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加瀬ちゃんへの罪滅ぼし

そんなわけで運転免許と中古のバンを手に入れたわたしは、森っシーとのカーチェイスの後、よしやのおばちゃんに頼んで駐車場に車を停めさせてもらった。


「ロック先輩‼︎」

「おー、加瀬ちゃん」

「これですか、先輩の愛車は?」

「うん。ちょっと年季入ってるけど、快適だよ。車内も広いし」

「うーん、確かに。あれですね、建設現場に作業員を連れて行くバンみたいですね」

「まあ、否定はしない。それよりさ、なんとか加瀬ちゃんへの罪滅ぼしをしないといけないからさ。今日から頑張るよ」

「ロック先輩。もうそんなの気にしないでください。たまたま森っシーっていう非常識な教師と巡り合ったのが不幸だったってだけですから。それに、わたしあのバンドもいい加減やめたいって思ってたので」

「でもやっぱり悪いよ。人気のあるバンドだったのに」

「いいえ。やっぱり男子がいるとダメですね。結局わたしを『紅一点』みたいな扱いにしかしないですから」

「まあ、それは加瀬ちゃんの容姿ルックスが評価されてたってことでしょ」

「わたしはそんなの嫌なんですよ。純粋に実力で勝負したいですから。それで、スカウト活動はどうですか?」

「まあ、まだ道端で10人ぐらいに声かけただけだけど・・・でも、1人すごいいい感じの子を見つけたよ」

「へえ。どんな子ですか?」

「スカート穿いてクロスバイクに乗っててさ。ショートで浅黒で、小柄でさ」

「あ、それ、チャイだ」

「チャイ?」

「はい。わたしと同じ2年なんですけど、アジアの辺の甘い飲み物にチャイってあるんですけど。いつもそれを水筒に入れて持ってきてるんでチャイってあだ名で」

「へえ」

「ただ、どうかなあ。バンドとか興味あるかなあ」

「何? スポーツ一筋みたいな子なの?」

「いいえ。その逆ですよ。母親が日本舞踊の先生で、その子は跡取りとしての英才教育を受けてますから」

「あれ、意外。でも多分興味はあるんじゃない?」

「え?」

「だってその子、チャイ飲むなんてなんだか日本的伝統文化への反発なんじゃないの?」

「ああ、なるほど」

「スカート穿いてクロスバイクも日本舞踊の師匠からみたら反抗的でしょ」

「言われてみればそうですね。まあ、舞踊の練習があるとか言って部活も入ってないですけど、かなりシュッとして切れ味鋭い子、っていうイメージはありますからね」

「うん。第1印象でだけど、あの子はヴォーカルかな、って」

「え。でも、ロック先輩がギター・ヴォーカルじゃなくっていいんですか?」

「うん。特にこだわりはないよ。バンドとしての出来上がりが問題なんであって、わたしがどういう役割を果たすかっていうのは二の次」

「大人ですねえ」

「ううん。そうじゃなくって、最後に爆発するためには我慢して我慢してマグマのエネルギーを溜め込むだけの覚悟があるってだけだよ。わたしにはバンドを通じてやりたいことがあるからね」

「それってまだ教えてもらえないんですか?」

「うん、ごめんね。加瀬ちゃんのことはとっても信頼してるけど、最後の最後にサプライズをやりたいってわたしのわがままにもうちょっとだけ付き合ってよ」

「了解ですよ。じゃあ、ロック先輩がギター、わたしがベース、まあチャイをヴォーカル候補として、ドラムは?」

「そこなんだよねえ。素人じゃ正直難しいとは思うんだけどさあ」

「やっぱりライブハウスで募集かけてみますか」

「それで男が入ってこないならいいけどさ。なかなか女子のドラムってみつけらんないよ」

「うーん。難問ですねえ」

「まあ、もうちょっと学外で無差別に声かけてみるよ」

「先輩は今日はこれから?」

「うん。一応塚ちゃんの所に顔出して、森っシーはまあほっといていいや。もしその後でよければ車で送ってくよ?」

「わあ、ありがとうございます。でも、ちょっとスリル」

「え?」

「だって、初心者マークでいきなりこんな大きな車でしょう? いくらロック先輩でもちょっとだけ心配」

「まあ、大船に乗ったつもりでご乗車くださいよ、加瀬ちゃん」


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