2 三人の幼なじみ
「この一大事に、アルファ様の悩み事を増やすな」
アールファレムの頭を撫でながら、ルーヴェルはアルスラーダを叱りつけた。
「宰相閣下の手を煩わせて申し訳ありません」
「嫌味な言い方をするな。兄さんと呼んでいた頃もあっただろう」
「何歳の時の話だ!」
アルスラーダもルーヴェル相手だと冷静な補佐官を演じきれず、子供の時の関係に戻されてしまう。
地方貴族のメフェウス・フォン・シュワーの嗣子として産まれたアールファレム。母親は体が大変弱く、産後は病に伏せた為、一週間前に誕生したアルスラーダの母親が乳母としてアールファレムにつけられた。
メフェウスの部下の息子のルーヴェル・フォン・リゲルは二人より五歳年上で、二人が産まれてから、今に至るまで兄代わりとして面倒を見てきた。勉強も、遊びも、いたずらも常に三人一緒で、年長のルーヴェルは二人の良き兄として常に見守っていた。
アールファレムが十四歳の時、父親の元を離れ、叔父の領地を引き継いだときにアルスラーダとルーヴェルは迷わずアールファレムに付き従った。叔父には子供がおらず、妻にも先立たれ、弟の息子のアールファレムに領地を譲り、病死した。もし叔父がアールファレムが本当は女だと知っていれば、結果は違っていたかもしれない。
その当時、ガルフォン地方は分裂し、大小貴族達が、小競り合いを繰り返していた。
アールファレムは用兵の才能を遺憾無く発揮し、統一の為に東奔西走した。傍らには常にアルスラーダが寄り添い、ルーヴェルが留守を守った。その中で配下も増え続け、僅か七年、二十歳でガルフォン帝国を興した。その容姿から獅子帝の異名で呼ばれ、将兵からは熱狂的な支持を受けた。民衆も百年近く続いた分裂時代を終結させた若き英雄に喝采を浴びせた。その治世は磐石と思われていたが、果たして……。