丘から街を見下ろしてみた
「ロック先輩、なんでこんなに運転うまいんですか⁈」
「伯父さんの自動車整備工場に整備終了した車の試運転用コースがあって。小学校の時からそこで運転させてもらってたから」
「小学校から‼︎」
「まあ、年季が違うよ」
加瀬ちゃんにちょっといいものを見せようと思った。
「ちょっと白蓮山登ろっか」
わたしはアクセルを踏み込み、標高200メートル余りの山道へ差し掛かる。奥深い山じゃなくって、頂上にはお洒落なカフェレストランが建つ、街中にある丘のような山。
「うー、がんばれがんばれ」
わたしはこのほとんど廃車寸前の愛車に掛け声をかける。エンジンが唸り、急勾配の丘をうわんうわんと駆け上る。
「お、見えてきた」
展望台の駐車場に頭から突っ込んで車を停め、低い柵のところまで2人で歩く。
「先輩。きれい・・・」
「うん」
夕暮れ間近の柔らかな陽光がわたしたちを差す。この丘から見下ろす街の景色が陽の色によって刻々と変わる。
「先輩、あれですね。結成の宣言でも叫びますか」
「えー。そんな青臭い」
「だって、わたしたちまだ青春ですよ」
「じゃあ、何て言う?」
「え、とですね・・・」
2人だけなのに加瀬ちゃんはひそひそ声でわたしに囁く。うん、うんとわたしが頷き、大きく息を吸った。
「やるぞ、やるぞ、やってやるぞーっ‼︎」
言ってしまってちょっとわたしが照れていると、加瀬ちゃんが抱きついてきた。
「ちょ、加瀬ちゃん・・・」
「ロック先輩、ほんとに、やりましょうね」
「う、うん・・・もちろん」
「わたしには、ロックしか・・・バンドしかないんです・・・」
「うん・・・」
わたしはそっと加瀬ちゃんの髪をぽんぽんと撫でてあげた。