不憫な白兎と憤怒の兎
『現在、転入生アリス・イスフィール、迎え兎ラピス・ホワイトは、星の森にて遭難しました。
探索人にロビン・ムーンを派遣します。至急、向かいなさい』
廊下に設置されたスピーカーから合成された無機質な声が響く。それは人ではなく機械が奏で出しているものだから、ところどころアクセントがおかしい。
だが、重要なのはそこではなく内容。アリスとラピスが遭難したと告げるものである。
それを聞き反応した薄い黄色の耳がピクリと動く。そしてだんだん小刻みに震えだした。
「はぁ?」
驚くほど低い声が耳の持ち主から発せられる。女なのに男のように低い声が出たことに本人も少なからず驚く。
彼女の名前はロビン・ムーン。探索にかり出された張本人だ。
そう、小刻みに震えだしたのは寒いからでも低血糖からでもお腹が空いたからでもなく、"怒り"からである。
バキィッと派手な音がしてロビンの手の中にあった太めの万年筆が折れる。つづいてメリッと机に蜘蛛の巣状のヒビが入った。
「真白ぉ、案内出来ひんかったんかぁ?アリスが来る言うて張り切っとったのにぃ?ウチが星の森に行くんか。仕事中なんやけど?これで損失が出て給料減ったらなにしてやろか…」
三月ウサギ。通り名は『憤怒の狂鬼神』。
額に無数の青筋をたてたロビンはラピスを呪うように文句を言った。
「さっさとすませて帰るでぇ、真白ぉっ!!」
城の中に轟いた怒声は他の人達をビビらせた。
一方、森の中にいたラピスには、得たいの知れない悪寒が走り、くしゃみが止まらなくという呪いのようなことが起こっていた。