3 シルヴィン登場
「ルーヴェル、ありがとう。もう大丈夫だ」
頭に置かれていた手を軽く二度叩きアールファレムは大きく溜め息をつき、目を閉じた。しばらくして目を開けた時には、冷静さを取り戻していた。
「アルス、直ちに将軍を全員召集しろ」
「……シルヴィンもですか?」
「当然だろう、討伐軍の総大将になってもらう」
「承知しました。すぐに使者を出します」
アルスラーダの退室を見届けると、ルーヴェルは口を開いた。
「シルヴィンに弟を殺せるとお思いですか?」
「ああ。まったく躊躇せんだろうよ」
「アルス以外の事なら分かるんですね」
「……そこに話を戻さないでくれ」
「アルファ様が逃げていたから、あいつが暴走したんだと思いますよ」
「もう少し時間をくれないか」
「私から話してみます」
「いつもすまない」
「趣味でやっているんで、お気になさらず」
「……」
アールファレムは、今日何度目かわからない溜め息をついた。まだ受難の一日は始まったばかりである。
「シルヴィン様。カスパード様をお助けできませんか?」
家令は主人に訴えかけたがシルヴィンは首を振った。
「そんな見苦しい事ができるか。謀反人の家族として連座して責任を取らされるだけだ」
「まさか! 大将軍であるシルヴィン様に、陛下がその様な処分を下す訳がありません。カスパード様はきっと騙されたのです。シルヴィン様に見捨てられたらカスパード様は……」
泣き出した家令にうんざりとしたシルヴィンは退室を命じた。
「馬鹿もそれなりには役に立つ」
心底楽しそうに笑いながらシルヴィンは一人言を呟き、8年前の記憶を呼び戻した。