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1 カスパード謀反

初投稿です。拙い文章ですが、よろしくお願いします。

 フォルム暦153年ガルフォン暦2年、11月20日早朝、ガルフォン帝国帝都デルレイアに一つの凶報が届いた。

 早馬によってもたらされた凶報は、直ちに休暇中の皇帝補佐官アルスラーダの元へ届けられた。

 その日アルスラーダは昼から出仕する予定だった。あまりにも多忙な為、半日休暇をとるのがやっとなのだ。

 アルスラーダは黒い髪に黒い瞳とガルフォンではわりと珍しい組合わせだった。顔立ちは整っているのだが眉目秀麗というには、いかんせん目付きが悪過ぎた。長身のアルスラーダに睨まれば大抵の相手は怯んでしまう。自他共に厳しいが、主君である皇帝に対しては大甘になる。

 アルスラーダは無表情でその報せを聞き終えると、使者をさっさと帰し、誰もいなくなった部屋で声を出さずに笑いだした。待望の報せだったからだ。この報せを聞けば、皇帝がどんな顔になるか想像するだけで愉快になった。まず驚愕し、そして激怒するだろう。だが最後は満足するに違いなかった。

 アルスラーダは素早く身支度を済ませると、直ちに宮殿に向かう事にした。皇帝に報告する役目は他の誰でもなく、アルスラーダが行わなくてはならない。



 アルスラーダは皇帝の私室に到着すると、呼吸を整えて扉をノックした。


「失礼します。まさか、まだ朝食中とは思わなかったものですから」

「朝から嫌味を言うなよ。今、食べ終わったところだ。今日は昼過ぎになるのではなかったのか? せっかくの優雅な朝が台無しだ」


 勝手に真向かいに座り、女官にお茶を注文する図々しいアルスラーダに、皇帝アールファレムは嫌そうな表情を浮かべながら悪態をついた。


「まったく私がいないとすぐに怠けるのは、皇帝としてはいかがなものかと思いますがね」

「まさか私を油断させる為に嘘の予定を言ったのか! 補佐官すら信用出来ないとなると、人間不振になりそうだ」

「そんな馬鹿馬鹿しいことを私がする訳ないでしょう」


 真面目な顔してふざけるアールファレムを冷ややかな言葉で、ばっさり切り捨てると、用意されたお茶を一口啜り、人払いを命じた。


「朝の挨拶はこれぐらいにして、何があった?」


 急に口調を変えたアールファレムににっこり微笑みかけながら、先程の報告を簡潔に伝えた。


「カスパード将軍謀反」


 さらりと言ってのけて、主君の顔色の変化を楽しそうに眺めた。どのような表情をしてもアールファレムは美しい。肩より少し長い黄金色の髪は獅子を彷彿させる。白く彫りの深い顔に、溢れるばかりの活力にみちた蒼い瞳は見る者を魅了せずにはいられない。アールファレムは長い睫毛に縁取られた大きな目を見開き、アルスラーダを真っ直ぐ見据えた。


「お前が仕組んだのか?」


 アルスラーダを睨み付けるアールファレムの顔すら美しかった。予想通りの反応を示す主君に見惚れながらも、内心をおくびにも出さず、お茶を殊更ゆっくりと飲んだ。


「ご冗談を。何の為に私がそんな事をするのです」


 アルスラーダは刺すような視線を平然と受け止め、軽く笑ったが、アールファレムは机を強く叩きつけた。


「お前の行動は全て私の為だ。……そんな事は分かっている。他人を利用するなとは言わない。だがカスパードを、私の仲間を利用するな」

「仲間ではありません。ただの臣下に過ぎません。……アルファ様、私を更迭なさいますか?」

「つまり認めるのか?」


 どうせ隠し通せると思っていないアルスラーダは素直に認めた。


「アルファ様なら私をとめる事ができた筈です。ですがなさらなかった」

「……お前が私の命令を聞く筈ないだろう」

「私は忠実な臣下です」


 熱の込もった言葉にアールファレムは首を振った。


「お前とルーヴェルを臣下だと思ったことは一度もない。家族だと思っている」

「家族ね、そんな関係を私がいつ望みましたか?」


 アルスラーダは立ち上がりアールファレムの傍に近付いた。


「アルファ様、愛しています」


 硬直したアールファレムを椅子から引っ張りあげ、強く抱き締めた。


「私は男だ。産まれた時からそう決められた」


 泣きそうなアールファレムの頭を撫でながら、耳元で囁いた。


「貴女は女です。どれほど私があなたを愛しているか、まさか気付いてないとは言わせませんよ」


 アルスラーダが口付けしようとした時に扉が開いた。


「おはようございます。アルファ様」


 水色の髪をした優しげな青年が、人払いした筈の部屋に堂々と入ってきた。目の前の光景に驚きもせず、アルスラーダをアールファレムから引き剥がすと、力いっぱいアルスラーダの頭を殴りつけた。


「ルーヴェル!」


 アールファレムは心底ほっとしてルーヴェルに抱きついた。ルーヴェルは優しく受け止めると、アールファレムの頭を撫でた。髪と同じ水色の瞳は慈愛に満ち溢れ、アールファレムが落ち着くまで優しく背中を撫でた。


「安心して下さい。アルファ様。時と場所もわきまえない馬鹿な補佐官には、私がよく言って聞かせます」


 ルーヴェルにきつく睨み付けられ、流石にアルスラーダも自分の非を認め頭を下げた。


「申し訳ありません。アルファ様」

「いや私もびっくりしてしまって、すまなかった」


 アールファレムが謝ることは何もないのだが動揺している為、本人は気付かない。アルスラーダは名残惜しそうに椅子に戻り、座り直した。

 ルーヴェルはアルスラーダを睨み付けながら、アールファレムの椅子の後ろに立った。


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