に行くのが怖くて、他から来る新しい人とも馴染めるか分からなくて................そんな私を変えたくて、何一つ知らないこの街の中学生になった。................男の子のいない学校ならからかわれないし、友達も出来るって思ったのに................
(................失敗、しちゃった................)
今からでもパパとママのところに帰りたい................でもそんなんじゃダメだって分かってるし、それに................強く、ならなくちゃ................私はみんなとは違うんだから、みんなと同じように話せるようにならないと................
ふと気がつくと、ホームルームの時間はもう終わってみんな帰り支度を始めてる。
(................みんなの自己紹介、聞きそびれちゃったな................)
前半は自分の自己紹介に備えるので。後半は「やっちゃった」っていう後悔で........................。
(........................とりあえず、私も帰ろっかな................)
帰っても誰もいない空っぽの部屋だけど、それでも一人になれるから................
横にかけたカバンを取ろうとして目線を上げると................前の人の視線とぶつかる。
「........................ひっ!?」
思わず小さな悲鳴を上げるけど、私に向けられたその視線はずっと固定されたまま。................そっか、私の後ろにあるものを見てるのかな................と半身をずらすけど、今度はその視線が追いかけてくる。
(な、なんなのこの人................)
思い切って、頭の中で言葉を組み立てて口を開いた。
「あ、の、................私に、何か、ご用、です、か........................?」
途端に視線の主は、合わせていた視線をずらす。................よ、良かった................見つめられるの、苦手だから........................。
「................ごめんなさい、あなたの事が気になって................」
「私の、こと................?」
................こんな喋り方だし、それに................他の子より、大きいから、かな................?
「................その、四条さん、だよね?私は椎原 樹。よろしくね。」
「しいはら、さん................」
................名前順だから私の前なんだ................。
「その................私ね、気になったものがあるとじっと見つめるクセがあって................ごめんね、嫌だった?」
「い、いえ、大丈夫、です...............」
........................か、変わった人、なのかな................?
「................実は初めて見た時、スラっとしてて綺麗だなぁって思ったの。だけどさっきの自己紹介がよく聞こえなくて................だからもう一回聞かせて欲しいなって。」
「あっ、それ私もききたーい!!」
今度は私の真後ろから声が飛んでくる。
「えっと、確か篠原さんだっけ?」
「ヤチルでいーよー。」
私を挟んで椎原さんとの会話が続く。
「................ごめん、じゃあ二人分まとめて自己紹介してもらっていい?」
も、もう一度やるの........................!?
「えっと、あの、そのっ、................あ、あう、し、四条................磨穂呂、です........................」
私の頭がオーバーヒートしていく。つ、次は何を話せば..................そ、そうだっ................
私はポケットからメモを取り出して、二人の前に置く。怪訝な顔をする二人に向かって、また言葉を組み立てる。
「その、うまく、話せない、から........こ、これ................自己紹介、の、下書き................」
それだけ言って、また視線を伏せる。................へ、変な人って、思われちゃったかな................
恐る恐る顔を戻すと、二人と視線がぶつかる。
「................四条さんってさ。」
「は、はいっ!?」
「................字、キレイだね。すっごく読みやすいよ。」
「そうそう。ほんとにこれ下書きなの?」
「う、うん、................」
................あれ?................思ってたのと、違う........................?
「それにさ、身長も高いし、私たちと同じ中学生には見えないよー。」
と、篠原さんが混ぜっかえす。................もしかしたら。
私は、ずっと溜め込んできた勇気の定期預金を全額引き出した。
「あ、あのっ................二人、とも................私と、友達に、なって、くれますか。」
................こんな時でも、私の吃音は付きまとってきて................せっかく下ろした勇気もほとんど無駄になっちゃって........................さっきはこらえ切れた涙が、今度は堰を超えてこぼれ出す。
「........................いいよ。」
「........................ふぇっ!?」
「................てか、友達になるのにそんな大袈裟なことする必要はないと思うよ。................私は四条さんのこと気になるし。」
................前のは篠原さんで、後のは椎原さん。
「ほ、ほんと、に................?」
「任しときなっ。私はあんまりウソはつかない。」
「................そこは、絶対に、とかしといた方がいいんじゃない?」
「よ、よかった........................」
私の物語は、今から新しいページが始まる。